個人的には初の雪組、初の中国モノ。大阪在住のS乃さんから、「良かった〜」と云う前評判は聞いていたし、トムさんとグンちゃんのトップコンビも、これで見納めながら、かなり好きなコンビなので期待大。
1階14列サブセンタの通路側の席で、開演前にアナウンスで「演出の関係で開演後しばらくは入場出来ません」と繰り返していたので、これは客席から入ってくるな、と期待しているうちに客電が落ち、トムさんのお正月バージョンのアナウンス。さて。とにかく名前がややこしい!と評判だったお芝居ですが、名前と顔さえ分かっていれば、内容は至って簡単。
要は夫差王(轟)が、范蠡(絵麻緒)の密命を帯びてやって来た絶世の美女・西施(月影)に心奪われ、賢明なる軍師である伍封(朝海)の忠告を聞き入れないばかりか、越と通じる佞臣・伯誹(星原)の偽りの報告で、伍封を自害させ、しかしやがては密かに戦力を蓄えていた越国に攻めこまれ、国を失う…と云う、まあどこかで聞いたことがあるようなお話なのですが、演出が巧かった所為で、飽きずに最後まで見せる舞台に仕上がっていました。
オープニングは舞台中央に夫差王が雄雄しく立ち、赤を基調にした舞台はまさに絢爛豪華。そして客席側からは予想通り呉の兵士たちが歌いながら入場。
真横、真横を生徒さんが〜〜、と悶絶しつつ、しかし舞台の方も気になりつつ、思わずきょろきょろしてしまいましたが、舞台は戦前の沸き返るような雰囲気が上手く作られていました。
しかし折角インパクトある幕開けだったのに、続く「第1場B 会稽の勝利」は歌があまりにもストレートで…。宝塚と云う世界ではあれで良いのかもしれませんが、ああ云う安直な歌詞のリフレインはやはりどうかと…。(頭に残るのがまた悔しい)
そしてささやかながら夫差王の父・闔廬(コウリョ)とその仇、越国国王・勾践(コウセン)が共に組長さんだと云うのも、余りと云えば余り。ここも直球勝負の歌詞。だから…。
シーンとして最も完成度が高く感じられたのが「第9場 夫差王の幻想」と「第13場B 夫差王と西施」。両方幻想と云うか、内心の葛藤を現したダンスシーンなのですが、絵的にも綺麗なのは勿論、特に前者は主要人物の夫差王・西施・范蠡の想いが上手く表現されていました。
こういうシーンでバックダンサと云うのは、外すと鬱陶しいだけのものになってしまいがちですが、それもなし。仮面をつけた「龍の精」など見せ方に工夫が見られました。
物語終盤、傾きつつある呉国で、呉兵たちが城のどこかで噂話に花を咲かせる「第16場B 兵士たち」。このシーンを笑いを取る場にするのは如何なものか。
別にこの作品自体がコメディなのでも、軽妙洒脱な作りでもないので、あそこは緊迫感を押し出した方が良かったのでは?
シリアスなシーンの前に軽いシーンを作って、その落差で演出を計る、と云う手法そのものは否定しないものの、あの呉国の音もなく朽ちていく様には、異国の怪しい女に心奪われ、国を傾ける王に対し、兵たちが猜疑を強め、范蠡ら越国の買収に乗ってしまう、と云ったようなリアリティある演出こそが相応しく感じます。
何しろこのシーンだけぽこっと浮いているので、前後の緊迫したムードが途切れてしまいがち。…それとも1本に1回は笑えるシーンを入れなきゃいけないのか??
気を取り直すと舞台は変わって戦場へ。以前ビデオで「我が愛は山の彼方に」の戦闘のシーンを見ていた時に、宝塚での京劇所作(特にエモノを持っての格闘)は見せるなぁ、と思って期待していたのですが、「我が愛〜」ほど、舞台でとっかえひっかえの立ち回りはなかったものの、トムさんは華麗な槍さばきでおられました。これには素直に敬服。
そしていよいよ夫差王が追い詰められたラストの演出は、崩れ落ちる城内のセットが情けないのは仕方ないとして(苦笑)、役者として漲りきっている轟悠をして、宝塚のレベルが1段上がったとさえ感じられる境地。(誉めすぎですか?)ただ西施が夫差王を庇い越兵の刃に倒れ、そのままセリ下がってしまうのが寂しいところ。愛に滅んだ夫差王には、最後まで西施と共にしてほしかったです。
とは云え幕が下がりきる最後の瞬間まで、ステージにただ1人残り慟哭する夫差王の姿からは目が離せませんでした。このラストを観て、「これは大人の宝塚だぁ」と強烈に思ったのですが…。
さて、以下は主要キャスト評。
夫差王トムさんは文句のつけどころなし…と云いたいところですが、どういう訳か幕開きからしばらく(「第3場 夫差王と西施」ぐらいまでかなぁ)、ものすごい早口でした(笑)。呼吸の間もないくらいで、雪組初観劇のワタシは、「こ、これが雪組の間合い?!」と焦ったのですが、幾らなんでもそんなことはありませんでした。何か焦っていたのでしょうか?
