時間計量の変動

片山泰男(Yasuo Katayama)
Jan. 24 2011

ds^2= g_ik dx^i dx^k は、速度による時空の交差がなければ、
ds^2= g_00 dt^2 + g_ik dx^i dx^kにでき、方向を合わせれば、
ds^2= g_00 dt^2 + g_11 dx^2 + g_22 dy^2 + g_33 dz^2 にできる。
(dx^i は、i=0が時間、i=1-3が空間の微小変位) ピタゴラスの直角3角形の式(cが斜辺 c^2= a^2 + b^2)が又はユークリッド距離が剛体回転の式 であるように、物体の一般座標変換の式である。ある時空点の時空間隔 dx^i の2次同次式と g_ik の積和が不変量 ds^2 である。そこで、g_ik は、物差しのサイズ、時計の速さとの関係を表す。x^2 + 4y^2= 1 がy方向に1/2に短い楕円のように、この式は、g_ik の大きい方向への短縮を 表し、時間の係数 -g00 も大きいことが小さい時間間隔、高速な動きに対応する。

平坦時空からみた遠方の計量 g_ik とそこの物体の大きさの関係を示す g_ik はその時空点の時空間隔 dx^i を平坦時空の物体に戻すための係数 であり、空間計量 g_ii(i=1〜3)は、√g_ii がその時空点の物差しのサイズに反比例し、時間計量 g_00は、その時空点の時間経過が、√-g_00 に 比例する。大きな g_ii は、物差しが詰まる短縮に対応し、大きな-g_00は、経時間隔の短縮(時間経過の高速)に対応する。その時空点の光速は、 時間経過速度と物差しのサイズに比例し ds=0 を代入して c(i)=√(-g_00/g_ii) である。

時間計量(ポテンシャル)の違う時空点からの光は、発した周波数と異なる周波数で到着する。ポテンシャルの低い、高度の低い地点からの光は、 上方の地点で受けると赤方偏移する。これが連続して起きるためには、光を発した下方の時間経過が遅くなければならない。光の周波数が下方 の時間経過 √-g_00 に比例しなければ、光の波数に過不足を起こすだろう。それに対して、空間計量の違う時空点から来る光は、時空点の空間 計量に合わせて波長を伸縮すると考える。なぜなら、光は、局所で違って存在できない。少なくとも光速は、通過する時空点の計量に合わせて 変わる。光や電波は連続して来るためには時間計量の違いに合わせて出発点と違う周波数で到達する。そのことは、出発点の時間経過の影響の 保存であり痕跡を残すが、空間計量は全く保存しない。そうでなければ、どこからきた光かによって光速が違ってしまう。各時空点の時間計量 が光の出発点の時間計量との比を周波数比によって示す。光は、周波数によって時間計量を保存するが、波長によって空間計量を保存しない。


例えば、アインシュタイン宇宙やド・ジッター宇宙の辺縁部では、その方向の空間計量が大きく物体の奥行きが薄くなっている。そのような宇 宙の果てからの光は、我々のいる中心の場所にくると、この場所の空間計量に合わせて伸びると考える。光子に長さはないが、光の波長が伸び ると考えるのである。膨張宇宙においても、初期宇宙で宇宙の果ての宇宙背景輻射は、ドップラー効果によって約1000倍に赤方偏移していると される。その後退速度は、光速と100万分の1しか違わない。そして、奥行きは約500分の1にローレンツ短縮している(*)。その光の出発点の短縮 した波長は保存されず、ここに来れば他の光と光速が等しいため、取るべき周波数に合わせて、波長が伸びると考えられる。この時間経過の保 存と空間計量の破棄は、背景輻射など遠方からきたとされる光速か波長測定によって、実証又は反証可能であろう。局所の光速の均一性のため に、発光場所の時間計量は影響を保存し、空間計量については破棄される。

(*)膨張宇宙の背景輻射の発生場所にローレンツ短縮を使うことには疑問が残る。フリードマン宇宙では、初期宇宙の時間計量は現在と変わらな いが、空間計量が小さい。これが膨張を表すか、縮小宇宙の計量ではないかという問題をさておけば、赤方偏移を後退速度によるドップラー効 果とするときに特殊相対論のドップラー効果を使っている。それゆえ、特殊相対論のローレンツ短縮を使うのも許されよう。ローレンツ短縮で は奥行きは短くなるが、空間計量が小さいことからは、速度の効果を無くせば奥行きは大きいという逆の結論に導くこともできそうだ。


