-古き良き昔ゲーの数々-


 影の伝説

当時小学生だったオレは、学校が終わるとランドセルも置きに帰らず、そのまま友達と遊んだりする事がしょっちゅうあった。

その日もいつもと変わらず、 小学校からの友達の家に直行する。そいつの家には、当時まだ現役だった、”8ビット”のにくい奴があった。
そう、こいつこそがランドセルも置くことも許さずに、オレを誘惑するのだ。

…そいつの名は「ファミリーコンピューター」
通称「ファミコン(※1)」だ。

 

*   *   *

 

あ〜れ〜、とさらわれるピーチ姫の図 その友達の家にて。

オレは視界の隅のほうに、ふと、いやな色のカートリッジを見つけた。
劇画調のダイナミックな絵に力強い筆遣いで刻まれたタイトル。

その名も「影の伝説(※2)」
そうあの伝説のゲームである。

その無骨で斬新な(?)デザインに引かれ、早速プレイと決め込むオレ。

 

あ〜れ〜、とさらわれるピーチ姫の図ゲーム開始後、林の中を姫様が歩いている。
なんとその姫様は、後方から現れた忍者にさらわれてしまう。

そのとき画面上部の木の上から主人公が登場。
すた、っと着地。
さらわれた、姫様を助けるべく、ゲームはスタート!

木の上にいるなら、さらわれる前に助けろよ!という突っ込みはしない。
そんなことを言ってたら、ピーチ姫は商売あがったりだ!

ともかく、ゲームは始まる。

 

ファッションショーを思わせる、カラフルな忍者達 主人公は、おおよそ”影”に似つかわしくない、真っ赤な装束に身を固めている。

敵の忍者も、青や赤などといった原色のオンパレード
ゲーム中に、定番カラーであるはずの黒装束を着た忍者は、たった1匹しか出てこない。

しまいにゃ青や赤の坊さんまでもがびょんびょんジャンプしながら主人公を丸焼きにしようと、口からぼうぼう火を吐いてくる。

坊主が殺生していいのか!

 

ファッションショーを思わせる、カラフルな忍者達敵さんにこれだけ煌びやかなことをやられては、こちらとしても黙ってられない!と、敵意を剥き出しにしたかどうかは知らないが、パワーアップ時に「赤→黄緑→橙色」と、どんどん影から程遠いヴィヴィッドな服装に変化していく主人公。

なんか、本来の目的と別の方で争ってないか、お前達?(さらわれた姫様を助けるんだろ?)

 

見た目の派手さとは裏腹に、アクションが超しょぼいのもこのゲームの特徴だ。 忍者と言えば、華麗に繰り出すさまざまな機能の7つ道具がウリだというのに、主人公は刀と手裏剣だけしかもっていない。

手裏剣は画面上に同時に2個までしか出ないし、刀は敵の手裏剣は落とせるものの、煙玉や火炎にはまったく歯が立たない。

それどころか、敵の青忍者(最弱の雑魚)との鍔迫り合いにも負けるという始末。 それなのに、敵の忍者は有象無象と出てくる出てくる。

全部で、100匹以上出てくるんじゃないか、クリアまでに?

 

忍法蚊取り線香!アイテムも狡い。

巻き物(と説明書にはかいてあるが、どう見ても黄緑色の長方形。やっぱりヴィヴィッドカラー)を取ると、主人公が何やら印を組んで、呪文を唱えているらしきモーション。

すると、音楽が突然おどろおどろしくなり、画面が強烈に反転を繰り返す。

主人公に近づこうとしてくる敵が、まるで蚊取り線香に落とされた蚊のごとく、ぼとぼと落ちて死ぬ
次々死ぬ。

 

しかし、死んでも死んでも、後から後から敵が出てくる。
そいつらも、続々死ぬ。
死ぬのがわかってるのに、襲い来る敵の面々。
でも、やっぱり死ぬ。

…まさに、死体量産ゲーム。
にもかかわらず、「このゲームにはグロテスクなシーンが……」の注意書きが無い。

さすが、昔ゲー!

 

*   *   *

 

ところがこのゲームを何回もやっていると、ふとあるバグのような現象が発生する事がある。 それは、ゲーム開始直後の事だ。

 

あ〜れ〜、とさらわれる直前のゼルダ姫の図ゲーム開始後、林の中を姫様が歩いている。
なんとその姫様は、後方から現れた忍者にさらわれてしまう。
そのとき画面上部の木の上から主人公が登場。

木の上にいるなら、さらわれる前に助けろよ!という突っ込みはしない。
そんなことを言ってたら、ゼルダ姫は商売あがったりだ!

