2023年 第23回水ものオフ会
水棲怪獣・俺「水中ワニゴン」コンテスト のご案内

水ものオフ会毎年恒例の俺SFメカコンテスト
2023年のテーマは…

 「水中ワニゴン」だ!

ニットーの「水中ワニゴン」のパッケージ。(画像提供:ヘンリーさん)
 

 海底怪獣 俺「水中ワニゴン」コンテストの参加要領
ニットーのSF怪獣「水中ワニゴン」のオマージュ作品によるコンテストです。
勿論本家の「水中ワニゴン」による景気付け参加も大歓迎です。但し当コンテストとしては、参加者オリジナル作品のみがコンテストの集計対象となります。
スクリュー走行でも泳ぐギミックでも水上走行する怪獣なら何でも可。
動力、サイズに特に制約は設けませんが、安全にデモ走行できる作品に限ります。
 
海底怪獣「水中ワニゴン」 について
怪獣が水ものプラモデルになった。これはひとつの事件だ!
 

ニットーの「ワニゴン」の初版パッケージ。(画像提供:ヘンリーさん)
画面の右下の地面とビルの上に、箱絵で1.5mm程の人間が!
この大きさで比較するとワニゴンの全長は500mを超す巨大さだ!
 1966年9月に日東科学(後のニットー)がリリースしたオリジナル怪獣「ワニゴン」は、日本初の四足歩行ゼンマイ怪獣でした。その画期的なゼンマイシステムはその後同社の四足歩行恐竜や怪獣のみならず、SF歩行メカ「サタン」や「デルタ3」といったキットにも採用された優れたものでした。(ギミックの要のゼンマイシステムについては、動く戦車オフ会の「俺サタン」コンテストの回で詳しく述べています)
 箱絵はプラモデルのパッケージでお馴染みの巨匠小松崎茂先生の手になるもの。対岸に見える灯り、画面右端に見える燃料タンク等から、夜の臨海工業地帯に上陸する恐るべき怪獣の姿を良く活写しています。簡単に描かれているように見えて、グラデーションのかかった夜の海面は、得も言われぬ美しさです。
 「ワニゴン」の上陸に伴って押し上げられる海水の音、バキバキ、ギーンと崩れ落ちる鉄塔、夜のコンビナートに鳴り響くサイレンの音等が聞こえてくるようではありませんか。
 

初版「ワニゴン」に付いていた商品カード。(画像提供:ヘンリーさん)
 初版の「ワニゴン」には左のような商品カードが付いていました。
 地中からは地底怪獣「ガマロン」が、海からは海底怪獣「ワニゴン」が日本を襲う!もうこの時代は放射能怪獣やら、毒ガス怪獣やら、透明怪獣やら、岩石怪獣やらがあっちからこっちから毎週出現!果ては地球ばかりでなく火星怪獣、土星からは風船怪獣、金星からは宇宙怪獣やら、やらやらやらと、もうてんやわんやの大騒ぎ。
 小学生は皆「怪獣はきっとどこかに居る!」と確信していた時代なのでこう言ったビジュアルも今以上にリアルに感じられました。

ニットーの「ワニゴン」の最終パッケージ。
 ワニゴンはニットーの怪獣シリーズの再版に合わせて何度か再版されています。上記は左下の金色シールでも分かる通り1983年9月の完全限定復刻版です。この最終版は復刻当時「懐かしい!」と思ったおじさん達にアピールして瞬く間に売れたようで、そんな大人が作らずにコレクションしていたと思しきキットが今でも時々ネットオークションで見られます。
 スケールモデルはタミヤやレベルの例に漏れず、きちんとしたキットをリリースすればその後何十年も再ショットをしてロングラン商品になるものもありますが、一発勝負的ともいえるメーカーオリジナル怪獣プラモデルが17年間も命脈を保っていた事、それも特別なオリジナルゼンマイ機構を必要としていたキットだと考えると、これは実に驚異的な話しだと言えるでしょう。
 筆者もこの最終版「ワニゴン」は当時の馴染みのお店で見つけて購入しましたが、とはいえこのキットですらもう40年も前の発売になると思うと感無量です。これ、今(2023年)から57年も前に誕生したプラモデルなんですよ!
 イラストは再版の箱のサイズに合わせて初版のものをトリミングして使っていますが、イラストを無理矢理切り詰めた為、初版の「夜の臨海地帯に出現した怪獣」というドラマ性が無くなり、「ワニゴン」君の下あごも切れてちょっと残念な感じです。
 

