「来たね、玉鼎。…あっ、望ちゃんも!v」

激しく睨みをきかす楊ゼンを完全に無視して太公望に抱きつく普賢に、何故ここへ皆を呼び出したのかを問うと。

「あの三人はここにいるよ。ほんっと面白いから、行って見てきなよ」

そう言ってまたクスクスと笑う彼をいぶかしみながら、金光洞の門の前へと立ち、ドアベルを鳴らした。

『はーい、誰ー?』

忙しそうで気のない返事をインターフォン越しにしたその声は、ここ金光洞の主である太乙だった。

「…私だ。玉鼎だ」

その言葉の直後に、中から突然ドカーン!ガッシャン!…などという音が聞こえた。

「!?…だ、大丈夫か?」

『あー、いや…うん!大丈夫!全然大丈夫だからもちょっと待ってて!!……げっ!雲中子、何してる…の…う、うわーーーっっ!!!』

こんなものすごい叫び声を聞いておいて、素直に『ちょっと待って』いられる者がいるのだろうか。

「は…入るぞ!」

こういう時に限って煩わしい太乙お手製の超防犯システムが働いている重々しい門を、音速の斬仙剣でいともたやすくぶったぎる。しかも、居合い抜きでだ。

「すげぇ…。あそこまでの速さを身に付けるには、俺っちはあと何百年修行をつめばいいさ?」

感嘆の声をあげるのは、中にいるうちの一人道徳の弟子・天化だった。

廊下をバタバタと走り、大きなリビングの観音扉をバターン!と勢いよく開くと。

「わっ、玉鼎…!」

──果たしてそこには、部屋中に立ち込める甘い匂いと、直径5mはあろうかというほど巨大なケーキらしき物体がテーブルからもう落ちそうな状態であるのと、その物体の傍らでこちらを半分涙目で見つめている太乙に、両肩にバイオキシンZを乗せて片方の頭(?)を撫でている雲中子、料理のレシピ本のようなものを両手で広げたまま放心してしまっている道徳がいた。

「…もしかして…三人でこれ作ってたのか……」

「……うん………。祝賀会の時間に全然間に合わなかった。ごめん………」

その前にこんな巨大なケーキをどうやって金霞洞まで運ぼうとしたのかも謎だったが、三者三様で半分イッちゃいながらも一生懸命作ってくれたその物体が玉鼎には愛しくてたまらなかった。見目は少し(というかかなり)ヤバイが、ケーキはケーキである。

「これは、お前たちが私のために作ってくれたんだな…一口もらっても良いか……?」

 テーブルに置いてあったフォークでひとかけらケーキを刺し、口へと運ぶ。フォークを持つ手が感動で震えている。涙腺も緩んできているみたいで、目に涙が少し溜まっているのがわかった。

 …だが、感動もここまでか?ケーキがもう少しで口に入るというところで。

「きゃーっ!駄目っ玉鼎〜〜〜!!!」

 おそらく彼の開発品であろう、小型の銃から出た目がくらむような光線がビシュッと玉鼎の手元をかすめる。

「………!!???;」

 間一髪のところで玉鼎の手は無事であったがフォークの先がない。とすると当然ケーキのかけらもない。

 また玉鼎がいぶかしんで太乙の方を見ると、彼はさっきよりももっと目を潤ませてこちらを見ていた。

「よ、良かったあ〜っ。あのね、そのケーキ、ついさっき雲中子が『トッピング♪』とか言って、新型ウイルスふりかけちゃったんだよ!あっ、でも空気中にただようことはないようにしたらしいから…ケーキさえ食べなければ平気さ〜」

 …そのウイルスとは、もしかしてあのSA●Sか?とは聞かないでおいて、ケーキが食べられないことに少し気を落としてしまった玉鼎。

 その明らかに残念そうな様を見て、太乙はどうにかならないかと考える。

「…あ、それじゃ中の方ならウイルスかかってないと思うから…表面だけ取れば食べれるかもっ」

 そして太乙がいそいそとケーキの表面を包丁ではがそうとすると。

「させるかっ!!!」

 放心状態からようやく我に帰った道徳が、衰えない瞬発能力でその包丁を奪い去る。

「このケーキは誰にも食べさせないぞっ!」

 必死の形相でそう訴える道徳。どうやら何かあるらしいが、誰もそうとはとってくれない。

「いじきたないさ…師父……」

 自分の弟子すら信じてはくれなかった(合掌…)。

「ちっ、違うんだ!そーゆーんじゃなくって!!…みんな、みんな、俺のせいなんだあああああ!!!!!」

 急に床に膝と手をついて熱く謝りだした彼に一同が唖然としていると、そのままその包丁で自殺しかねない(あぶねーよ!)彼から雲中子がサッと凶器を奪って見下しながら言い放った。

「そういえば君はスポンジケーキを作るとき、砂糖と塩をおもいっきり間違えていたねぇ。ついでに隠し味とかいってバニラエッセンスを入れたつもりだろうが、あの瓶はどう見てもイソジ●だったなぁ」

 砂糖と塩!なんてベタな間違い!!と全員が頭の中で叫んだが、道徳はその間違いに関してはケーキが出来上がった直後に気付いていたらしい。ただしイ●ジンでショックは万倍になっていた。

