トップ


怪盗にゃんこテール   by ざっくばらん


エンフィールドの北のはずれ、古びた東洋風の建物がある。
これは、そこの住人のお話。


(とてててて‥‥)
普通に歩いても軋みそうな廊下を、軽い足音が駆けていく。
「おね〜ちゃん!ただいまぁ〜!」
満面の笑顔、元気いっぱいの女の子が部屋に入ってきた。名前をメロディ・シンクレア猫耳としっぽ、手足はフサフサの少女。猫娘と呼びたくなる容姿の持ち主なのだが、本人いわく‥‥
「メロディはネコさんじゃないんですよぉ?」
‥‥とのこと。では何者だ? と聞くと‥‥本人もよくわからない。
「おかえりぃ〜」
そんな少女が、「おね〜ちゃん」と呼ぶ人物が応える。
橘 由羅。この家の主、キツネのような耳としっぽをもつ妖艶な女性。
彼女はラシアンという種族で、その毛皮の美しさからハンターの標的になり、個体数を極端に減らしていた。そんな境遇に置かれている彼女だがそんなことはおくびにも出さずにいる。
お酒が大好きでいつも片手にお酒のビンを持ち、年がら年中飲んでいる。
もちろん今も‥‥。
「どこ行ってたのぉ?」
「うにゃ〜!あのね、メロディね、シェリルちゃんにね、えほんよんでもらったのぉ!」
「へぇ〜」
「すごくおもしろかったの〜〜!」
メロディは、手を大きく振ってその面白さを体いっぱいに表現した。
「よかったわねぇ」
「うにゃん!」
由羅はメロディに微笑む。そしておちょこに酒を注ぎそれを飲み干した。
と、ここまではいつもどうりの一日、この家ではよくある光景だった‥‥。

「にゅふっ、にゅふふふふふふ‥‥」
メロディがなにやら意味ありげに笑い出す。
「それでねっそれでねっ! メロディおもいついちゃったの!」
「?」
「メロディね〜かいとうになるの! もう、なまえもきめちゃったのぉ〜かいとうにゃんこテールっていうのぉ〜」
「‥‥え?」
由羅は時々、突然突拍子もないことを言って周りを驚かす‥‥これは由羅の専売特許だ、その元にいるメロディにそれが受け継がれていて何の不思議があろうか。
とはいえ、その本家をも驚かせる突拍子ぶりは大したものだった。そんなことを言い出したメロディに由羅は。
「メロディ‥‥怪盗ってどんなのだか知ってる?」
と、聞くのであった。
メロディのこと、怪盗が何だか解らずに口にしていることは十分ありうる。
「うん! しってるよぉ!」
「あのね、こまってるひとがかみさまにおいのりしてね、それをきいたかいとうさんがかみのごかごでへんしんするんだよぉ」
内容がわからない話をメロディは一生懸命に説明する。
‥‥やっぱり怪盗が何だか解っていないようだ。
要するに、シェリルに読んでもらった絵本の話に影響を受けたらしい。
由羅にもメロディが、作り話の怪盗に憧れていることは理解できた。
「メロディこまってるひとをたすけるの!」
メロディはすっかりその気になっている。
「(ん〜、この子のことだから悪いことはしないか‥‥な)」
由羅はそう判断した、そしてメロディに小指を出して。
「メロディ、怖いととか危ないことしないって約束してくれる?」
「ふにゅ?」
「そうしたら怪盗さんしてもいいわよ」
「うん! する〜〜!」
「ゆ〜びきりげ〜んまん、う〜そついたらは〜りせ〜んぼんの〜ますっゆ〜びきった!」
「うにゃ! わぁい、かいとう‥‥だぁ〜〜!」
怪盗にゃんこテールの誕生である。


夜。人々が寝静まったころ、月の光に照らされたエンフィールドの街を黒い影が走る。軽い身のこなし、その影がある建物の中へと消えていった。
その建物の、表の看板には「さくら亭」と書いてある。
酒と食事、そして宿泊もできる。
よくあるタイプの、しかしこの街には唯一の店。