上の写真はゼンマイ版「歩行ワニゴン」の素組状態。
 水ものオフ会なのに”歩く怪獣”?と思われそうですが、実はその「ワニゴン」は翌1967年にゼンマイシステムを排して尻尾の先にスクリューを付け、水上走行する「水中ワニゴン」として再版されます。今回のこの俺水棲怪獣コンテストの企画の原点は正にその「水中ワニゴン」なのです。
 私、動く模型愛好会のオヤヂ博士も小学校2年生で「ワニゴン」200円のを作っていますが、翌年店頭で「水中ワニゴン」を発見し100円!という値段に「えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!」と狂喜していそいそと購入した覚えがあります。
 箱を開ければゼンマイが入っていない為の100円という廉価さも、スクリューを見て何故「水中ワニゴン」かも一目瞭然でしたが、何故か「ワニゴン」に惚れていた筆者はそのチープなグレードダウンにも拘らずお気に入りになりました。実家の店先にビニールプールを出し、赤くてゴム臭いホースで水を溜め、日がな一日「ワニゴン」君や、駄菓子屋の「重曹フロッグメン」や、「ジュニアサブマリン707Aクラス」を浮かべて遊んでいたあの日。今でもプールのビニールの匂いと共に懐かしく思い出されます。
 

「水中ワニゴン」キット全景。(画像提供:へんりーさん)
 
 前置きが長くなりましたが(そーだよ、思い出話いらないから)、上の画像はその「水中ワニゴン」の全景です。海底怪獣として生まれた「ワニゴン」が海底怪獣「”水中”ワニゴン」という商品となって生まれ変わるという微妙な二重構造のネーミングですが、そんな事は微塵も気付かせない迫力あるパッケージ!
 当時最新鋭だった”最後の有人戦闘機”F-104が、果敢に「ワニゴン」を攻撃しています。伊福部昭先生の自衛隊マーチをBGMにしてじっくり堪能してみて下さい。・・・と思ったら変な国籍マーク。自衛隊じゃないのね?
 「水中ワニゴン」の箱を開けた時のファーストインプレッションは、何と言ってもこの綺麗なオレンジイエローの成型色。「ワニゴン」を知っている者にとっては一瞬ギョギョッ!とする色ですが、慣れると逆に夏の強い日差しの中でパッと目立つ不思議な魅力にも感じました。
 

「水中ワニゴン」のボックス側面。(画像提供:へんりーさん)
 「水中ワニゴン」のボックスサイドには「ワニゴン」の側面図と共に水中モーターが装着された分かり易いセールスポイントが描かれています。「右側のこの怪獣は、左側のように水中モーターでも走るんだよ!」と、まだ字の読めない小さなチビッ子でも一目瞭然の心憎いパッケージデザインです。
 「ゴム動力でも水中モーターでもスイスイ走る」のコピーライトが時代を感じさせますね。
 初版「ワニゴン」のパッケージの絵面からは全長500メートル超・・・戦艦大和の約2倍!と思われる(笑)「ワニゴン」君がこんな風に突進して来たら、鼻づらのツノが衝角(ラム)のようになって、どんな船でもイチコロですね。
 そう考えると恐いのに、イラストの「水中ワニゴン」君は目の周りが白くて、某国元大統領トラ〇プ氏のようでちょっと可愛い。
 

「ワニゴン」(上)と「水中ワニゴン」(下)のキット比較。(画像提供:へんりーさん)
 上の写真は初版「ワニゴン」と「水中ワニゴン」のキットの比較です。
 分かり易いように二つの画像を切り貼りしてみたので、本来ちょっと違う箱のサイズは同じになっちゃったのはご勘弁。
 細かいパーツ比較は難しいのですが、両者の色味の違い、「水中ワニゴン」の真ん中に四角い空気室のフタがある事等が分かります。
 