「お、お前…!気付いてたんだったら教えろよ!っていうかイソ●ン!?何で俺匂いで気付かなかったんだ!!???」

「言ってしまったら、面白くなくなるじゃないか…ねぇ、太乙♪」

 だが当の太乙は、もはや流れる涙を止めもせず拭いもせず、肩を震わせていた。

「ごめんね…玉鼎…私たち、いつも玉鼎のところにおしかけたり迷惑かけたりしてすっごいお世話になってるから、何かしてあげたいなって思ってたんだけど、そういう機会が全然なくって。そんな時、玉鼎が今日誕生日だってことを知ったから…誕生日祝賀会やろうとか、3人でケーキ作ろうとかしたんだけど、結局大失敗で……」

 言葉が途切れ嗚咽を漏らす太乙の頼りなげな細い肩に片方の手を置いて。もう片方の手は、指先でその綺麗な涙を拭って。

「失敗なんかじゃない。私はすごく嬉しいよ。お前たちが一生懸命私のために何かをしてくれる。皆が私を祝おうと集ってくれる。私にはそれがすごく、嬉しいから。……本当だよ。最高の、誕生日だ」

「ふぇ、ぎょくてい…」

「…でもな、私が一番嬉しいのは、多分いつものようにお前たちがおしかけてきてくれることだ。あれは全然、迷惑なんかではないんだよ。だから今日は、誰も来ないからどうしたのかと心配になったほどなんだ」

 照れくさそうに笑う玉鼎を見て、太乙がまたとめどなく涙を溢れさせる。それに玉鼎がおろおろしていると、

「これは、嬉し涙だよ」

 と言って猛烈に可愛らしく微笑み、玉鼎にぎゅっと抱きついた。





「私は、お前たちがいてくれればそれでいい。それで毎日が、この上ないぐらい幸せなんだ」





 そうしてこの日は、玉鼎にとっては忘れることのできない大切な思い出の日となったのだった…









【END】





*おまけ*



「いやあ…いいドラマだったのう……って、なんなのだこれはっ!;
ケーキも食えんし酒も飲めんし、2・3次会もないし、挙句の果てには蚊帳の外状態!!
わしらはただの、連れてこられ損かっ!?」
「…まぁそんなことを言わずに。僕は久し振りに師匠の元気な顔見れて良かったですし、あなただって
ちょっと懐かしい顔に会えてよかったんじゃないですか?」
「そりゃ…そうだけどのう…」
「ホラ、ちょうど綺麗な満月も昇っていることですし、今夜は静かな金霞洞の中庭で
月見酒、なんてどうですか……?」
「…ふむ。それもよかろ…」
「駄目だよ、望ちゃん!」
「ふ、普賢真人様!?(貴様どっからわいて出たんだ)」
「今日は久し振りに会ったんだもーん、白鶴洞に一晩泊まってくって約束したじゃないか!」
「え!?してないしてない!!!;」
「まったくあなたの幻聴には付き合っていられませんよ!
さあ師叔、僕の腕に捕まって!(雷震子の羽部分変化)」
「え?って、うわっ!!こ、哮天犬を出せ!危ない!!!」
「大丈夫ですvあぁ、もっとぎゅっとしっかり捕まって!もっともっと!隙間がないくらいに!!(ハァハァ)」
「ぎゃあ!この変態っ!!はなせぇ!!!」
「何言ってるんです、今更じゃないですか…v」
「変態楊ゼン!望ちゃんが嫌がってるじゃないか!早く僕に返してくれないかな…?(鋭い視線、もとい死線をあびせながら)」
「…普賢真人様。もし万が一またお目にかかる事がありましたら、その時までには是非
その妄想癖と幻聴の聞こえる耳を治しておいたほうがいいと思いますよ…?では!」
「あッ!待てこのナルシスト変態ショタコン妖怪野郎ーッ(←普賢さん素が出てしまいました。にしてもヒドイです;)」

そうして楊太さんたち二人は夜の闇へと消えていったのでしたvちゃんちゃん。




…うあ!なんだコレ!全然楊太じゃねーよ!!!
いや、てゆーか楊太メインの話じゃないから別に良いんですけども…
なんかイロモノ3仙と玉鼎の関係が微妙で、むしろこっちがおろおろしました。
玉乙っぽくしたんですよ…ほんとは…!
っていうか玉鼎もほんとは太乙さえいれば良さげなんですけど雰囲気でなんとなく…
あ〜〜〜!もっと書きたいことあったんですよぅ…
つかこの話、まずどの世界がどうなっている頃の話かってのがさっぱりですね…
とりあえずあの…私の中では後日談、ということで…。
太公望は教主である楊ゼンに仙界へと連れ戻され、玉虚宮で楊ゼンの新妻のような暮らしをし。
神界と仙界を自由に行き来できるようにし(どちらに住んでいる者も)。
戻りたい者は自分の洞府に戻り(ってか大抵は戻ってる)。
平和で幸せな世界のお話です。
えー、あと、2つほど話の補足ですが。
@ケーキはどうなったか?
A.マドンナが食べました。ウイルスも味も、もはや彼女には関係ないらしいです。
…でも●ソジン入りのケーキなんて食べたくないよぅ…
A抱き合った玉乙・その後。
玉鼎は可愛い可愛い太乙を抱きしめながら、皆にも感謝の意を述べようとしたところ、四方八方から寄せられる殺気と死線に気付きます。
それはもちろん、道徳や雲中子を始め、道行や天化などからもあびせられていました。
その時、玉鼎は太乙の銃の光線が手元をかすめた時の万倍の恐怖を感じました。
…ま、こんなところです。
この小説は、マイフレンド謎Qを始めとするたくさんの誕生日を迎えた人々に捧ぐ☆
皆さんが、幸せな誕生日を迎えられますように〜vvv