ジャイアント・インパクト説

Nov. 26 2019
片山 泰男 (Yasuo Katayama)

戻る∧

なぜ、月生成のジャイアント・インパクト説を否定するか。月の石の組成が地球の地殻に近いことの説明のためだけに、未知の惑星の巨大衝突と月上昇を使う。 傍証はなく、新たな証拠を何も導かない。世界が奇跡的な確率でできたという考えは、奇跡的にしか正しくない。

目次
1.ジャイアント・インパクト説
2. 静穏の証拠と海王星と冥王星の例
3. 月の上昇
4. 月と地球の不思議な現象
5. ベイズの定理:事後確率
6. 月の公転は太陽自転と尽数関係にある


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

1. ジャイアント・インパクト説

1970年代の後半、一般を対象にする科学雑誌サイエンス(米国サイエンティフィック・アメリカン)誌は、衝撃的な図を表紙に載せ人目を引いた。 現在のような青い地球と未知の惑星の衝突図である。昔、読んだ、ジーンズ James Hopwood Jeans(1877-1946) の恒星衝突による太陽系生成説 を思い出し、いつの時代にもこのような衝撃起源をいう人がいると思った。アポロ計画がもたらした"月の石"と地球の地殻の成分(玄武岩)との 類似を説明するこれは、月生成の新説だった。

この説は、ある時期に火星大の未知の惑星が地球に大衝突して、月ができたという。月が地球の衛星としては大き過ぎ、月が鉄のコアを持たず、 月の岩石の組成が地球のマントルの組成と等しく、月の比重が小さいことを説明するにはこの説が有効だった。では、その惑星は、どこから来て、 どこに行ったのか? ティティウス・ボーデの法則からみると、小惑星帯に惑星が存在してよいことを示すが、そこは、惑星が形成出来なかったのか、 それとも過去に惑星があって何かの原因で破壊したのか不明である。小惑星は熱を受けていない炭素質コンドライトだから、前者の可能性が高いが、 小惑星の総質量は惑星には到底及ばない程度の量でしかない。それが、地球に向かってきて地球から月を放り出したという、衝突をした惑星だろうか。

しかし、現在の月の軌道面(白道)は、太陽系の諸惑星の軌道面(黄道)に近い(*)。地球に衝突した天体は、(存在しないか)少なくとも太陽系外起源ではないだろう。 太陽系外からの衝撃が原因なら、月の軌道面を太陽系天体のそれとは違うものにする。太陽系内に求めると、太陽系の惑星のどれかがなぜか大きく 移動してきて地球に衝突したとするのだが、惑星がありそうな場所にないのは小惑星帯である。地球軌道のラグランジェ点 L4, L5 から来たという説は、 同じ軌道に複数の惑星ができた例がないし、L4, L5 はそこから移動しない点である。そして、地球に衝突した惑星は、地球と一体化したのか、どうなったのか(*)。 つまり、衝突惑星の去来の不明、そして非常に稀にしか起らない天体衝突事件の確率の問題がある。

太陽系の惑星形成において地球と同時に月も形成されたという"兄弟説"より問題が少ないのか。同時形成において衛星の組成がその兄の惑星の組成より 軽いのは自然である。月の軌道面は太陽系の軌道面に近く、円形に近い軌道をもつ。衝突による形成では、放出された月が最初から形をなしていれば 長い楕円軌道を描くだろう。それが完全に破壊された円盤から再び集結しなければ円形軌道を持たないだろう。また、衝突説では月軌道は地球の近くから 徐々に登っていったとし、現在も月は登っているというが、一般に天体は運動を失って地球に近付くのと逆方向の現象である。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

2. 静穏の証拠と海王星と冥王星の例

地球と月の天体配置は、太陽系形成に伴う形成を表し、衝突説の理由はない。巨大衝突があれば乱れるだろう、幾つかの天体の特性、

(1) 月の公転軌道(白道は黄道との傾斜が小さい(5度9'))、
(2) 月の自転軸(公転と同期し地球に同じ面を向ける)、
(3) 地球の公転軌道は円に近く軌道傾斜角は0.002度と小さい、
(4) 地球の自転軸傾斜の23.5度は火星の25度より小さい、
(5) 地球の自転周期は火星の自転周期(24h40m)に非常に近い、

