2003年より始まったこの水もの「俺JOSF(日本メーカーオリジナルSFプラモデル)コンテスト」。プラモデルメーカーがマンガ、アニメ、SF映画に則を取らない自社オリジナルデザインでリリースしたSFメカキットというのは世界的にも珍しく、わが国では昭和40年代初頭の数年間にピークを迎え、その数は再販を含めて何と800超。駄玩具を含めた数は1,000を超えます。
それを原体験に持つ往年の少年達の思いを込めて自作のオマージュ作品を持ち寄ろうと始まったこの企画も、昨年で記念すべき第20回目を迎えました。参考までに、過去のコンテストでピックアップされたメーカーは以下の表のようになります。
メーカー |
回数 |
緑商会 |
4 |
田宮模型 |
3 |
日本模型 |
3 |
山田模型 |
1 |
小暮 |
1 |
一光模型 |
1 |
大滝 |
1 |
青島文化教材 |
1 |
東京マルイ |
1 |
尾高産業 |
1 |
TOMY |
1 |
日東科学 |
1 |
今井科学 |
1 |
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テーマとして選出する基準はキャラクターものではないメーカーのオリジナルキットである事、ユニークなデザインあるいはギミックを持っている事の二点です。緑商会のダントツ4回は皆さん納得できるでしょう。一方でギミックプラモデルの雄である今井科学が1回のみというのは意外です。これは今井科学はサブマリン707等の大人気シリーズを有しながらキャラクタープラモの比率が高くJOSFプラモデルという範疇ではないキットが多数を占める為です。
逆に田宮模型は、オリジナル水ものSFキットは4種類しか発売していないにも関わらず、そのうち3つまで企画に選出されています。これは如何に同社のデザインコンセプトが優れていたかという事でしょう。日本模型の3回というのも大健闘と言えるかもしれません。
全13社の殆どがピックアップ回数各1回というのは、300もの水もの模型(完成品SF駄玩具を含む)がある中で、しかし当該企画に選ばれるには中々容易ではないハードルがある事が分かります。
そんな中で尾高産業は今回何と2回目のキット選出となります。前回は風力滑走するアメンボのようなスタイルの「火星人ファール」による企画でしたが、これは元々木製模型製造業だった同社が1961年にプラモデル業界に参入した時の第一号の商品でした。その後尾高産業は10円、50円という駄玩具レベルの商品を細々と出していましたが、1965年に(ある意味突如として)モーター動力の二つのキットをリリースします。その一つが今回のテーマとなった「マーキュリーS」です。
(因みに姉妹キットのもう一つは、「マーキュリーS」とほぼ同じ構成で、カタマラン胴体の下部に車輪を付けて陸上走行としたSFカー「ハヤブサ1号」です)
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キットのデザインコンセプトは最前のボックスイラストを見て頂ければ一目瞭然ですが、キット内容を知るにはやはり組立説明図を見て頂くのが一番でしょう。

尾高産業の「マーキュリーS」の組立説明図。(画像提供:Tachikawaさん) |
マブチの15モーターを内蔵したエンジン。ロボット本体は左右胴体張り合わせのシンプルなもので、そこにプラスチックパーツ1枚で構成される腕と脚が付きます。エンジンに比べて小さ目のロボットですが、エンジンと手の結合はエンジンの四角いダボと手のひらの四角いダボ穴を嵌め合わせる設計で、気になる縦方向の強度はしっかりと考えられているようです。
単三電池2本はカタマランの各舟体に1本ずつ格納され、それぞれを直列に結線する部品番号17の連絡金具は、左右のフロートを結合する構造体も兼ねています。
例えば腕や脚が左右張り合わせで中空であれば、モーター(=エンジン)と電池(=船体)を結ぶリード線は腕・胴体・脚の内部を経由して船内まで通せそうですが、板一枚の腕ではそうもいきません。オダカはそれを逆手に取ってモーターからのリード線は「これは燃料パイプなんだ」と表現して、ロボット君の背中の燃料タンク(部品表ではボンベと表記)に繋いでいます。ううむ、これは中々上手い手ですね。ザクの剝き出しの動力パイプを彷彿とさせるこの「見せるアイディア」は今から60年前のものだと思うと感慨深いものがあります。かく言うガンダムも、2029年で誕生50年になるのですが。(笑)
但し残念な事に尾高産業はガンダムが始まる1979年を待たず、その2年前発売のランボルギーニ「カウンタック」を最後にプラモデルメーカーとしての幕を閉じました。
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尾高産業の「マーキュリーS」のパーツ群。(画像提供:Tachikawaさん) |
左の画像は「マーキュリーS」のキット内容。
小さ目のキットでは当時から主流だった13モーターではなく、一回り大きな15モーターを収める為の大きなエンジンパーツ。それに比べてロボット君がかなり小さめだと分かります。
カタマランの舟艇は、単三電池2本とモーターを浮かべて安定させる為に、これも十分余裕を持ったサイズだと分かります。
現在のプラモデルではパーツを保護する為に四角い枠状のランナーのでパーツを囲った廻しランナーが主流ですが、この時代はまだ「いずれ捨てられてしまうランナー」の量を最小限に抑える為に、ロボットのパーツは枝ランナーで構成されていることが分かります。
3色印刷で丁寧に作られたパーツ袋のヘッドタグは新品そのままの美しさ。尾高独特の接着剤「コーパルP」も懐かしいぞっ!
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尾高産業の「マーキュリーS」のパーツ群。(画像提供:Tachikawaさん) |
右はマーキュリーSのパーツを裏側から見たもの。こういう痒い所に手が届くような、見たい所をキチンと撮影してくれるTachikawaさんの心配りが嬉しいですね。
組立説明図でははっきりしなかった電池収納部が、実は舟艇内部に直置きではなく、ボックス状に独立している事がハッキリ分かります。
船体部分にありがちな水漏れから電池を守りつつ、しっかりとホールド出来る設計ですね。
「マーキュリーS」よりも前の同社のキットは駄玩具レベルのものばかりでしたが、このキットはパーツ表面も美しい仕上がりで、金型製作の最終工程である磨き上げも丁寧に行われている事が分かります。
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尾高産業の「アポロ」のパッケージ。
(画像はブログ「プラモが好き!特に古い絶版プラモが!」から引用) |
さて、この「マーキュリーS」はその後怪力ミステリーボート「「アポロ」として再販されます。
ここでもう一度最初の初版のボックスイラストを見て欲しいのですが、これはどうやら写真等のハーフトーンを再現するアミ点分解は黒の部分だけで、マゼンタ(赤)やイエロー(黄色)やシアン(青)等は色分解をしていないベタ印刷のようです。なのでスピンナーやカタマラン上部側面のようなハーフトーン表現はされているが黒く彩度が落ちている部分は、アミ点分解をした黒印刷の上からベタ色印刷をしたのではないかと思われます。これはフルカラーの色分解印刷がまだまだ高かった時代に苦肉の策として選択されたもののようですが、この再販の「アポロ」になってようやくフルカラー印刷になりました。
初版はマブチ15モーター別売りでしたが、この再販になってモーター付きとなったのも興味深い所。
実はこの「アポロ」は日本模型新聞には広告を出していなかったと思われ、同社の昭和プラモデル全リストデータベースには記載はなく、発売年の同定はできませんでした。しかし、こうして零細企業である当時の大多数のプラモデルメーカーも少しずつ高度成長時代の波に乗って、商品全体の質が向上していった事を物語っています。
懐かしい時代を感じさせる、「マーキュリーS」と「アポロ」です。
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