計量は時空の関数であるのに、時間計量の時間変化を考えることはされない。膨張宇宙も赤方偏移の原因を空間計量の変化からくる後退による ドップラー効果とみて、時間計量の時間変化とみない。これの理由は、時間計量の変化を扱いたくないからであろう。アインシュタインは、 "相対論の意味" の"第2版への附録"の"まとめとその他の注意" の(5)で、時間計量の変化を局所の時計の否定であり、特殊相対論さえも否定す ることになると述べた。過去の時間経過が現在と違うことは、時間が何のなかで速度を変えるのだろうか。時間が時間の恒等関数以外の関数で なければ、そこに微分係数が1以外ということはない。時間の時間による関数という概念は自己矛盾であり、2重の時間の設定のようにみえる。 確かに過去の時間経過の違いの確認は、実行可能性が疑がわれる。過去の時間を現在の時間のそばに持ってきて比較するのは、遠方の物差しを もって来て近くの物差しと比較するようにはいかないだろう。

しかし、空間計量の違いは、物差しを移動して来ても違いを見付けることはできない。空間の短縮や伸長は、光の波長もその例外ではない物差 しを含めた全ての物体を、ポアンカレの寓話宇宙のように、物体がそこに移動するだけで伸縮させるからである。そして、時間計量の変化は時 間の時間による関数ではなく、過去の時間の現在の時間の目盛の延長による測定であると考えられる。現在の時間経過と過去の時間経過との検 証は、過去の時間経過を現在の時計で比較することであり、遠方過去からの光の赤方偏移は、時間計量の差と考えることができる。つまり光は、 まさに過去の時間経過を現在の時間経過の側に直接に持ってきているのかもしれない。そのことは、遠方空間の物差しを物差しを遠方に延長し て測ることで遠方の物体の大きさの短縮/伸長をいうのと同じである。上述のように、光が時間計量の差を保存して空間計量を保存しないなら、 赤方偏移は空間計量の違いによる説明よりも、ポテンシャルの違いと考えることが最もストレートな解釈としてあり得るのである。


時間計量の変化を考えさせないのは、時間計量の時間変化がエネルギー保存を崩すことが理由としてある。ポテンシャルの時間変化は、そこに 存在する質量のエネルギーを変化させるが、このことは経験から遠く感じるからである。しかし、慣性系の移動は、質量エネルギーを変化させ るが、一般座標系は、慣性系の乗り換える系も含むだろう。宇宙の時間変化では、エネルギーの非保存は、さほど重大な違反ではない。例えば、 質点が初速をもって四散するニュートン的膨張宇宙は、最初の瞬間に無限エネルギーを必要とすることを除けば普通の物理であり、エネルギー の保存にみえるが、そこには質量分布が疎らになっていくポテンシャルの時間的上昇つまり、質量エネルギーの時間的な増大が存在する。その 分、大質量の天体の減速が全体のエネルギーを不変に保つのである。また、宇宙項Λは、空間が質量を押し広げ加速させるからエネルギー保存 を崩すだろう。そして、初期宇宙のインフレーション期のスカラーポテンシャルでの説明には質量エネルギーの保存はないであろう。

それゆえ、時間計量の時間変化がエネルギー保存を崩すという理由によってそれを排除できない。ニュートンポテンシャルが重力を生む原因で ある場所による時間経過の違い(空間変化)を認め、時間変化を認めないのは、移動する時空点が時計を持てないというに等しい。我々は、時計 をもって空間を移動して時間計量の違う場所へ移動できる。双子の弟が時計を持てないとすると特殊相対論の双子のパラドックスは、表現さえ もできない。微小な物体も内部に時計を持つ。場所によって時間経過が異なることを認め、時空点を移動する座標系を認めるなら、時間計量の 時間変化も認めるべきである。例えば、天体から速度をもって離れて行く彗星のような軌道をもつ時空点の座標系は、速度がポテンシャルの空 間微分を時間微分にする。太陽の近傍での加速は、太陽から遠方での加速よりも効果的であることはニュートン力学においても有効な推進方法 だが、そこでの時間経過の違いは、太陽系のような弱い重力においても測定可能な時間経過の時間変化を示すだろう。

宇宙解と重力波において、ポテンシャル(時間計量)の変動は排除されている。質点の周囲においては、g_00だけがミンコフスキー時空の標準値 からの違いが他の空間計量よりも大きく、そして、時間計量だけがニュートン力学の重力ポテンシャルに直接の対応ををもち、計量の成分のな かで最重要な成分であり、確認され既にGPSなどに実用化された確かさをもつ。それに対して空間計量は時間計量よりも不確かな実証性しかもた ないように思える。宇宙解は、空間計量の変動の証拠と考える人がいるかもしれないが、空間計量の変動としての重力波は、現在、未確定なが ら、当然検出されてよい規模の天体現象と高精度の検出器において検出されていないように思える。