話を本題に戻して、父の仇を討ち、越を滅ぼす戦いに明け暮れていたため、自分の人生をゆっくり考える時間も機会もなかった男・夫差王が、西施との出会いで変貌して行くも、己1人の思いではどうにもならない男女の愛にもがき、西施のために次々と周囲を切り捨て、滅びの瞬間に突き進んで行くさまは、さすがトムさん!と感嘆するほど凄まじい演技力のた轟悠。冷たく、残酷で、怒りに満ちたまなざしが次の瞬間には慈愛と悲しみに染まる。
微妙に分かりにくい性格なのですが、トムさんの「目」が、それだけで夫差王の全てを表していたと云っても過言ではないでしょう。(誉め倒し)
ラストの赤い紙吹雪の中、風に煽られながら中に手を伸ばす様は、彼女だからこそ薄っぺらな演技にならず、夫差王の万感の思いを伝えてくれました。
なお個人的には西施に迫った王孫惟(貴城)を斬り捨て、それを責める西施に向かい、「嘆くなら王孫惟の血のついた、この刀に口付けろ」と詰め寄る狂気じみたお芝居がツボでした。ああっ、何て困った人なんだ夫差王(笑)。
相手役グンちゃんは、立ってるだけで艶やかなのに、嫣然と微笑んで見せたり、猜疑のまなざしを向けられることに嘆いて見せたり、実に「傾国の美女」らしいのですが、彼女はやはり1人の女だったのですね。范蠡とのシーンがあまりなく、その辺りへの拘りを持っていることへの説得力は薄い気もしますが、あくまで儚げで、数奇な運命に弄され、2人の男の間で揺れる女の苦悩がまさにハマり役。夫差王の正妃として迎えられながら、おめおめと会いにやって来ては地図を盗み出して欲しいと頼む范蠡に、言葉では逆らっておきながら、結局は地図を盗み出してしまう西施。これが范蠡の頼みでなければ、きっと彼女は越国のことなど忘れ、夫差王と共に呉国の人間として暮らしたのでしょうね。
最終的には国を滅ぼす原因となった女性ですが、どこまでも儚く、運命に翻弄された中で夫差王とのただ1つの愛を貫いた西施。グンちゃんの色がよく出ていた役だと思います。退団しちゃうの、勿体ないです〜〜。
一番腹黒い男、范蠡。黒い、黒すぎる…(笑)。彼は結局西施を愛していたのでしょうか…。
権力を手にし、その上で西施を迎えたかったのかもしれませんが、それにしても腹黒いなぁ。夫差王などと会っている間は、あくまで恭順を装い、それがまた何ともふてぶてしくて(笑)。
ただ夫差王・西施が明確な個性を持っていたのに対し、范蠡はどうも「ただの悪い人」だったような。もう少し西施とのエピソードがあれば違ったのでしょうね。と、云う訳で申し訳ないがぶんちゃんの感想はあまりなし。次回よく観て来ます。
フェアリー系と評判だったコムちゃん。ワタシの中では雪組3兄弟の末っ子コムちゃん。しかし何時の間にか立派な大人になったんですね…(涙)。
夫差王を敬い、呉国を守るためなら多少の荒事も仕方あるまい、と云う攻撃的な伍封。
彼はきっと、西施に溺れていく夫差王に、昔の姿に戻って欲しかったのでしょう。そのために西施暗殺を目論み、敵国・斉に弟を密使にして送りこんだものの、最も身近にいた敵、宰相・伯誹を追い落とせなかったため、逆に策略に嵌り自害。
西施暗殺を計画しているところを見られた侍女を斬り捨てたのも驚きでしたが、夫差王に自害を命じられ、自ら刀を喉に当てながら夫差王を睨みつけるシーンは男役の貫禄たっぷりでした。ただ、活舌の悪さが少々気になるところ。普通に喋っている分にはそうでもないのですが、感情が高ぶってくると何を云っているのやら…。まあ、このお芝居は中国モノで、聞きなれない名詞が多いのも一因でしょうが。
ちなみに自害のシーン、大阪公演時は宮廷服でしたが、東京では鎧姿に変更されていました。