その廊下を足音一つさせずに進む黒い影‥‥‥。
テーマ曲をリクエストするなら、ぜひ「ピンクパンサーのテーマ」を指定したい。
「ぬきあしぃ‥‥さしあしぃ‥‥ねこのあしぃ〜」
一応緊迫した場面のはずだが、まるで緊張感のない声が廊下に響く。
「でもメロディはネコさんじゃないんですよぉ?」
‥‥さて、誰に向かって言っているのか。当然そこには誰もいない。
即席怪盗にゃんこテールのメロディは、音も立てずになおも進んでいった。
「うにゅ!? くんくん‥‥くんくんくん」
なにやら匂いを嗅ぎ始める。
「これは‥‥パティちゃんですねぇ〜」
どうやら匂いの主を嗅ぎ分けてしまったらしい、その匂いのする部屋へと入っていくメロディ。
(パタン‥‥‥‥)

「スー‥‥スー‥‥」
部屋に入るとそこにはこの部屋の主、パティ・ソールが寝息を立てていた。
さくら亭の看板娘。少し喧嘩っ早いのが玉に傷だが、その活発的な容姿と誰にでもわけ隔てなく接する性格で人々の人気は高い。
「にゅふふ‥‥、パティちゃん。よくねてますねぇ〜」



パティは、部屋に入ってきた侵入者に気付く事も無く眠り続けていた。
「うにゅ〜、ところでなにをかいとうすればいいんでしょ〜」
さて、忍び込んだまではよかったのだが‥‥怪盗がこの後なにをするのかよく理解をしていないメロディ。
「‥‥‥むにゅ〜〜」
なにをやったらよいのかわからずに悩み始めてしまった。まあ、メロディにとって考えてわかるものでもないのだけれど‥‥。
「むにゅにゅにゅぅ〜〜」

しばらく苦悩の時間が続く、しかしなにも考えつかない。
そうして考えているうちに‥‥。

「うにゅ〜〜。メロディねむくなってきてしまいましたぁ〜」
導き出せない答えを求め考えを巡らせる、そのうちメロディは眠くなってきてしまった。
「にゅ〜。ねむいの〜」
そうでなくても日頃、夜更かしなどしないメロディは、この時間に起きている事などほとんどない。眠くなって当然と言えば当然である。
なお、ここでも「猫は夜行性では?」などと言ってはならない。猫じゃないらしいから‥‥。
「うにゅ〜。パティちゃん、あったかくてきもちよさそ〜」
メロディは、気持ち良さそうに眠るパティを見つめ指をくわえた。
「うにゃ! メロディもねちゃお〜っと」
「ポン」と手を叩いたメロディ、おもむろにパティの眠るベッドに潜り込んでいった。
「にゅふふふ〜〜。パティちゃん、おじゃましますね〜〜」
もぞもぞと布団の中に入って、その気持ち良さに声を上げる。
「ふにゃ〜〜。ぬくぬくですぅ〜〜」
そして、すぐに寝息を立て始めてしまった。

‥‥いいのか? 怪盗にゃんこテール!?


その時パティ・ソールは心地の良い眠りの中にいた。1日の仕事を終えて横になる、疲れた体にこの暖かい布団はとても気持ちがいい。体の疲れが取れていくのがわかるようだ、そしてパティは眠りについたのだった。

寝返りを打ったとき、手に「ふさふさ」したものが触れた。その「ふさふさ」の気持ち良さに意識が少しだけ戻ってくる。
「あ、このふさふさ気持ちいい〜」
夢見心地でもっと触る。
「ほんと、あったかくて気持ちいいなぁ」
「うにゅ〜。なでなでなの〜〜」
「!?」
その声を聞いたとき、パティは急速に目を覚ました。
(ガバッ!)
「わああ〜〜〜!」
ここは自分の部屋、自分のベッド。ほかの「誰か」が居るはずがない場所。
パティは、あわててベッドから飛びのいた。寝起きでありながらそれだけの行動が出来たのはさすがである。