スカラーポテンシャルの波

もしも、時間計量の変動が重力波としてあるなら、空間計量の波と比べて測定が容易であろう。遠方からの波の周波数の変動によって遠方と局所 のポテンシャル差の変動を知ることができるだろう。また、局所から発した波とそれを離れた場所で反射した光との干渉によって時間差をもつ時 空点の時間計量の時間的変動をみることができるだろう。これを考えるのに、重力の単純な模型である電磁気では、電場、磁場、スカラーポテン シャルΦ、ベクトルポテンシャルAも波動方程式をもち、電場Eは、スカラーポテンシャルΦの勾配だけでなく、ベクトルポテンシャルAの時間微分 でもあり得たことを参考にする。

E= -gradΦ - dA/dt

両辺の div をとり、

ρ= divE = -div(grad Φ) - div(dA/dt) = -∇^2 Φ - d/dt (div A)

これにローレンツゲージ divA = -dA/dt を使い、□Φ= -ρ。つまり、Φは、波動方程式を持ち得る、これが電磁波の存在の元である。 これになしに電場、磁場の波動方程式もあり得ないだろう。

重力波は、空間計量の微小変動の波であり、進行方向に垂直な2方向の伸縮の横波とされるが、重力ポテンシャルΦの変動が波動になれないわけ ではない。計量テンソルの場は、ベクトル場によって近似される。□Φ= -ρ に対応するのは、"場の古典論" では、R_ik の式 (100.4) である。 R_ik= -1/2 □h_ik 真空の場の方程式は、g_ik の微小変動分、h_ik の波動方程式、□h^k_i= 0 (100.8) である。この式の段階で h^0_0 を=0 にすることはしない。章100の重力波p.361ではその後にh^0_0= 0とする。それは、x-ct の関数としてのhがx-ctに依らないとした場合に、h^0_0 を0にできるというだけである。つまり、ポテンシャルの波が存在できないのではなく、光速の座標系ではポテンシャルのない波が存在できると いうだけである。つまり、□h^0_0 =0 の波が光速とは異なる普通の座標系では存在するかもしれない。h^0_0 は、波動方程式をもつのである。光 速の系でも h^0_0 の波はあり得る。


ニュートン力学では重力ポテンシャルも、真空中のラプラス方程式ΔΦ= 0と、物質密度ρのあるときのポアソン方程式 ΔΦ= ρが成立すが、 ΔΦ=ρは、ローレンツ変換に不変でなく、□Φ=ρがローレンツ不変である。静止場のポテンシャルの満たす方程式、物体の静止系のポアソン 方程式、ΔΦ= ρ:∂^2Φ/∂x^2 + ∂^2Φ/∂y^2 + ∂^2Φ/∂z^2= ρは、静止場ではΦの時間変動=0 のため、式にΦの時間変動をどう組み 入れるかを示さないが、もしかすると、ΔΦ= ρを満たすようにみえるポテンシャルは自動的に、平坦な時空の中での弱い重力近似では電磁気 のポテンシャルと同じくローレンツ変換を満たし、より強い制限である波動方程式 □Φ=ρ を満たすかもしれない。

ΔΦ= 0 がローレンツ不変でない確認をする前に、これがローレンツ変換でなく、ガリレオ変換であるなら、ΔΦ= 0 は、そして波動方程式 □Φ= 0 は、どうなるのかを考えよう。

x'= x - vt
t'= t

は、 dx'= dx, dt'= dt であり、

∂Φ/∂x'= ∂Φ/∂x かつ、∂Φ/∂t'= ∂Φ/∂t

である。これらをもう一度微分した、

∂^2Φ/∂x'^2= ∂^2Φ/∂x^2 も容易に理解でき、∂^2Φ/∂t'^2= ∂^2Φ/∂t^2 である。 それゆえ、ΔΦ= ρ と □Φ= ρ も、ガリレオ変換に不変である。