は、数10億年で大きな変化をしないだろう、これらには過去の激しい衝突の痕跡がなく、静穏な形成を意味すると考えられる。

これに対して、冥王星は、海王星の衛星であったものが、何かの影響で弾き飛ばされたような軌道を持っている。 海王星の軌道と交差する長い楕円軌道をもち、冥王星の軌道面は太陽系の惑星の軌道面から大きく(17度)外れている。 さらに自転軸も天王星と同様にほとんど横倒しである。そして、大きな衛星カロンをもつ。 地球に対する月の異常な大きさも衝突説の理由のひとつだが類例があった。 現在は、冥王星と海王星は、公転周期に 2:3 の尽数関係があるために互いに近付かない。

惑星公転の位相ロックの説明としては、惑星相互の重力による影響であろう。惑星が近傍にくれば、相互の引力は余計にそうする。 二惑星が太陽の同じ側で近いとき、相互の引力が位相の遅れた(後方の)惑星を引きつけ位相を進ませ、位相の進んだ側(前方)の惑星を遅らし、 同期軌道にしようとする。近傍にくるのが惑星にとって数回に1回であっても同様である。近傍時の影響がほとんどであるから。この説明は、 尽数関係が両者を近付けない海王星と冥王星では矛盾するようにみえるが、位相のロックは完全でなく誤差があるから、 過去には位相が逆で近傍に来ていたのかもしれない。惑星間の尽数関係は、過去に両者が近付いたためできる。また、尽数関係は惑星衝突の原因になりえる。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

3. 月の上昇

ジャイアント・インパクト説は、巨大衝突による高速な地球の自転が、角運動量保存によって月の上昇を起こすとした。 月の潮汐作用による地表と海面の上下運動が、地球の自転がそれより速いため位相が前に進み、月に加速を与えるという。 それに関与する法則は、角運動量保存とエネルギー保存である。両者はどう調停するのか考えよう。

地球の重力からの脱出速度は、11.2km/sで、現在の地球自転速度は赤道で463m/s(音速の1.5倍程度)の24.14倍であり、運動エネルギーは(11.2/0.463)^2= 583.1倍である。地球の重力をほぼ脱出した38万kmまで月を上昇させ、円軌道速度1km/sを与えるエネルギーと比べて、地球自転のエネルギーは小さい。 但し、質量あたりの速度で考える必要はない。月は地球に比べて小さい。衝突は運動量の交換であり、大小質量M,mの速度変化V,vの交換する運動量が 等しく mv=MV、衝突前後の運動エネルギーの変化量は、mv^2: MV^2= M:m つまり、小質量にエネルギーの大半を与える。

月の質量は地球の1/81.3で、月の質量を単位にした地球の自転の慣性モーメント(球体の慣性能率 2/5 r^2M から) 2/5*81.3=32.52を使えば、現在の地球の 自転エネルギーの583/32.52= 17.93倍である。月を地球から脱出させるエネルギーを持つには地球の自転がどの程度必要だっただろうか。 月の上昇エネルギーをそのまま地球の自転のエネルギーに与えると、現在の√18.93 =4.35倍高速 (赤道の自転速度2.014km/s、1日が5.52時間)が必要となる。 その証拠は未発見だろう。

月が衝突時に現在の角運動量を地球のそばで得たとすると問題がある。位置エネルギーは公転半径に反比例で速度はその1/2乗だが、角運動量保存からくる速度は、 公転半径に直接に反比例する。複数の物体が衝突合体するとき、つねに角運動量は保存され、元の天体の角運動量の合計に等しい。現在の月は38万kmの高さで 毎秒1km/sの速度をもつ。衝突で崩壊した溶融物質が地球表面近く(半径6500km)にあって、この角運動量をもつなら、1km/s x 38万km / 6500km= 58.46km/s で、地球の脱出速度の5倍であり、未知惑星と地球との衝突がこの速度を与えることは未知惑星の質量と速度によって不可能でないが、それでは、月は放出され、 今のように地球を周回しないことになる。衝突後の角運動量の大半をもつのが地球の自転とすれば、81.3倍の質量と慣性能率 2/5として、58.46/81.3*5/2= 1.798km/s の自転速度になる。説は、衝突後にこの自転を地球が徐々に失い、代わりに月が徐々に速度を得て、上昇したとする。

衝突による溶融物質が月の質量をもって、地表近くの地球周回速度 7.91km/s を得るとし、残りの51.55km/sの角運動量に対応する地球の自転速度は 51.55/81.3*5/2= 1.585km/s になる。エネルギー効率を100%として、衝突時に地球自転は、0.463+1.585= 2.048km/s(現在の0.463km/sの 4.42倍) になる。 これは、自転エネルギー変化を全て上昇エネルギーに与える自転速度4.35倍とほぼ等しい。辻褄は合っている。