「だ、誰よ! なんなのよ!」
ベッドに潜り込んでいる「誰か」を睨む。すると、「それ」は布団の中でもぞもぞと動いた。
「あ、あんた誰よ!?」
パティはなおも緊張をしたまま睨み続けた。
「うにゅ〜〜。しずかにしてくださぁ〜い」
パティの緊張とは遥かにかけ離れた呑気な声が布団の中から聞こえてきた
「メロディはおねむなのですぅ〜〜」
「メ、メロディ!?」

「うにゃ?」
名を呼ばれてメロディも目を覚ました、同時に自分の「使命」も思い出した。
メロディはベッドから出て立ち上がる。
「メロディ? こんなところでなにをしてるの!?」
「にゅふふふ〜〜。メロディは、メロディじゃないですぅ〜」
「‥‥はぁ?」
「メロディは怪盗にゃんこテールなんですぅ〜」
言葉としてとても変なのだが‥‥、メロディは自分のことを「メロディ」と呼ぶ。一人称が「メロディ」なのだ。
「え? ‥‥にゃんこテール?」
事態がよくわからない、パティ。
「にゅふふ。というわけでぇ、かいとうさせてもらいますよぉ〜」
そのパティに怪盗にゃんこテールは、無邪気に‥‥しかしとんでもないことを言う。
「か、解答!?」
「うにゃ〜〜。ちがうの〜」
「じゃあ‥‥解凍?」
「にゅ〜〜。かいとうじゃないの〜! かいとうでもなくてぇ‥‥うにゅにゅ? え〜っと‥‥なんだっけ?」
「‥‥怪盗でしょ?」
「うにゃ! そ〜なのぉ! かいとうなの〜!」
「なんなんだか‥‥ねえ、怪盗って意味わかってる?」
「うにゅ〜。わかってるの〜、だからここにかいとうしていいものはありませんかぁ?」
「か、金目の物なんて物なんてここには無いわよ」
「ふにゃ〜。「かねめのもの」なんて、いりませ〜ん。かいとうしていいものがほしいんでぇ〜す」
「‥‥はぁ?」
怪盗が忍び込んで、手に入れようとするものといえば「金目の物」と、相場が決まっている。金目の物じゃない「怪盗していい物」とは?
「にゅ〜。なんでもいいからありませんかぁ?」
翌々考えてみると、パティの部屋に怪盗が忍び込んで手に入れようとする物などあるはずがないのだ。
「なんでもいいって‥‥なんでもいいの?」
「うにゃん! それをほしがってるだれかにもっていって、よろこんでもらうんでぇ〜す!」
パティにも、ようやく現状がわかってきた。しかも、メロディいや、怪盗にゃんこテールが、「怪盗」の意味をちゃんと理解していないことも。

「それじゃあ‥‥あの袋を持っていっていいわよ」
「ふにゅ? これぇ?」
「そうそれ」
パティが指差した袋は‥‥ごみの入った袋だった。
「にゅ〜。このふくろを、だれにもっていったらいいのぉ? よろこんでくれるひとがいないとだめなんですよぉ?」
「あ、あたし知ってるわよ」
「ふにゃ?」
「その袋はね、ごみを集める人が欲しがってたわ。だからそれをごみ置き場に置いておくと、集める人がとっても喜ぶの」
「うにゃ! ほんと?」
つまり、ごみをごみ捨て場に置いてきてくれと言うこと。ものは言い様。
「う、うん‥‥ほんとだよ」
「うにゃ〜。じゃあもってく〜」
「どうぞどうぞ」
「わぁ〜〜い、かいとうだぁ!」
うまく言いくるめられてることに気付きもしないで、メロディこと怪盗にゃんこテールは怪盗をした喜びいっぱいで部屋を出ていく。
「あ、でもごみ置き場にはきれいに置かなくっちゃだめだよ」
「うにゃ! はぁ〜い」
こうして怪盗にゃんこテールはさくら亭を後にしていった、ごみ袋一つを持って。
「‥‥なんなんだか‥‥」
後に残されたパティは、寝起きを襲った嵐にただ呆然としていた。
「‥‥寝よ」
そして、よくわからない今の出来事をさっさと忘れようと、布団に潜り込むのであった。
「にゅふふふ。わ〜〜い! かいとうしちゃった、うれしいなぁ!」
ごみ袋をごみ置き場にプレゼントして、初めての「使命」を終えた怪盗にゃんこテール。
「使命」の達成に大満足しながら、足取りも軽く屋根づたいに帰路についたのだった。
別に屋根づたいじゃなくてもいいのだろうが、これも「怪盗」ということで‥‥。