さて。今回一番強烈だったのが王宮の踊り子・婉華の紺野まひるちゃん。す、すごい…(汗)。
踊り子でありながら大恩ある伍封の頼みで、西施暗殺を試みるのですが、お衣装は踊り子の可愛らしいものなのに、片膝を命令を待つその姿は武将(笑)。
更には西施の前で舞を舞いながら、扇子に仕込んだ短刀で襲いかかり、護衛の兵士に引きずられて退場して行く最後まで、「ちくしょう!離せ、離せー!」と悪態つきまくり。すごい存在感が…。何故かは分からないのですが、この子はポスト・花總まりを狙える気がします…。
その他は個人的に王孫惟が!かしげちゃんが!…エロい(爆)。素晴らしい間男っぷり。(誉めてます)
王子様かと思いきや、結構フェロ系もイケることが判明。いけいけかしげちゃん!さて、ようやくショウ「Rose Garden」に辿りつきましたが、う〜ん。これはどうなんですかねぇ。
作・演出の岡田先生は、花組の「Asian Sunrise」が結構ツボにはまったので期待していたんですが、う〜ん…。着目点は悪くないんだと思います。
「薔薇」をテーマに薔薇の名前に合わせたシーンや伝説を織り交ぜていく手法は悪くないと思うんですが、如何せん歌詞が直球すぎるんですよね…。
あとまあ、宝塚的演出が好きな人は大丈夫なのかも知れませんが、ワタシのようにハンパにレトロな宝塚調が苦手な人と、宝塚初心者には辛いかもしれません…。
あー、でも「薔薇の三銃士」はともかく、オープニングはなかなか素敵だったのではないでしょうか?ちょっとクラシカルなセットが、上手い具合にイギリス風ローズガーデンっぽいな、と。トムさんの「はっ」って掛け声はやっぱり素敵でしたし。
あとはかしげ王子が素敵な「ヴィーナス誕生」(そのタイトルも…汗)。かしげちゃんとグンちゃんの雰囲気がストーリーにマッチしていて良かったです。ファンタジーってかんじですね。バックダンサーをしている娘役さんたちの名前が、全部薔薇の種類の名前ってのも、細かいですが良いと思います。
そこで綺麗に盛りあがっておいて、ぶんちゃんとコムちゃんで爽やかに繋いだ次が中詰(多分)、トムさん扮する「黒バラの歌手」の<第4章パッションローズ>第11場からの「ジェラシー」。さすがっ。トムさんならこう云うのを入れてもらわないと!期待に違わず黒いお衣装、ゴンドラで登場のトムさん。いやはや(笑)。しかし最後には舞台いっぱいに生徒さんが並んで、何とも華やかであります。
ここまでずーっとファンタジー系のお衣装が続くのですが(一部タキシード)、<第5場 ダンシング・ローズ>では一転、スーツにソフト帽と、まさに男役の見せ場!格好良いです!特に揃って帽子を投げるシーンは素敵っ!
……ただね。ここで皆さん薄いベージュにソフト帽を目深に被り、襟を寛げたカラーシャツに緩めたネクタイを下げてるんです。格好良いです。トムさん以外は。
いえ、トムさんが格好良くない訳ではないんです。ただね、ただ遠目にトムさんのお衣装を見ると、ベージュのジャケット&ソフト帽・薄い水色のシャツ・ワインレッドのスパンのネクタイ。………その配色は寅さんですかッ?!(涙)
ああ、今推定1000人以上のトムさんFCを敵に回した手応えがありました…。でもド近眼のワタシにはそう見えたんです。
ええと、他にもぶんちゃん吟遊詩人の歌う歌は、そりゃ歌なのか?そんなで良いのか吟遊詩人!とか、三銃士をロケットのお衣装は目に痛い配色だとか、気になるところはないこともないんですが、まあこれはこれで宜しいのかなと。
ただ個人的には「愛燃える」の1本モノで全然良かったと思うんですけどね。いやはや