GIRL FROM MARS












 会社帰り、遠回りにふと立ち寄った公園の小さな池。
 
 その池のほとりには、全身びしょ濡れで今だ水を滴らせながら座る少女がいた。

 星空の下、ぴちゃんぴちゃんと裸足で寂しそうに水面を波立たせる彼女は、その時の楊ゼンにはなんだかとても愛おしいものに感じられて。

 ゆっくりと近付いていく楊ゼンの気配に気付いた彼女が驚いて振り向いてきたその瞳は思ったとおり潤んでいた。

 そしてその儚げな光景に瞬時心を奪われる。

 それはどこで誰が何をしていようと自分には関係ない事…という自論が脆くも崩れ去った瞬間だった。



「…風邪……引きますよ」



 新調したてのスーツの上着で彼女の体を包んでやると、困りながらも嬉しそうな顔をして、「ありがとう」と言った。



「早く家に帰らないと、もう充分家族が心配する時刻ですよ?」

「家には…帰れぬ」



 ならば家出したこどもなのだろうかと思っていると、突然彼女の細い人差し指が、ゆるゆると満天の星空を指した。



「わしの家は…そうだのう、あの辺にあると思うが…。
 大気圏内に入った途端、乗ってきた船が壊れてしまって。
 …んで、落ちてきた場所がここだったのだ」



 …どう見ても。

 指が指し示す先に広がるのは、無限の星空のみ。

 もしやこんな少女にからかわれたのかと、少しむかっときた。



「あなたは宇宙人ですか」



 つっこみを入れるようにそう言うと、冗談のつもりだったのだが彼女は考え込んでしまった。

 そして、ふむ…、とか言いながら、また言葉を紡ぎ出した。



「まあ、わしは、“ニンゲン”ではないからのう…。おぬしの言う、その“ウチュウジン”とやらに属すると思うのだが」

「そんな話…」

「信じないと言うか。やけに現実主義なニンゲンだのう。…しかし、あれを見てもそう言えるのか?」



 そうして次に彼女が指差す先には、よくTVの特集などで見るのと同じような乗り物らしきものが池に上から突っ込む形でめちゃくちゃになって沈没していた。

 多分、俗に言う“UFO”だろう。

 これには、半分白い目で見ていた楊ゼンも驚かずにはいられなかった。

 しかし、それよりも。



「どうだ、信じてくれたか?」



 見つめてくるその碧の瞳に、すいこまれてしまいそうで。



「信じるも信じないも…
 僕は、あなたがなんであろうとあなた自体が気になります」

「…は?」



 そう、ほっとこうと思えば今頃きっともう自宅に着いている頃だろう。

 疲れてるし、そうしたいと切に願っていたのは自分自身だった。

 でもこの瞳の前から動けない。

 この不思議な少女が気になって、…否、愛しくて仕方ないのだ。

 自覚すると同時に、勝手にその唇が、彼女のそれに、触れた。



「なっ…!」



 恥ずかしそうに口元を手で覆う赤面の彼女がおかしくて可愛くて、思わず笑みが零れる。

 突然口付けてしまった自分自身にも虚をつかれたが、なによりもそれに対しての反応が良い…

 楊ゼンのそんな笑顔を見て少女は涙目でキッと睨んできた。



「お、お、おぬし、こんなことしてただで済むとは思うまいなっ!?」

「思ってませんよ。…だから、」



 そう言うが早いか言わぬが早いか、少女のそのびしょ濡れのままの体を抱き上げた。



「あなた、行くあてがないのでしょう?だったら僕の家に来れば良い。こんな所で“船”を直されてもこの辺が大騒ぎになるだけですし」



 厚意に感謝するより前に疑惑の目が向けられたが、その後すぐに「…良いのか?」と聞かれたから、「はい」と花も綻ぶような微笑を返した。



「では、今後変なことをせなんだら、行ってやっても良い」



 まるでどっちが世話になるのかわからない答えだったが、それは「諾」ということで。



「精進しますよ」



 その言葉は嘘になるかも…、と腕の中の細い体をさり気なく強めに抱き締めながら。

 誰も待たない、しかし今日から二人住まいとなる家へと向かった。









to be continued…


変な終わりかた…(死)
ていうかまた続く!?はあ、でも、これは一応犬の話とは対として書いてるから、です。
ふたつとも、話は違うけど、拾う・拾われるの関係で逆にしてみたので。
交互にUPしていこうかと思ってるんですが…。
ちなみに、この話は、The Turtles(スペル違ったらスイマセン;)の同タイトルの歌を元にして書いてます。
続きを見るまで知りたくない人は、完結してから聴いたほうが良いかも?