エンフィールドの治安は決して悪いほうではない。とはいえ、自警団による夜回りはこの街の治安を守っていく上で必要なものだ。
この日、アルベルト・コーレインは自警団の団員として、夜回りに参加していた。
自警団の夜回りといっても緊張感はあまりなく、警戒していると言うよりは夜の街を散歩していると言ったほうが合っているかもしれない。それでも、効果は十分ある
「あ〜あ、こんな夜更かししてちゃ、肌が荒れちまう。帰ったらちゃんとお手入れしなくちゃな‥‥」
そのぼやきを聞いて一緒に行動している団員が苦笑する。アルベルトは化粧好きと言う少々変わった趣味の持ち主である、平均的な趣味の者には理解しずらいのだが。まあ、それを除けば、団員からの信頼も厚く、部隊のリーダー的存在だ。
(ヒュッ)
「‥‥!?」
そんなアルベルトの視界の隅に影が写った、屋根の上を走る影。
「なんだ今の?」
振り向いたアルベルトは、確かに屋根の上を走る影を見つけた。その影は屋根づたいに遠ざかっていく。
「いくぞ!」
盗賊だってあんな逃走の仕方はしない、アルベルトはその怪しすぎる影を追って団員と共に走り出した。


怪盗にゃんこテールは、屋根づたいに家に向かっていた。
「にゅふふ〜ん、にゅふふ〜ん。」
ご機嫌である、初めての「お仕事」はすごくうまくいった(と思ってる)。またやりたいなどとも思っていた。ところが‥‥。
「ややや!? うにゅ〜、これはたいへんですぅ」
怪盗にゃんこテールは困難にぶつかった。なんと、屋根づたいに逃げていたその屋根が途切れてしまったのだ。シェリルの読んでくれた絵本には、屋根づたいに逃げていくところしか描写されていなかった。
つまり怪盗は家まで屋根づたいに帰るというのが基本と思ってる怪盗にゃんこテール。これは困ってしまった。
ちなみに、メロディの家まで民家は連なってはいない、つまり元々屋根づたいには帰れないのだが、メロディは帰るつもりでいた。怪盗の行くところ必ず屋根があるとでも思っていたのかもしれない。遅かれ早かれこういうことになったのである。
「うにゃ〜、どうしましょ〜〜」
下に降りて行けばいいじゃないかというかもしれないが、本人の中ではそういうわけにはいかないらしい。屋根の上で立ち往生してしまった。
「むにゅ〜‥‥」
そうこうして屋根の上で考え込んでいると‥‥。
「おい! おまえ!」
下のほうから声が聞こえる。
「うにゅ? あ、アルベルトちゃんだぁ」
見るとアルベルトが、自警団員数人を連れて下から上を見上げていた。
「貴様何者だ!? なにをやってる! 降りてこい!」
と、メロディに向かって叫んでいた。
「うにゅ〜! おまえでもきさまでもないです〜〜! メロディは、怪盗にゃんこテールなの〜〜!」
本人は怪盗にゃんこテールここにありを声高らかに宣言したつもりだった‥‥が。
「なに!? お前メロディか!?」