ところが、月の上昇にはエネルギー効率がある。4.35倍の自転というこの計算は、月を上昇させる効率を100%(衝突時の自転エネルギー減少が全て月上昇 に使われた)とするが、自転のエネルギーは、潮汐の海面上下の摩擦によって消費される。月上昇のエネルギー効率が小さいとき、 地球自転と月の公転との全角運動量は保存されても、衝突時の自転エネルギーが効率の逆数だけ必要である。効率が10%なら10倍、1%なら100倍のエネルギーが 必要になる。そのとき月はあまり上昇せず、途中で止まるのでないか。そうすると月上昇エネルギーと現在の月の角運動量との導く自転(現在の4.35倍)よりも大きな 地球自転が必要になる。角運動量を変えずにエネルギーだけが大きな自転はありえない。これは矛盾である。月の質量にひとしい衝突後の溶融物質の地表 すれすれの周回をするという仮定を止めて、高度を少し与えれば、上の51.55が変化するが、高度を上げた分だけ角運動量が取られ大きくは変わらない。 この矛盾をどう解消するか。地球自転と月公転の二者だけの関係なら、地球と月の角運動量が保存される。しかし、実際には地球に潮汐を与える第三者、 太陽があり、純粋な地球ー月系ではないことによるのではないか(第6章参照)。とくに太陽自転と、地球月系の自転の一致の現象がある。

激しい惑星の衝突は、太陽系外からのジーンズ説と同じ不可能性(恒星間の衝突は、銀河間の1万回の衝突でやっと1回程度起こる)を背負う。 太陽系内からの落下で58km/sの速度を得るのは、未知の惑星と月の質量比から不可能ではないが、未知の惑星の質量を調整しないといけない。 いずれも現在の地球と月の静穏とは整合しない。高速自転を起こす巨大衝突を必要とし、衝突が地球の赤道近辺の限定された地点に方向も含めて 的を狭めて当たらなければならないことも、説の蓋然性を失なわせる。

月を生成するシミュレーションが成功したという報告があるが、そのための条件が極端に限定されることは、説を有利にはしない。月上昇効率は算入したのか。 天体力学的証拠のない仮説が、惑星衝突と月上昇の現象を利用して、謎を解かず新たな謎を生む。印象的な一方、疑わしいのは、衝突と上昇という稀な現象に 頼ることである。この説は将来、太陽と同じ視直径の平面だとか、裏側がないとか、裏側が凹んでいるとか、空洞だとか、人工物とかいう綺譚の仲間に入るの ではないか。また、月の石への疑い、アポロ計画陰謀説を有利にする。

上昇の実測速度: 1年に3.5cmで38万kmという速度は、アポロの置いてきた反射鏡(立体3面鏡)からの距離測定によるが、月の平均距離の14%にもなる大きな 距離変動のなか、この数十年の平均から求められた距離変動は余りに小さく、その逆数は100数十億年という宇宙年齢に一致する。私は宇宙膨張論者でないが、 宇宙膨張すれば惑星間衛星間にも膨張はあると考え、月上昇の話は、巨大衝突による月生成でなく、より単純に宇宙膨張を認めたい程、微妙で曖昧な証拠である。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4. 月と地球の不思議な現象

地球にとって、月は不思議な存在だった。

太陽と月とがほぼ同じ大きさにみえること(視角の同等)

太陽と月とがほぼ同じ大きさで、皆既日蝕と金環日蝕の両方が起きる視角の同等は、潮汐力がほぼ等しいことと解釈できる。質量は半径の3乗と密度に比例する。 潮汐力は距離の3乗に反比例する。月と太陽とは地球からの距離と半径の比率(視角)が等しい。月と太陽の潮汐力はそれらの密度(比重)の比になる。 太陽の比重(1.411)は、月のそれ(3.344)より小さく約2倍の比率である。このことは、天体力学的な説明の可能性がある。太陽と月とは対として扱われ、 歴史的、文化的に男女の性の天空上の表象であった。朔望月は女性の生理周期でもあるが、月の配置に天体力学的理由があり得るかもしれない。 月が現在の軌道にくるのに太陽と月とが地球への潮汐力の大きさを調整したのではないか。月が上昇又は下降する中、月からの潮汐力が太陽からの 潮汐力程度になったところで上昇又は下降を停止したのではないか。公転の自転への調整では、月の潮汐力と地球自転を利用した衝突後の月の上昇に伴い、 地球への月からの潮汐が太陽と同程度になると太陽の潮汐力が上昇を邪魔して止めたと考えるのである。しかし、潮汐力よりも視角の同等のほうが明確な 特徴であり、視角の同等を潮汐力が説明するとは考えるべきでないだろう。