 

さかさまに落ちてきてないですか?と、ここまでは、さっきとまったく一緒なのだ。

しかし、このとき登場してきた主人公の様子がどうもおかしい。

普段なら、地面に足から着地するはずの主人公が、なぜか頭からまっさかさまに落ちてくる。

 

どさり。そして地面に激突。
死亡。
ピクリとも動かない。

ここまでわずか5秒。

無常にも、残り ライフが1である事を告げる画面(スタート時は2)。

ショックである。
僕は何もしていない!
なんで死んだんだ!

 

やり場のない怒りを ぶちまけてみても結果は変わらない。
そう、この主人公の突然の死は、全く原因がわからない上、確実に回避する手段はないのだ。

当時のオレに出来た事は、主人公が着地に失敗しない事を祈るのみである。

しかしなぜだろう。
何もしていないのに死ぬのは…。
抵抗する事も許されない、突然の死。

例えば「カラテカ(※3)」。

このゲームは背後が 断崖絶壁、と言うところからスタートする。
おとなしく前に進めば言いのだが、 反抗して後ろに下がると崖から落ちてゲームオーバー、やはり開始5秒後に死ねると言う凄惨なゲームであった。

しかし、これならば後ろに下がらなければ良いわけで、回避のしようがあるというものだ。

例えば「燃えるお兄さん」。

最初に妹を掛金にした大博打を打ち、負けると妹が連れて行かれてしまい、お兄さんが助けるのだー、というストーリーになるのだが、勝ってしまうと「大金持ちになりました、めでたし」とか言ってゲームオーバーになる。

これにしても、賭けの勝ち負けは運に委ねられるものの、プレイヤーは丁か半かを選択できるし、開始5秒後に終わる理由もはっきり分かるので、親切な部類と言えよう。

しかし、「影の伝説」だけは納得行かない。

姫がさらわれました。
樹上から人が落ちてきました。
死にました…。

ここでゲームオーバーならまだ潔いといえる。

しかし、 このあと主人公は残り2ライフになりながらも、何事も無かったように姫を助けに行くのだ!

どういう事ですか?これは?

オレは幾度となく、「影の伝説」の夢にうなされた。

落下し地面にたたきつけられる奴の姿が脳裏にこびり付いて離れない。

アレは頭蓋骨陥没骨折、内臓破裂、全身打撲は免れない。
即死だ。

もう一度言うがこのゲームには、「このゲームにはグロテスクなシーンが……」の注意書きが無い。

さすが、昔ゲー!

 

*   *   *

 

数多くの謎を残しながら、 「影の伝説」のカセットはどこかに言ってしまった。
それと同時に、オレはその夢を見なくなり、 次第に記憶の片隅へと追いやられていった。

しかし、この事は忘れてはならないのだ。
何時までも、答えを追い求め なくてはならないのだ。

「影の伝説」。

幼かったオレに一生を懸けて取り組むべき問題を与え給えし、 かのゲーム。
ああ、今また「影伝」やりたい。
あの理不尽さを再び味わってみたい…。

 

 

コレニテドロン

 

※1 ファミコン

言わずと知れた、任天堂の傑作機。
通常の遊び方のほかに、カセット半抜きプレイ(マリオなどでクリボーとキノコが区別付かずに死ぬ)などがある。
ディスクシステムはエラーメッセージが英語(!)という、とても子供向きとは思えない仕上がりだったため、後のツインファミコン、バーチャルボーイなどと同様の末路をたどる事になる。

※2 影の伝説

運が悪いと、何もしてないのに開始5秒で滑落死できる。
巻物を取ると周りの敵が蚊取り線香を焚かれたが如く、ぼとぼと落ちる。
パワーアップすると服の色が変わる。最強時の服の色に至っては、黄橙色で目立ちまくり!もはや、「影」でもなんでもないよ、黄橙色は…。

※3 カラテカ

単身、敵のアジトに乗りこみ、空手で相手を薙ぎ倒すゲーム。
時折現れる 窓際でアンニュイになっている女性を助けるために戦っていると思われる。
崖から落ちて死んだり、おじぎ中に攻撃されると一撃で死んだり、柵に刺さって 死んだりして、クリアー不可能なゲーム。


カラテカ

初出:1999/11/01
修正:2000/10/02


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