‥‥ばれた。まあ、当然でしょう。
「うにゃ? はてな? ばれてしまいましたねぇ?」
「メロディ、こんな時間になにやってるんだ。危ないから降りてきな」
アルベルトは何気なく声をかけた。ところが。
「にゅにゅにゅ〜〜 これはこまりましたぁ」
メロディは困っていた。
怪盗にゃんこテールとなっている今、メロディにとって、このシチュエーションは警察に追い詰められた怪盗という風に写っていた。
「‥‥どうしたメロディ? 早く降りてきな」
「うにゅにゅ、うにゅにゅ〜」
しばらくにらめっこが続いた。そうしているうちに、最初は優しく接していたアルベルトが焦れてきた。
「メロディ! いい加減にしてさっさと降りてこい! でないとおしおきするぞ!」
なにをどうおしおきするのかなど決めてはいない、ただこう言えばメロディは降りてくるだろうと思ってアルベルトは怒鳴った。
「うにゃ〜! おしおきはいや〜〜!」
案の定メロディは慌てた。が、まだ怪盗にこだわっていた。
「にゅにゅにゅ〜〜、怪盗にゃんこテールだいピンチなの〜〜!」
と、そのとき‥‥。
「ちょっと待ちなさぁ〜い」
どこかから声が聞こえた。
「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! お酒が呼ぶ!」
夜の街に響く声にアルベルト達は辺りを見渡した。
「かわい子ちゃんの味方! 怪盗うわばみお姉さん、ここに参上!」
「アルベルト! あそこだ!」
団員が指差す先、月明かりに照らされた屋根の上に人影があった。
メロディのいる屋根から2・3軒先だ。離れていて顔はよく見えないが、長い髪とスラリと伸びた足、うっすらと見えるプロポーション。お姉さんかどうかは別として女性であることは確かのようだ。
「なにが怪盗うわばみお姉さんだ! ふざけた名前名乗りやがって! 貴様どこのどいつだ!」
突然現れた新しい変な怪盗にアルベルトは怒りをあらわにした。
「ふふふ〜、なぁ〜い〜しょっ!」
なかなか人を食った態度だ、アルベルトは挑発にしっかりとのってしまう。
「なんだとこの野郎!」
「野郎じゃないわよん? みえないのぉ? このプロポーション?」
「むっか〜〜〜〜っ!! てめぇ一体なにもんだ!」
「だから、怪盗うわばみお姉さんなんだってばぁ」
一枚上手である。そうやって一通りからかっていると‥‥。
「うにゅ? くんくん‥‥あ、おねえちゃんだぁ! ゆらおねえちゃ〜ん!」
と、メロディにはにおいでわかってしまったらしい。しっかりばらしてしまった。
「あ! いっちゃだめでしょ!」
「うにゅ?」
「ゆらおねえ? あ! お前由羅か!?」
「ほ〜〜っほっほっほっ! なんの事かしらぁ?」
そんなやり取りの中、一緒にいた団員がうわばみお姉さんの足元になにかうごめく物を見つけた。
「おい、アルベルトあれなんだ? 奴の足元!」
「ん?」



