ポアンカレ予想の証明の話は疑わしい。その過程で出てきた「リッチフロー方程式」、
∂/∂t g_ik = -2 R_ik
に騙されてはいけない。右辺は2階微分に類するリッチテンソルで、それが左辺の g_ik 自身の時間微分、計量の1階微分で、 それらを等号で結ぶことの特別な意味はないと思われる。一般に計量の1階微分は重力などの物理量となるものだが、2階微分は、 一般相対論の「重力方程式」では質量にあたるような計量とは異質なものに等しいとされることで物理的意味を与える。 ところが、この式は両辺ともに計量の式であることに注意をすべきである。
左辺は、右辺の何なのか。右辺はリーマンの4階曲率テンソルを縮約した2階のリッチー曲率テンソルである。その式は厳密に知られていて、 左辺は計量の単純な時間微分である。そこでなぜ、時間だけの微分なのか、計量の式では当然、時間と空間は、添字0〜3(このとき0が時間) 又は1〜4(このとき、4が時間)で示すもので、時間を特別に扱うことは普通ない。勿論、式の意味を端的に示すために時間であることを 強調して示すことはあるが、原理的な式にはあまり行われない。左辺は、∂/∂j g_ik とすべきである。そしてjは4のときだけ有効な 式は避ける。左辺は、その特別に例外的な時間微分を示している。それゆえ、まずは式の書式的に疑わしい。
そして右辺は2階の微分に類するリッチーテンソルであり、これをほとんどそのまま使用してアインシュタインは、「重力方程式」の アインシュタインテンソル G_ik= R_ik - 1/2 g_ik R を作成した。第2の項は、4元発散を0とする。そして、これがそのままT_ik という、エネルギー運動量テンソルと等しいと置いて G_ik= T_ik で物質の分布から計量 g_ik を求める式となった。これは、時間と空間においての2階微分の和が物質密度 ρ である、質量密度をいれた ダランベール方程式 □φ=ρ を踏襲している。全ての波が満たす波動方程式は、ここに計量の満たす波動方程式として与えられ、物質密度 ρ に対応するのが、10元の エネルギー運動量テンソルである。こう計量は物質と関係を保持し、これがアインシュタインの重力方程式に物理的意味を与えた。 「計量を物理量にした」といわれる所以である。
上式は、左辺は右辺の近似なのか? それもあり得ない。2階微分を1階微分で近似することは、性質が異なるため単純すぎると思われる。
左辺と右辺とを等号で結合することは、何か物理的意味を持たせるのだろうか。しかし、この式の両辺とも、計量 g_ik だけを変数と する式であり、それ以外の何者も使用されていない。上式は両辺ともに計量の式であり、それ以外の要素をもたない。計量を限定する 以外にこの式に意味はない。この強い制限は、物質と関係なしに計量の値を定めるだろう。
この式は、物理的意味をもたず、その数学的意味は、誤りであろう。
この式には g_ik= 0 という特解がある。宇宙項を導入した重力方程式の物質密度が0のときと同じく、時計も物差しも存在しないという解である。