「ワニゴン」(上)と「水中ワニゴン」(下)の組み立て説明図の比較。(画像提供:へんりーさん)
 今度は「ワニゴン」(左)と「水中ワニゴン」(右)の組み立て説明図の比較です。画面の制約上小さくて申し訳ないのですが、内容はギリギリ判別できると思います。
 「ワニゴン」の尻尾の先は上から見ると緩やかに右にカーブをしていましたが、「水中ワニゴン」では尻尾の内部にゴムを通し、更にスクリューで直進させる要請から推力軸と体軸を同じにする為に、尻尾全体が直線化されているのが分かりますね。
 一方足はゼンマイがオミットされているにもかかわらず初版「ワニゴン」を踏襲したリンク機構で結合され、どこかの足を動かすと、四本足が連動し、前後の足が逆位相で動きます。単純な仕掛けなんですが、右前肢を前に出すと右後肢は後ろに動き、同時に左側の前肢後肢はそれぞれ逆に動く・・・というギミックは「カラクリの妙味」の原点を見ているようで以外に楽しいんですよ。
 さて、ここで気になるのは「水中ワニゴン」の胴体パーツの背中側にはゼンマイを取り付けていた4つのダボの代わりに四角い空気室がモールドされている事。そしてお腹側にはオミットされたゼンマイの代わりに四肢を支える前後のダボが増設されている事です。もしそれを金型改修で行っていたのであれば、その後再版された「陸上ワニゴン」にはその痕跡が残っていそうですが、最終版「陸上ワニゴン」にはいくら探してもそのような一度改修して更にまた元に戻したような跡が見られません。再版「陸上ワニゴン」にする時にそこまで丁寧に金型を元に戻したのか?というと胴体上下ともパーツの「体内部分」はそれ程綺麗でもないので、もしかしたら「水中ワニゴン」の胴体と尻尾は別金型を起こしたのではないかとも思われます。
 これに関してある人は「増金型」という表現で尻尾と胴体は全く別の金型ではないかと推測されていますが、だとすると更にまた一つの疑問が残ります。
 上の「水上ワニゴン」の組み立て説明図では、胴体上部部品でも、胴体下部部品でも尻尾の付け根に「何の役も果たさないダボ穴」が付いていますが、これは「初版ワニゴン」から「最終版ワニゴン」まで、所謂「陸上ワニゴン」の尻尾を左右に動かす時に可動軸となる金属シャフトを支えるダボ穴です。もし「水中ワニゴン」が「初版ワニゴン」の後で新たに金型を起こしたのであれば、直線化した尻尾を接着する「水上ワニゴン」にとっては、これは全く無駄なモールドです。
 とするとこれは、「ワニゴン」の水上化に際して改修が不要なモールドをそのまま残したと考える方が自然です。
 また、航空機や戦車のような精密なメカの再現であれば、同一キットを別金型で起こしても全く同じになる事は容易に考えられますが、空想怪獣のような不規則な生体表現にあって背中のイボの膨大な突起の数が同数(一所懸命数えました(笑))というのもちょっと考えにくいです。(筆者の数の勘定に間違いがある可能性もありますが)
 という事で私は、「水中ワニゴン」は、同年に発売された水中モーターを使うブームにあやかって一旦手っ取り早く金型を「水中ワニゴン」に改修したものの、期待した以上には売れず、再度金型を「陸上ワニゴン」に戻した、というのがありそうな話だと思っています。それは、一旦戻し改修された「水上ワニゴン」は、その後次の夏が来ても二度と再版される事は無かったというのが一つの証拠ではないかと考えています。
 但し今となっては真相は時間の彼方に消え去ったのかもしれません。
 
 さてここからは、一旦「水中ワニゴン」から離れ、「水中ワニゴン」以外の水もの怪獣について時系列を追って御紹介していきましょう。
 まず最初は恐らく世界で初めて可動水もの怪獣プラモデルとしてリリースされた、今井科学の水中怪獣「ワニラ」です。
 

今井科学の水中怪獣「ワニラ」の初版パッケージ。(画像提供:ヘンリーさん)
 「ワニラ」は「水中ワニゴン」より半年ほど早い1967年の1月発売です。これは「水中ワニゴン」と違って、最初から水もの怪獣として生まれたキットという点でも貴重です。
 但しこの「ワニラ」の発売年月は日本模型新聞という業界新聞のメーカー広告をベースにした「昭和プラモデル50年史データベース」によるもので、今回の紹介記事の多くはこのデータベースを参考にしています。水ものプラモデルが真冬に発売?という違和感はありますが、次から次に新製品がリリースされ続けていた当時を考えると、流石に実売は前年の夏とまでは言えないかなぁとも思われ、現時点で最も客観的な発売時期の参考データとしては妥当な所でしょう。
 まぁ、「ワニラ」の発売時期が若干ずれていたとしても、少なくともスクリュー推進の怪獣というコンセプトのキットはいずれにせよ「ワニラ」が嚆矢のようですね。
 しかしこの「ワニラ」君、魚のような胴体だけどクジラ同様エラは無く、鳥のようなクチバシには鼻の穴が付いていて、口の中には肉食獣のような牙がいっぱいというキメラ怪獣ですね。しかも体の殆どが水に浮く程軽い。(笑)
 