目を凝らしてよく見る、すると。
「ヴ〜ヴ〜ヴ〜!」
「あれは‥‥クリス!?」
うわばみお姉さんの足元には、頭だけを出して袋に入れられたクリスが転がっていた、口にはさるぐつわをされて何かを必死に訴えようとしているのだが言葉にならない。
「ヴ〜ヴ〜ヴ〜!」
「あらぁ、クリス君、大人しくしててぇ〜」
転がっているクリスは、じたばたするが袋の中で手足も縛られているのかあまり身動きがとれずにいる。
「おいお前! クリスをどうするつもりだ!?」
団員の一人が問いかける。
「なにって‥‥うふふ、そんな野暮なこと聞かないでよ‥‥ねぇ?」
嬉しそうにクリスを見てほほ笑むうわばみお姉さん。
「ヴ〜〜〜〜!」
クリスはなんかすごく嫌がって首を振っている、だが言葉は聞こえない。
「とにかく、クリス君はもらっていくわよ〜」
そういうと、クリスの入った袋をもってお姉さんは逃げ出した。
「あ! こら! 待て!」
追いかけようとする団員。しかし、それをアルベルトが止めた。
「追いかけなくていい」
「なんでだ!? アルベルト! ありゃ、どう見ても誘拐だぞ! 立派な犯罪じゃないか!」
「アレには生贄が必要なんだよ‥‥」
「はあ? なに言ってるんだ?」
「クリスには尊い犠牲になってもらおう、それでこの街は救われる」
「おい! アルベルト!」
「いいんだよ。いいか? よく考えてみろ。クリスを由羅がどこかに連れて行って、どうにかされるのなんて、そんなのいつもやってる事じゃないか。夜に連れて行っただけだ」
「そんな‥‥それでいいのか?」
「そのうち開放されるだろ‥‥放っとこう」
そこまでいうと、アルベルトは振り返り怪盗にゃんこテールがいた場所を見た。
そこにはもう誰もいない‥‥。
「もう逃げたか、なんだったんだか‥‥、全く人騒がせなやつらだぜ」
アルベルトはため息をひとつ突くと、気を入れ替えた。
「さあ、仕事仕事!」
そう言うと夜回りを再開した。
アルベルトがつけたその日の報告書には「異常なし」と報告された。
そう、メロディや由羅が何かをやらかすのは「異常」ではなく「日常」なのだ。
それをいちいち取り上げてはいられない。第一、大して大事にならないし‥‥。


メロディは、家に帰るとすぐに寝てしまった。
今日は夜更かしが過ぎた、とても眠かった。由羅の部屋では由羅とクリスの匂いがあってなにやら騒がしかったが、好奇心より睡眠欲のほうが上回った。
眠りに落ちながらメロディは今日の出来事を思い出していた。
「かいとう」はわりと上手くいった。しかし、アルベルトに追いかけられてちょっと大変だった。
「かいとう」は面白いけれど夜も遅くて眠くなるし、おしおきされちゃうものらしい。それはちょっと嫌だと思った。だから「怪盗にゃんこテール」はもうおしまい。今度は違う遊びをしようと思った。
そしてメロディは、楽しい夢の世界へと入り込んでいった。


次の日。
(とててて‥‥)
「おねーちゃん! ただいまぁ!」
メロディが息を弾ませて遊びから帰っていた。
由羅は少し寝不足気味のよう、しかし満足そうになにかを思い出してはにやけていた。なにかいいことでもあったらしい‥‥。
「あ、おかえりぃ〜。今日はどこ行ってたの?」
「うにゃ〜! あのね! メロディね! きょうもシェリルちゃんにね! えほんよんでもらってきたの〜!」
「へぇ〜」
「とってもとってもおもしろかったの〜!」
メロディはその面白さを体いっぱいに表現した。
「よかったわねぇ〜」
「うにゃん! それでね! メロディきめちゃったの!」
なにか昨日も聞いたせりふが続く。
「メロディこんどは、たんていさんになるの〜!」
「‥‥え?」
「じっちゃんのなにかけると、しんじつはひとつじゃないかもしれないの〜!」
メロディはそう言うと大はしゃぎで部屋の中を走り回った。
「にゃはははは〜〜〜〜!!」
「やれやれ‥‥」
しばらくこの「なりきり遊び」は続きそうだ‥‥由羅はそう思った。でも、「まあ面白ければそれでいいか」とも思った。
これからどんな面白いことが起こるのだろう、とても楽しみだ。はしゃぐメロディを見つめながらいろいろ想いを巡らせる、すると余計酌が進んでいった。
そして、空の酒瓶が部屋の中に築き上げられていく。

それからなにを差し置いても、明日はお酒を買いに行こうと由羅は考えていた。

END.


あとがき

かれこれ書いてから2年くらい経つと思います。
あんまり文章を書いたことはないんですけど、ちょっとその気になったので書いて見ました。
文がつたないのは目をつぶってください。
ちょっとした縁で「悠久幻想曲」にかかわりました。
とても厳しい日々を過ごしました、それはそれで楽しい思いもしましたけどね。

ざっくばらん


トップ