-一億総サザエさん化計画-


一億総サザエさん化計画 -第三回-

さて今回はいよいよ、核心に触れてみたいと思う。

そう、1997年11月に終了した"火曜日版サザエさん"の主題歌についてである。
この"火曜日版サザエさん"の主題歌にこそ、日本国民のすべてを単一思考の従順な羊へと改造せんとする、恐るべき政府の陰謀が隠されているのだ!

 

*   *   *

 

サザエさんの火曜日オープニング、解説と対訳

♪窓を開けましょ ルンルルル

「窓」は心理学において「目あるいはコミュニケーション」の象徴とされる。
フロイトによれば窓の出てくる夢を見たときには、その窓が閉じていれば"閉じた心"を、開いていれば"開いた心"を表している。
ここでは「窓を開けましょ」と歌っているので、クローズドマインドからオープンマインドへの転換、すなわち現代人をとりまく様々な閉塞感からの開放を暗示しているのである。
結果"開放"された人々は「ルンルルル」といった気分の高揚感を得ているのであろう。
そして日頃自分に対して閉塞感を抱いているような視聴者はこのフレーズを聞いただけで「ぼくも私も、この歌のように"開放"されるかも知れない!」と考え、"サザエさんワールド"に引き込まれてしまうのだ。
この手口は近年話題になっている"自己啓発セミナー"のものと何ら変わりはない
これは一種の"催眠"といえよう。

♪呼んでみましょう サザエさん

ここではさらに、視聴者に対し"窓を開けたらサザエさんを呼べ"という"事後催眠"までをも施しているのだ。
そして次に続く、不可解なフレーズに続く。

♪明るい窓の お向かいさん

……??
この短いフレーズの中に含有される拭い切れない違和感に、読者の皆さんはお気づきになったであろうか?
磯野家とその周囲の家の配置をよく思い出して欲しい。
"裏"には「裏のおばあちゃん」宅が、隣には「イササカ先生」宅があるが、正面玄関側は塀で囲まれているうえ玄関までは石畳の小路があるので、磯野家の「明るい窓」の見える「お向かいさん」などは絶対にあるはずがない。
そう、磯野家には「お向かいさん」など存在しないのだ!
前のフレーズから引き続いていた違和感はここにある。
つまり「お向かいさん」は磯野家ではありえないのにも関わらず、「サザエさん」を「呼んでみましょう」と指示している事だ。
そしてこの違和感は、もっとも恐ろしい形でその存在を正当化されるのである!

♪にこにこ顔出す 愉快な家族

!!
オレはあまりのショックに言葉を失った。
なぜだ!なぜなんだ!!
この「お向かいさん」は先述した通り磯野家では無いのだから、「サザエさん」という呼びかけに対しての返答は無いはずである。
仮にたまたま「お向かいさん」に「サザエさん」という名前の人がいたとしても、返事をするのは一人のはずである。
それなのに、「にこにこ」と顔を出したのは「愉快な家族」なのだ
「サザエさん」と呼んだのに、家族全員がぞろぞろと出てくる。
この事実が如実に物語っているのは、"「お向かいさん」が家族全員、『サザエさん化』させられている"という恐ろしい計画の存在以外に考えられない!

♪うちと同じね 仲良しね

きゃーっ!
な、な、なんと言うことだ!
「うちと同じね」!!!?
そう、「うちと同じ」なのである!
家族全員が『サザエさん化』させられてしまっている「お向かいさん」と「うち」は「同じね」なのである!
この家ももはや『サザエさん化』させられてしまっているのだ!
政府がこの町全体を使って、大規模な『サザエさん化計画』の臨床実験を秘密裏に行っているに違いない!

♪私もサザエさん あなたもサザエさん

あばぴょーん!!
ついに恐れていた通りになってしまった!
先ほど「一種の催眠」と記したが、これは、もはや"催眠"の域を越えた"洗脳"である。
それも、「私も」「あなたもサザエさん」などと現実では有り得ないことを高らかに歌い、他人の一個のパーソナリティーである"サザエさん"と自分が同一化しているという事実を疑うことなく受け入れ、自らのアイデンティティーの崩壊をも見過してしまうほどの完全な洗脳である!