「ワニラ」のキットの内容。成型色違いの2種。(画像提供:へんりーさん)
 「ワニラ」のキットの中身はこうなります。毎度この俺JOSFコンテストでは多大なご協力を頂いているへんりーさんからは、成型色違いの比較画像も送って頂きました。
 当時の今井科学のマスコットシリーズサイズのキャラメルボックスに入った、全長10cm程度の可愛いキットですが、色違いのペレットを流し込んでマーブリング模様に射出する事で、シンプルなキットながら生物感を出す工夫がされています。
 左右張り合わせの胴体の中にゴム動力のゴムが通り、尾部にはスクリューが付きます。左右の胸鰭が潜航舵となり、凶暴な口の下あごは別部品となります。
 真冬の発売なので、最初にこのキットを手にした少年達は、主にお風呂場・・・しかもまだ内風呂が多くは無かった当時なのでこっそり風呂桶に隠して銭湯で走らせたりもしていたのでしょう。日本中のお風呂で、何万匹ものこいつがカタカタと走る様が展開されていたと想像すると楽しい気がします。

イマイの水棲怪獣「シウルス」。
 「ワニラ」は1970年代前半に「シウルス」として再版され、その後1984年の3月に更に若干のパッケージ替えで再再版されます。上の画像はその最終版パッケージです。
 ううむ、個人的にはパッケージに紫とか蛍P(蛍光ピンク)とかは使って欲しくなかったかも。それにしても当時模型屋の店先で子供に混じってこれを買っているサラリーマンの私って、模型屋のおじさんから一体どう見られていたんでしょうか。40年経って気になる私です。
 

最終版「シウルス」のキット全景。
 さて、「ワニラ」の所では箱を含むキットの全体像を俯瞰しつつ、主に成型色違いの比較をして頂く為にパーツは袋入りのままの撮影だったのですが、あらためて「ワニラ」再版の「シウルス」最終版でキットのパーツを確認してみましょう。
 胴体と潜航舵になる胸鰭とゴムを挟む為に二分割されたクチバシという極めてシンプルなパーツ構成。右端の飛行機の尾輪のようなものは本体後部に付くスクリューの基部で、その左側はイマイお得意のスクリューの針金をクランク状に曲げる為の治具パーツです。左端のパーツ袋には接着剤、ゴム(劣化してバラバラ(笑))オモリとなる鉄棒が見えます。
 それと懐かしいのはビニール袋の右下に二つ見える小さな丸い金属パーツ。これはスクリューの回転をスムーズにする為に、サブマリン707Aクラス、Bクラス等のゴム動力の船にも付いていたフジツボ型の真鍮パーツですね。おじさんなら、古いキットでは組み立て説明図に「メタル」と書かれていたのを覚えている方も多いでしょう。
 

「シウルス」の組み立て説明図。
 上はその「シウルス」の海盾説明図です。
 単純なキットなので組み立て説明も至ってシンプル。例のスクリューシャフトをクランク状に曲げる治具の使い方も解説されていますね。
 空気室は胴体の空洞を左右で貼り合わせる簡単な構造になっていますがこれが曲者で、せっかちなチビッ子がそんな事を気にしながら組み立てる訳もなく、気密が甘くなって池の底に沈んで行った「ワニラ」君、「シウルス」君は沢山いた事でしょう。
 また、残念ながらあのスクリューの回転を滑らかにする真鍮パーツに関しては「シャフトにとおしておく。」と、組み立て方だけが書かれていて「メタル」という部品名の表記はオミットされています。(おじさんちょっと寂しいな)
 

今井科学の水上怪獣「シーザウルス」のパッケージ。(画像提供:へんりーさん)
 今井科学は1966年11月発売のマスコット怪獣「ガルバ」を始めとし、間に1966年12月発売のマグマ大使のキャラクター怪獣「アロン」を挟んで、前出の「ワニラ」、1967年2月に怪獣「バギラ」、1967年4月のこの「シーザウルス」、1968年2月の怪獣王子のキャラクター怪獣「ネッシー」など、矢継ぎ早に怪獣プラモを発売します。その中でゼンマイ歩行の「アロン」が200円というのは別格だとしても、殆どは50円売りのミニ怪獣でしたが、そんな中でこの「シーザウルス」は基本的にはシンプルなキットでありながら、150円という強気の価格でした。
 怪獣ブームの中で生まれた怪獣プラモブーム。その中でもスクリューで水上走行するという独特な立ち位置のオリジナル怪獣「シーザウルス」が150円というのは、子供達にとってちょっと厳しい価格設定だったように思います。
 それでも「ワニラ」に次ぐ今井科学の水もの怪獣として今でも人気の逸品です。
 当時の今井科学の怪獣シリーズの箱絵を一手に引き受けた高荷義之先生の作品の中でも、ダイナミックな構図で迫力あるイラストですね!
 