Φが進行方向xに垂直な振幅をもつ波のように、Φがローレンツ変換で変化しないとする。物体の静止K系で、x方向に光速単位速度 vをもった K'系からみた時空間xとtはローレンツ変換によって、

x'= γ(x - vt)
t'= γ(t - vx)
y'= y, z'= z

このとき微分dxとdx'との大小関係は、dx'= γ(dx - v dt) からの ∂x'/∂x = γ は、K系でdt=0を伴う偏微分であり、K'系での偏微分は そうでない。K'系の偏微分 ∂x/∂x'には dt'= 0 を伴う。dxは空間短縮し、逆向きの ∂x/∂x'= γ である。 dt'= 0 から、dt= v dxをいれて、dx'= γ(dx - v(v dx))= γdx (1-v^2) = 1/γ dx ----- (1) 。 Φの空間微分は、∂Φ/∂x'= ∂Φ/∂x (∂x/∂x') = γ ∂Φ/∂x。さらに2階微分は、∂^2Φ/∂x'^2= γ^2 ∂^2Φ/∂x^2。空間短縮に よってΦの2階微分は、γ^2 倍に大きくなり、ラプラス方程式の係数は、1/γ^2 倍に小さくないといけない。つまり、ラプラス方程式は、 ローレンツ変換に耐えない(共変でない)。さて、□Φ= ρは、∂Φ/∂tがどう変換されるかだが、(1)と同様に時間の大小関係も、 dx'= 0 から、dx= v dt、dt'= 1/γ dt。K' 系の1点では(時計の遅れとは逆に) K系の時間が短縮するので、 ∂Φ/∂t'= 1/γ ∂Φ/∂t、∂^2Φ/∂t'^2= 1/γ^2 ∂^2Φ/∂t^2


∂^2Φ/∂x^2 = 1/γ^2 (∂^2Φ/∂x'^2 + 1/v^2 ∂^2Φ/∂t^2)。これをΔΦ= 0 に代入して、
1/γ^2 ∂^2Φ/∂x'^2 + ∂^2Φ/∂y'^2 + ∂^2Φ/∂z'^2 + 1/(γv)^2 ∂^2Φ/∂t'^2 = 0

この式は、K'系ではx方向にγ倍に短縮があり、時間も変わるが、2階時間微分をもつ波動方程式である。物体静止系では∂^2Φ/∂t^2= 0 だから、ΔΦ= 0 に、∂^2Φ/∂t^2 がどう関るかを示さないが、上の結果は、ΔΦ= 0 に ∂^2Φ/∂t^2 が関係なくても他の系で時間の2 階微分が関係することを示す。ただしこれは、Φの任意の波形が速度 +-v で伝播する波動方程式である。速度vの系と元の物体静止系とは 違う式になるから特殊相対性原理を満たさない。つまり、ΔΦ= 0 は、ローレンツ共変でなく、物体静止座標だけに成立し他の系では速度 vに依存する。相対性原理を満たすにはΦがローレンツ変換によって変化し、ベクトルポテンシャルの存在も必要なのであろう。

重力ポテンシャルを、電磁ポテンシャルと同様に、ΦとAによって構成される4元ベクトル(Φ, Ax, Ay, Az)と考え、ポテンシャルのローレン ツ変換は、時空のローレンツ変換と同様に K系のポテンシャルをK'系からみると、

Ax'= γ(Ax - vΦ)
Φ'= γ(Φ - vAx)

物体が静止する系Kで Ax= 0 とすると、

Ax'= -vγΦ
Φ'= γΦ

K'系ではスカラーポテンシャルΦ'は、γ倍になり、ベクトルポテンシャル Ax' が速度vに比例して存在する。


Φ= γ(Φ' + v Ax')
dΦ/dx= γ(dΦ'/dx + v dAx'/dx + dv/dx Ax')
dΦ/dx= γ(dΦ'/dx + dAx'/dt + dv/dx Ax')
dΦ/dx= γ(dΦ'/dx + dAx'/dt )

dΦ/dy= γ dΦ'/dy
dΦ/dz= γ dΦ'/dz

d^2Φ/dx^2= γ^2(d^2Φ'/dx^2 + d^2Ax'/dt^2)
d^2Φ/dy^2= γ^2 d^2Φ'/dy^2
d^2Φ/dz^2= γ^2 d^2Φ'/dz^2

dx= γ(dx' + v dt')
dx^2= γ^2 (dx'^2 + v^2 dt'^2)

1/γ^2 ∂^2Φ/∂x'^2 + 1/(γv)^2 ∂^2Φ/∂t'^2 = 0
∂^2(Φ'+ v Ax')/∂x'^2 + 1/v^2 ∂^2(Φ'+ v Ax')/∂t'^2 = 0

∂^2Φ'/∂x'^2 + v^2 ∂^2Ax'/∂x'^2
+ 1/v^2 ∂^2Φ'/∂t'^2
+ ∂^2 Ax'/∂t'^2 = 0