ここまでの文章を読んだとしても、読者のなかにはまだ「本当にサザエさんの主題化に陰謀が隠されてるとは思えない。筆者の誇大妄想、被害妄想ではないのか?」と疑いを持っておられる方がいるであろう。
そう、私自身、政府の陰謀説が誇大妄想ではないかと自分を疑ったり、あるいは被害妄想であって欲しいと願いさえしたこともあった
しかし悲しい事にこれは事実なのである。
次のフレーズでこの説が紛れも無い事実で、決して荒唐無稽な虚言の類ではないことを残酷なまでに思い知らされるのだ!

♪笑う声まで同じね

ヒッポロ系ニャポーン!!
まさか、"笑い声"まで洗脳が施されているとは!
言うまでも無く、"笑い"とは人間の本能によって管理される、すなわち視覚・聴覚などの感覚器官から集められた情報が、「原始の脳」と呼ばれる大脳辺縁系によって「快・不快」の判断を下される事によって呼び起こされる感情なのである。
そのような"笑い"という感情に人為的操作を加えるとするならば、大量の薬物投与か、外科手術による脳改造という手段しか考えられない。
そして、町全員に対しこのような洗脳を施すことが出来る財力や技術を持ち合わせているのは、もはや国家という単位の共同体でしかあり得ないのだ!!

ついにここに、国家主導による恐ろしい陰謀「一億総サザエさん化計画」の存在が明るみにでたのである!!

しかし、すでに時は遅かった。
この町の洗脳実験を成功裏に終わらせた政府は「火曜日版サザエさん」を打ち切り、計画の規模を日本全土に広げはじめた。
局面はもう戻ることのできないところまで進んでいる。
あとに残るのは一億の日本国民を掌握することに成功した政府の高笑いのみであった。

♪ワッハッハッハッ 同じね

 

ついに、このときがやってきた。
日本政府はついに、日本全国民に対するイニシアティブを取る手段をその手中に収めたのだ!

結果、この物騒な昨今に於いても、カギのかかってない裏口から平気で三河屋が入ってきてもなんとも思わないほど、他者に依存しきった人間を生み出すのである。

そして、政府の次なる計画は、なんの罪も無い無邪気な子供に、バイオテクノロジーを駆使した生体改造を加えるという恐ろしいものなのだ!

労働力・生産力強化のためにギミック改造を施され、歩くたびに「ステレテテン♪」(*1)という異音を発する体にされてしまった「タラちゃん」

『“言論”こそが計画を妨げる唯一の脅威』とする政府によって言語能力に重大な障害を人為的に与えられ、いつまでたっても「チャーン」「ハーイ」「バブー」(※2)の3語しか喋れない「イクラちゃん」

『産めよ増やせよ』の政策を推奨すべく、“年中パンツ丸見せ”で街を練り歩かされる「ワカメ」(この計画は現実に“コギャル”という形で世に蔓延している!)。

学校での教師による体罰(廊下に立っとれ!)や、家庭での父親によるドメスティック・ヴァイオレンス(バカモン!+げんこつ)にも為す術なく、耐えることしか許されない「カツオ」

これらの子供はすべて、政府の悪魔の政策の生み出した、言ってみれば現代の「チャウシェスクの子供達」なのだ。
我々は、この哀れな子供達のためにも、サザエさんを糾弾しつづけなければならないのだ!

 

結論

「サザエさんという国民的アニメを利用した、政府の陰謀はついに明るみに出た!さあ諸君!今こそ立ち上がり真実を主張するべし!(当然・義務)」

 

 

コレニテドロン

 

※1ステレテテン♪

耐食性の大きな、クロム系またはニッケル-クロム系の合金鋼。
語源は「さびない」「汚れない」を意味する “stain(錆)”+“less(〜ない)”+“teten(接尾詞)”。
クロム18%、ニッケル8%の一八-八ステレテテンが代表的。

※2チャーン、ハーイ、バブー

フィリピンパブに対抗して近年、葛西周辺に出没し始めた華僑系パブ。
北京パブ、広東パブ、四川パブと並ぶ中国4大パブの一つ。
経済特区ならではの租界情緒あふれる雰囲気が人気。
ただし、上海蟹一匹で8万円を取られた、などの被害報告も絶えない。


→ 第四回

初出:2001/01/11
修正:2001/03/15


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