今井科学の「シーザウルス」の完成品。(画像提供:努さん)
 その完成品がこちら。努さんの作品はどれも怪獣愛に溢れる素晴らしい塗装で一部マニアに人気がありますが、この「シーザウルス」もキットのモールドを忠実にトレースしつつ、生体感溢れる魅力的な作品に仕上がっています。
 お腹の下に装着されたゴム動力ユニットが良く分かるショットです。
 当時の今井科学の水ものプラモデルではポピュラーだった軟質樹脂のスクリューは、チビッコの無造作な取り扱いでも怪我をしたり割れたりしない特筆すべきアイディアです。当時を知るおじさん達はこの独特なオレンジ色のスクリューに得も言われぬ懐かしさを覚えるのではないでしょうか。
 この作品を紹介している努さんのブログはこちらです。「努ブログ」
 

中村産業の「トゲラ」のパッケージ。(画像提供アーミーカラーさん)

中村産業の「サイゴン」のパッケージ。(画像提供アーミーカラーさん)
 1967年4月発売の中村産業の「トゲラ」と「サイゴン」。
 ゴム動力走行でマブチの水中モーターも使用可・・・というのが普通のキットの謳い文句ですが、この「トゲラ」と「サイゴン」は広告に「水中モーターで走る!●水の中をグングン走ります●ゴム動力でも動きます」と書いてあって、水中モーターの使用が前提で自前のゴム動力機構は、まぁゴムでも走るんだけどね程度の主客逆転な雰囲気です。
 どうも「トゲラ」はステゴザウルス、「サイゴン」はトリケラトプスのありものキットを水棲怪獣にリニューアルしたもののようですが、これ以前に中村産業で恐竜プラモを発売した形跡が無いので、もしかしたらこれはどこか他社のキットの金型改修かもしれません。
 そもそもニットーの怪獣や恐竜のようにゼンマイ動力歩行しない恐竜プラモは外見だけのディスプレイキットで、胴体左右をパコンと嵌めるだけの中空モナカキットでしたので、そのままでも水にはプカプカ浮かぶもの。浮力もバッチリなのでお腹の下にゴム動力スクリューだけでなく、重い水中モーターも取り付け可能な、所謂水ものプラモに打って付けでした。その為少しの改修でこういった怪獣ブームにあやかったキットも開発し易かったのでしょう。
 今回の企画ページでは箱絵だけの紹介ですが、このキットの詳細はネットで詳しく紹介されていますので、これも気になった方は「トゲラ」「サイゴン」でググッって調べてみて下さい。
 箱絵に描かれている「トゲラ」のチーフテン、「サイゴン」のA-5ビジランティ艦上攻撃機が時代を感じます。しかも「トゲラ」も「サイゴン」も、目力のある素敵な怪獣に描かれていますね。カッコイイー!
 それにしてもベトナム戦争真っ盛りの時期に、ビジランティに睨みを利かす「サイゴン」って、どうなのよ。
 

「ザニラ」の業界紙広告。(画像提供:へんりーさん)
 宮内製作所(通称「ミヤウチ」)は自動車プラモを中心に、様々なジャンルのキットを出していますが、コレクター仲間では「ゴジラ」ならぬ小さな怪獣「コジラ」や、手塚治虫のワンダースリーに出てきたスーパー一輪車「ビッグローリー」をそのままキット化したような「ローリングカー」等の方が有名かもしれません。
 そんなミヤウチが1967年4月に発売したのが水の怪獣「ザニラ」です。
 実はこのキット水陸両用でゼンマイ動力、水中モーターも使用可能で金メッキ部品付き(^_^;)というてんこ盛りな内容ながら、コレクターの仲間内でも誰も現物を見た事が無いという幻のキットです。
 まぁゼンマイ付きで150円という価格からすれば大層なギミックとも思えず、水かきの付いたタイヤで走って水上も何となく進む的な内容ではないかと愚考する次第ですが、ザリガニ怪獣と思しき設定は非常にユニークですね。
 おそらくこれはキット発売前年の1966年12月に封切された東宝怪獣作品「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」に出てくる怪獣「エビラ」からインスパイアされたものではないかと思われますが、ザリガニ怪獣というコンセプトでデザインされたキットの造形がどのようなものであったのか非常に興味があります。
 ミヤウチって本当にユニークな会社ですよねえ。
 

