いつまでナイショにしていられるのか。

 それすらもわからない。

 でもできることならナイショにしておきたいのだ。


















「…太公望……」



 そう呟く彼の発する怒りのオーラに、それを見つめるある者はひぇっ、と仰け反り、またある者は「ご愁傷様」と溜め息をつく。

 そのオーラに気付かない者はただ一人。

 名を呼ばれた太公望その人である。

 今、彼の頭の斜め45度ピッタリ直線上には大きな大きなハリセンが構えられている。そして誰かが心の中でカウントを打つ。

 3、2、1…

 スパ━━━━━ンッ!!!



「痛ぅ………」



 音が会議室中響くぐらいの強さで叩いたにもかかわらず、未だ寝惚けまなこの太公望の耳元で、周公旦がこれまた大きな声を出す。



「周国の軍師が!こんな大事な会議中に!眠りこけていていいと思ってるんですかっ!??」



 起き抜けに怒られるのは誰でも不快だ。しかもその相手が旦だというのは、もっと不快だ。

 いらついて、思わず本音が出てしまった。



「昨晩は、大変だったのだ…」



 …失言。

 しかし、言った後に後悔してもムダというもの。

 だが何とか逃げなければ。

 ナイショにしておきたいのだから。



「何が大変だったんですか。大変だったのなら、それはそれは随分と溜まっていた仕事が片付いたんでしょうねえ?」

「悪かった。もう寝ない。だから耳元で説教たれるのはもうよしてくれ」



 ここは素直に謝るのが得策。

 やはり彼も会議がこれしきの事で滞るのが嫌だったらしく、それ以上説教が続くことはなかった。












(………しかし)



 こういう時、あやつは助けてはくれない。

 おぬしのせいだと向かいの美丈夫を密かに睨みつけてみるが、憎たらしいほど綺麗な笑顔を返されるばかり。

 お体は大丈夫ですか、という危惧のこもった苦笑と、惚気て下さってもいいのに、という幸せそうな笑いが入り混じったような笑顔。

 それがまたむかついて、顔を思いっきりそらした。













 …本当に、いつまでナイショにしていられるのか。

 いつかぽつりと言ってしまいそうで、自然に惚気てしまいそうで、怖い。

 また、そんな自分がいてもいいんじゃないか、とは心の奥底で思う。

 でもやっぱ、できることならまだナイショにしておきたいのだ。

 甘いあまいこの気持ちを。













*END*


超短時間でできてしまった…。
なんだこりゃ。
昨晩大変だったってのは、勿論Hに励みすぎちゃったらしいんですが(それも、ヤツの方が一方的に!)。
可愛い心の望ちゃんを目指したんですが…。
寒い話…;
たんたん(旦のこと)は、結構嫌いじゃないほうです。
そういえば、終始、楊ゼンの名前が出てませんでしたね。