何故、このような状況になっているのか。
 朦朧と焦点の定まらぬ思考に、必死の思いで意思の断片を縋らせて。セティは霞む視界の向こうに像を捉えた。
 あれは、紅い・・・紅い闇の・・・

 ひやりと、温度の感じられない手の平が、晒された胸の上に置かれて。
 触れ合わせた肌から、まるで身を一つに溶け合わせるように。その”存在”は浸入してきた。
 強張る指先から、四肢に至り、魂の奥深くへ、ゆっくりと浸透する。
 肉体ではなく、心を、魂を蹂躙する、神の遊戯。己の全てが捕らえられ、供物とされるような。
「崇高な白き輝き、堅き意思、密やかなる英知・・・清涼なる風の香。・・・成程、想像以上に美味なる魂だ。」
 闇が、精神(こころ)に絡み付いてくる。まるで剥き出しの神経に直接触れられるかのような感覚。
「・・・っ・・・っう、ぁあ」
 全身を冷たい汗が濡らす。
 悲鳴は喉に掛かったまま声にならず、掠れた音を伴わせ、荒い吐息となって空に散った。
 頑なに閉ざされた心の内を這い回り、弄り尽くす。

 それは自我の崩壊すら誘発しかねない、究極の陵辱。

「――――っ!」

 幾重にも包まれた意識の層を喰らいながら、闇の触手が心の暗部に潜り込んだ。
 誰にも晒されることがない。柔らかく、繊細で、無垢なる領域。
 最も闇が好む食餌たる、密やかに息づく魂の”核”へと。
 堪らず、かたかたとセティの全身が戦慄き、震える瞼から涙が零れ落ちる。
「光への渇望・・・寄す処無き自我への不安、そして己が影への妄執か・・・哀れな」
「やっ・・・め・・・あ、あぁ・・・」
「おや、そしてこれは”所有の烙印”。・・・そなたの神は、何とも無慈悲な真似をする。」
 薄く敏感な、心の襞に。痛々しく引き裂かれた傷痕に、闇はねっとりと舌を這わせた。
 霞む瞳を遠く揺らして意識も定かならぬままに懇願する様を、艶笑と共に見下ろして。

「さて、今宵はゆるりと格別の贄を味わうとするか。」


ユリウス様の精神陵辱。
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