「ガメゴン対ドラギラス」の業界新聞広告。(資料提供:へんりーさん)
 今度は西洋のロングソード+鹿の首だけのはく製という「剣と鹿」、テンプ機構ゼンマイをタイマーに使った火薬発火式「ダイナマイト」(但しテンプが緩くてスイッチを入れると1秒程で爆発するので逃げられない(笑))、口から火を吐いて歩く「狼男」等のユニークなプラモデルで定評のある岡本プラスチック(通称「オカモト」)のキットの紹介です。( 一応先にお断りすると、オカモトのキットの大半は真面目なスケールモデルです)
 そしてこれこそがオカモト最大のレアキット、1967年5月発売の「ガメゴン対ドラギラス」。
 他のキットがゴム動力でスクリューを回して走る単純な機構なのに比べて、この「ガメゴン対ドラギラス」は尻尾を振って泳ぐというギミックです。しかも定価150円で二体入りだぁ!どーだ、持ってけドロボウってんだ!
 私は黄金ガイコツは持っているんですが(あるんかい(笑))「ガメゴン対ドラギラス」はキットを見た事もないんです。興味あるなぁと思っていたらこんな雑誌広告がありました。

「ガメゴン対ドラギラス」の雑誌広告。(画像提供:アーミーカラーさん)
 何とこれって実売されてたんですね。しかも右上のイラストは箱絵のようで、これは正しく先に紹介した業界紙広告の絵ではありせんか!
 当時お約束になっていた水中モーター(初版の青)の大きさと比べると、「2対で150円」という価格設定から想像できるように、かなり小さいもののようですね。「水中モーターをつけるととてもよく走る!」って、そりゃあそうでしょうよ。(笑)
 どちらも顔がニットーのフリクション走行「ガメラ」みたいでとてもチャーミングです。
 水中モーター走行はさておき、是非ゴム動力で尻尾をフリフリしながら泳ぐ「ガメゴン」君と「ドラギラス」君を見てみたいものです。
 

サンキットの「グジラス」(画像提供:へんりーさん)
 次はサンキットの「グジラス」を御紹介しましょう。実はこのメーカー、アリイから再版されて知名度の高いミステリーバンクの元々のメーカーだったり、自社オリジナルの水中モーターを組み込んだ潜水艇「アストロビー」など、コレクターの間では結構知られたメーカーであるにも拘らず、日本模型新聞にも広告がありません。なのでこのキットがいつごろ発売されたのか不明ですが、恐らく1967年から数年の間、多分1968年頃の、正に怪獣プラモブームの真っ最中だと思われます。
 キットとはあまり似ていない「グジラス」の顔ですが、東宝の地底怪獣バラゴンのような恐くて可愛い愛嬌のある顔ですね。おめでたい時にやって来る獅子舞の獅子頭のようにも見えます。
 これも「ワニラ」(「シウルス」)同様、キットの全形を示す為に海上にぷかぷか浮いているようなイラストになっているのも面白いです。きっと小松崎先生なら海中と海上の両方を同時に活写するようなダイナミックで重量感ある絵を描いたんじゃないかと思ってしまいます。(海中には正面を向いたエンゼルフィッシュも居るに違いない。(笑))
 しかしグジラスにミサイルでケンカを売っている潜水艦、逃げなさいアンタ。ミサイル全っ然 効いてないから。
 

「グジラスのパーツ内容。(画像提供:へんりーさん)
 さてその「グジラス」のキットの内容が上の写真です。箱いっぱいに魚の開きのようになって入っている「グジラス」君、軽く火であぶって食べると脂が乗っていて美味しそう…じゃなくって。
 箱絵では体はクジラのようにのっぺりと描かれていますが、キット自体は如何にも怪獣然とした禍々しいうろこ状のモールドが施されています。怪獣という異形の生き物という設定の「サイン」としてツノやゴジラ様のセビレはあるものの、もしこのキットの体表が箱絵のようなのっぺりした物だったら全く怪獣感を削ぐものになっていたでしょう。
 浮力を空気室ではなく発泡スチロールで確保しているのが一目瞭然のカットです。
 箱絵の所で述べた「獅子頭のような顔」も、実態はもっとスマートで恐ろしげなものですね。その一方で「牙」は「歯」のようになって、逆にこちらは獅子頭みたいな歯並びの良い健康優良児君になっているのも面白い所。
 またメーカーは画家さんに箱絵を依頼する時にどのような情報を提供してボックスアートと中身のマッチングを図り、あるいはキット以上にカッコよく描いてもらいたいと交渉したのでしょう。タミヤのMMシリーズようなスケールモデルとはまた違ったメーカーオリジナルSFキットの中の、更に現物の無い怪獣という捉え所のない商品を絵にするのは中々大変だったと思われます。
 