1年が12ヶ月であること(地球の公転周期と朔望月の関係)

1年がほぼ12ヶ月であることも、尽数関係に入れられていないが、29日半の朔望月は、365.25/12= 30.4日に近く1日の誤差である。月の恒星天に対する 公転周期(27日7時間43分)はそれより短く、太陽に対する周期である朔望月は、地球が太陽の周囲を公転する分だけ余計に回る必要があり2日長い。 歴史的に太陽暦、太陰暦として暦に使われた両者は、逆にこれほど整数比に近くて完全同期でないことが不思議なくらいである。

月が地球に同じ面をみせること(公転周期=自転周期)

誰も子供のときこれを知って驚き不思議に思う、月が地球に同じ面を向け、同じ模様を示し、我々に裏側を見せないことは、人類にとって最も顕著な 尽数関係である。月の自公転の同期は、水星のように太陽との関係でなく地球との関係である。地球にとって潮汐力は、太陽と月が同程度(月〜太陽*2倍)だが、 地球:月の質量比=80から、月への地球からの潮汐力は、太陽からと比べて160倍も大きい。月にとって地球は太陽とは比較にならない大きい存在である。 それまで月は裏側まで見せていたが、月の重心を中心とする球形からの質量の偏りがもつ四重極モーメントが、地球の潮汐力との間で自転にポテンシャル壁を作り、 月の同期からの差分運動エネルギーがそれ以下になった時点で自転は公転に同期しただろう。そのポテンシャル壁へのブランコ様の振動が今も残る。 現在の運動エネルギーと壁の高さによって減衰率を仮定して、壁を乗り越えられなくなった時点を推定できるかも知れない。地球の月への潮汐力は壁と なるが、その時点の壁の高さが現在の壁の高さと違うから、話は単純でない。自公転の同期は一般にエネルギーの小さい自転側の調整であり、 自転が公転に同期するものである。これは、公転が自転に合わせたという話になる。

月からの潮汐力によって地表と海水面が持ち上がる数10cmから数mの上下と自転によって月を加速して持ち上げることが疑わしい。エネルギー効率を100% として現在の地球の自転のエネルギーの18倍必要だが、例えば効率が6.25%なら、初期の自転エネルギーがさらに16倍である必要があり、地球表面が周回 速度以上になる。実際の効率は、限りなく0%に近いだろう。そしてなぜ、徐々に持ちあげるのか。現在の月の場所に集結したとするのが最も直截的だが、 衝突には太陽系外天体に頼り、衝突後の上昇という物語はありえないのでないか? 衝突惑星はどこから来て、いまどこに行ったのか? いまそれはないし、 太陽系内から来たなら残骸の大半が太陽系内に残るはずである。自転軸が横倒しの天王星や冥王星なら、衝突事件を想像させるが、地球と月の状況は、 静穏で破滅的事件を想像させる天文学的な状況証拠が全くない。

衝突説では月の岩石は、未知の惑星組成と地球の地殻の組成の比率が4:1になるという。月の岩石が地球と余りにも一致するから、1回の巨大衝突でなく、 複数の小天体落下説が出ている。さらに、地球にマグマオーシャンという溶融した地殻であったなら、飛散物質が地球の地殻による比率が大きいという。 説の目的とする岩石組成においても問題が残り、多重衝突や、地殻溶融なら太陽系形成時であり、兄弟説に近似する。 その意味で、ジャイアント・インパクト説はすでに否定されたのかもしれない。

月を上げるのが月による潮汐による数mまでの四重極モーメントではなく、地球の元々の四重極モーメントなら、もう少し可能性がある。地球の凸凹は 数mではなく、その100倍程度あるだろう。ヒマラヤは8800mもある。それなら月を持ち上げることも可能かもしれない。それなら月の楕円軌道の主軸の進みは きっと大きい。衛星軌道の内側にある高速な衛星の重力と同様な効果はまず、楕円の主軸を前に進める。そして彼らの説の理屈に従えば、月による潮汐による 凸凹と自転よりも大きく軌道を持ち上げるのではないか。いや、単なる地球の凸凹と自転では、月は上昇しないのだろうか。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

