「…太乙さま」

「だめだよ。“太乙”って、呼んで」

「…たい、いつ……」

「よくできました、」








「太公望…」








 たとえ尊き仙人であろうと。

 欲がなければ生きてはゆけない。

 そしてその欲が最終的に生み出すものは。





 ━━━━━狂気。











「キミはもう、ずーっとここにいていいんだ」



 腕の中のぬくもりを、確かめるように抱き締める。

 体も髪も顔も声も体温も…全て再現した。

 まだ表情はぎこちないけれど、そのうちそれも自然なものとなっていくだろう。



「だからもう私のそばから離れないでね」











 ただの、人形だと。

 周りがそう言って『彼』を幾度となく壊そうとしたので、洞府を自分が知り得る最大の結界で封印した。

 ゆらゆら揺れる安楽椅子に座って、まるでこどもをあやすように。

 大きな瞳にはひとすじの光も宿らない、人型の機械の頬に、優しい口付けを落とした。



「たいいつ…?」



 名前を呼ぶその声が、あまりにも似過ぎていて。

 自分の頬に、あたたかいなにかが伝い落ちてゆくのを感じた。



「…なんでもないよ」



 その雫が彼の頬にも落ちて、まるで彼が零しているようにも見えた。











 二人きりの世界。

 さびしくはない。

 こころが一人きりではないから。

 でも本当は、一人きり。

 それがわからないのが、狂気。

 …本当はわかっているのに。

 それも、狂気なのだ。








*END*


初・太太。
しかも、HP至上最悪の意味不明度を誇ってしまったような。
太乙は、優しく愛してくれるのも好きだけど、狂愛も好きだなあ。
自分が欲深いの悟ってるって感じだし、それに抗おうとも思わない。
そんな彼を書きたかったんです。
仙人って、欲と煩悩を捨て…とかよく言うけど、そんな人封神演義の中でほとんど見なかったような気がするんですが。
…ですよねぇ?
ちなみに、この話は一応、太太的後日談、かな?