「グジラス」の組み立て説明図(画像提供:へんりーさん)
 上は「グジラス」の興味深い組み立て説明図です。
 ゴム動力だけど水中モーターも使える自動浮沈の水もの怪獣とくれば、メカニカルなデザインはもう自動浮沈潜水艦と大差ないだろうことは容易に想像がつきますが、確かにこれは生物型をしていてもプラモデルとしては潜水艦そのものです。艦橋(セイル)を付ければ立派な和製ノーチラス号ではありませんか。
 但し多くの潜水艦模型では、水の抵抗を受けて潜舵を上下させるレーダーは、潜舵と同軸上に付けて簡略化していますが、このグジラスは水の抵抗を受けるツノからリンク機構を介して潜舵に当たるヒレを動かすというちょっと凝った設計になっています。
 モーターライズで船体後部の舵を動かすイマイのサブマリン707Cクラスやヤマダの潜水艦(とそのコピーキット)を除けば、このリンク機構による潜舵駆動を採用しているのは日本ホビーの「伊号400」(再版有井)くらいでしょう。「伊号400」がレーダーが船体中央部にある艦橋にある一方で潜舵は艦首にあるという距離の要請からあの機構に落ち着いたのでしょうが、この「グジラス」は逆に水圧を感知するツノは頭のすぐ後ろにあって、潜舵に当たるヒレが胴体中央部にある事の要請という、位置関係としては真逆のものになっているのも興味深いですね。
 
上の写真は2008年の水ものオフ会の、努さん作”お友達の「シウルス」君をひっぱってあげる「グジラス」君”のツーショット!
 キワモノ的な扱いになりがちなスクリュー付き怪獣というキッチュなプラモデルも、努さんの超絶塗装技術にかかるとこんなにも魅力的な作品になります。
 努さんの「グジラス」紹介のブログはこちら。「努ブログ
 これを拝見するとプラモデルに欠かせない塗装というものが、更にチープな怪獣プラモデルにあっては如何に重要な要素であるかが分かります。正に怪獣愛の成せる業と言えるでしょう。
 

ナカムラの「ギジラ」。(画像提供 yk さん)
 最後は1971年2月発売の、ナカムラの水中怪獣「ギジラ」です。
 このパッケージイラストで感心するのは、まずしっかり描かれた主役の「ギジラ」君。中々の男前で筋肉の質感や光と影の描き分けなど、当時の恐竜図鑑を見るような充実感がありますね。そしてもう一つはヤラレ役の貨客船(?)の浮力感が実にリアルな所です。海から這い上がって来る「ワニゴン」のパッケージも恐いですが、やはり水棲怪獣は船を襲ってなんぼ。(笑)
 東宝怪獣映画の一コマを見ているようでドキドキしませんか?これも伊福部昭先生の重厚な音楽が聞こえてきそうです。
 「ギジラ」のキット情報を提供して頂いた yk さんのブログはこちら。「古いプラモが好き B級プラモの世界にようこそ」
 

「ギジラ」のパーツ群。(画像提供 yk さん)
 

 左はその「ギジラ」のキットの中身です。
 ykさんの入手時には既にこの状態でインストもなく、パーツもバラバラ。ブログで紹介する時に大体こんな感じ?と回しランナーの中にもげたパーツを丁寧に再配置して撮影されていますが、インストが無いので欠品があるかどうかも不明との事。
 確かにゴム動力でスクリューを回して水上走行する事を考えれば、元々はこれ以外にゴムやスクリューを貫通する金属シャフト等があったのは間違いないでしょう。
 このキットはステゴザウルス似の本体ながら翼竜のような前肢が付いているというある意味これもキメラ怪獣のデザインなので、一瞬オリジナル金型か?とも思われましたが、翼の付く胴体部分が何だか不必要に平らな感じもするので、これも元々は恐竜プラモの金型を改修して、前足の付く場所にスリットを入れて、足の代わりに翼を付けちゃったと見るのが正しいのかもしれません。
 ただそういった目で再度パーツを眺めてみると、下の写真の胴体以外のパーツにはステゴザウルスの四本足に相当するパーツが見当たらず、スクリューやら水中モーター用のアタッチメントらしきもの等、「ギジラ」用に必要不可欠なものだけで構成されていると思われるので、もし恐竜プラモデルの改修キットだったとしても、下のパーツは丸々新規金型起こしをしているように思われます。
 元々がステゴザウルスのプラモデルだったかどうかは不明ですが、少なくともこの造形からするとデザインの元ネタがステゴザウルスだった事は間違いないでしょう。とはいえ、首が上方に向けてグニュ〜っと持ち上がっているポーズは、如何にも昔の恐竜復元図のようで興味深いです。
 