5. ベイズの定理:事後確率

ジャイアント・インパクト説の弱点は、(1) 巨大衝突自身であり、火星大の惑星衝突を必要とし、標的が赤道近辺の地表の狭い範囲に限定されることである。 そして、(2) 地球月系の角運動量保存による月上昇である。これは普通、物体が落ちてくる自然現象の逆である。時間の流れの方向を示す物理法則はほとんど ないが、これは、自然には逆方向に起きない例ではないか。地球ー月系の角運動量保存とは、地球の自転と月の公転の連動する角運動量保存である。角運動量は 保存量で、いかにその連関が微弱でも保存されてよいが、現象の進行は逆である。月は落ち、地球自転を増減させる。この逆は、特に稀にしか起きないだろう。

その理由は、月の上昇は位置と運動のエネルギー増加である。一般に自然はエネルギー減少方向に進行する。天体は引力によって質量をまとめエネルギー減少する。 稀に巨大衝撃によって大半を地球に下降させ、一部の質量を上昇させることはある。また、遠心力で質量が離れエネルギー低下することはある。 ひもをもってボールを振り回し、遠心力がひもの張力を超え、ひもが伸びることがあるが、その場合、速度が周回速度を超えているのである。 地球の近辺の周回質量の重力と遠心力が釣り合うとき、質量は地球との距離を短縮し、地球と近傍の質量は一体化する方向に動くものである。 説は月の上昇は、潮汐力による振り回しで、月を前に進め速度を増し上昇させるというが、月を上昇させるには衝突時の地球に高速自転が要る。 ところが地球の自転は、地表付近の質量の周回速度を超えない。そのため、地表付近の質量を上昇させず、それよりかなり離れた質量を上昇させることはあり得る。 そのように、月の上昇には厳しい条件があるだろう。

稀な確率でしか起こらない事象を起源にすることは、その確率の低さ自身が説の蓋然性の低さを表す。起源をA、現在の事象をBとするとき、 Pr(A and B) = Pr(A|B)Pr(B) = Pr(A)Pr(B|A) から、ベイズの定理(逆方向の条件確率、"事後確率")、Pr(A|B)= Pr(A)Pr(B|A)/Pr(B) がある。 現在の事象Bから過去の起源Aの確率をいうのは、 Pr(A|B)= Pr(A)Pr(B|A)/Pr(B) という事後確率になる。Pr(A)自身が低確率なら、Pr(B|A)が1近くでも、 Pr(B)がさほど低確率でない場合、Pr(A|B)は低い確率になる。

又はこういうべきか、述語論理で p⇒ q をいう場合、pが確率事象なら、p の確率が0に近いほど正しい。p ⇒ q は、~p | q に等価であり、p ⇒ 1,0 ⇒ q, 0 ⇒ 1 は常に成立する。それらの正しさは自動的な無意味な正しさだから、この述語の意味のある正しさは確率pになる。稀な事象を起源にするのは、 前提に偽をいうのと同じで、全く常に無意味に正しい。太陽系起源のジーンズ説が認められないのは、恒星衝突の確率が余りにも低いからである。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

6. 月の公転は太陽自転と尽数関係にある

ジャイアント・インパクト説は、ジーンズの太陽系生成説を地球-月系に移しただけである。地球自転と月公転とで角運動量保存が月上昇の根拠だが、 連動の程度は微弱と思われ、エネルギー効率に問題がある。説は、最終的に地球の自転と月の公転が一致するまで変化するというが、 地球月系の角運動量保存は、他の天体の影響がないときにだけ成立する。月と地球は他の天体、とくに潮汐作用が月の45%もある太陽にも関連している。 現在の太陽の自転周期(赤道で27日6時間36分、緯度30度で 28日4時間48分、60度から75度で30〜31日) は、月の恒星天に対する公転周期(27日7時間43分)に ほぼ一致する。月の公転は、太陽の自転と関わっている。説は、この尽数関係を説明しない。

(*) 最近、地球のマントル内に埋まっている痕跡を見出したという説が出たという。 衝突によって大きな地球自転を得て、その角運動量を月が獲得したなら、白道が23.5度傾斜した赤道と一致すべきでないか。 現在の地球自転軸の23.5度の傾斜は、太陽系生成時の月形成の白道の傾き(5度9')と関係なく、その後の別の原因の現象になる。 黄道からの白道傾斜から月形成時期の推定も可能かもしれない。地球の自転軸の傾斜とその歳差運動は、回転するコマが軸を揺らす 不明なトルクが必要だが、古代のピラミッドの北向穴の北極星からの外れなどから現象としては認められている。(2022/4/15)