「ギジラ」のパッケージ側面。(画像提供 yk さん)
 「ギジラ」のパッケージ側面には「ギジラ」以外に同じシリーズの「ザイキング」が載っています。これは正にトリケラトプスデザインの怪獣ですね。
 「え?ステゴザウルス似の怪獣とトリケラトプス似の水もの怪獣シリーズって他にもあったよね?」と気が付いて改めてネットで調べると、何と「ギジラ」は先に紹介したの中村産業の「トゲラ」と全く同じパーツではないか!となると「ザイキング」も中村産業の「サイゴン」に違いない!
 「これは世紀の大発見だ!」
 「あんた、ナカムラって中村産業でしょ。」
 「あ、そういう事ね。(^_^;)」
 チャンチャン。
 ここであらためて水棲怪獣キットを時系列に並べてみると以下のようになります。
発売年月 メーカー キット ギミック 価格
1967年1月 今井科学 「ワニラ」 ゴム動力 50円
1967年4月 今井科学 「シーザウルス」 ゴム動力、水中モーター 150円
1967年4月 中村産業 「トゲラ」「サイゴン」 ゴム動力、水中モーター 100円
1967年4月 宮内製作所 「ザニラ」 ゼンマイ、水中モーター 150円
1967年5月 岡本プラスチック 「ガメゴン対ドラギラス」 ゴム動力、水中モーター 150円
1967年6月 日東科学 「水中ワニゴン」 ゴム動力、水中モーター 100円
1968年? サンキット 「グジラス」 ゴム動力、水中モーター 200円
1971年2月 ナカムラ 「ギジラ」「ザイキング」 ゴム動力、水中モーター 100円
1984年3月 イマイ 「シウルス」 ゴム動力 100円
 こうしてみると1971年以降の再版品はさておき、水棲怪獣という特異なジャンルのプラモデルは、ほぼ1967年という限られた時期にのみ花咲いた日本の特殊な模型文化だった事が分かります。
 ではなぜこの時期に水棲怪獣プラモデルが一瞬だけ一気に花開いたのでしょう?それを推し量る鍵はギミック欄にある、とあるアイテムではないでしょうか。その名もズバリ水中モーター!
 業界では水中モーターの単体発売以前から、この完全防水でモーター、電池、スクリュー、舵が一体化され、簡易なアタッチメントパーツ一個で装着可能という、画期的な水中動力ユニットに強い関心と期待感があったと言われています。それもそのはず、自社で簡単なゴム動力艦船を作れば「水中モーター使用可」とさえ謳うだけで他力本願的にモーター動力の水ものプラモデルが出来てしまうのです。
 実はプラモデル模型業界は1958年に日本初の国産プラモデルが発売されてから、子供から大人まで楽しめる最新のホビーとして歓迎され、高度成長期の波に乗って「どんなものでも作れば売れる」という活況を呈しました。その中で1960年代中頃にはスロットカーブームが訪れて模型メーカーは文字通り猫も杓子もスロットカーキットやスロットカーパーツに手を染めました。しかしコースが遊興施設化してレース賭博が始まるなど社会問題化しました。その頃の業界紙には「いつまでもスロットカーブーム頼みでは危険だ。メーカー全体で次世代の新商品開発をしないと業界全体が破綻するぞ!」という意見記事まで出る程危機感も高まっていました。
 その懸念は不幸にも当たってしまいました。日本中の模型メーカーが浮かれたスロットカーブームは僅か2年程で終焉を迎え、メーカー、問屋、小売店全てがスロットカーの余剰在庫に四苦八苦するのです。
 そんな時に現れたのがマブチの水中モーターS-1でした。模型メーカーの大手と言えば日本模型位。田宮模型ですらまだ業界の中堅メーカーで、殆どの模型メーカーが零細企業だった当時、自社開発の最小の負荷でモーターライズの水ものプラモデルが開発できるとあって、”水中モーター使用可”をセールスポイントに挙げるキットが次々に出たのが将にこの1967年だったのです。その殆どはスケール艦船モデル、セミスケール艦船モデルでしたが、その傍流として誕生したのがこの水棲怪獣キット群だったと言えるのではないでしょうか。

 あだ花のように日本のプラモデルの中で一瞬花開いて散って行った、これは儚くも懐かしい、日本プラモデル史の小さな1ページなのです。
 
 さて、ここまで各種水棲怪獣プラモについて紹介をさせて頂きましたが、皆さんはどんなインスパイアを得ましたか?
 これを機会にあなたも是非自分オリジナルの「俺水棲怪獣」を作って、俺メカコンテストに参加してみませんか。

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