仕事について
ここでは、他の人に(自分以外)メイクアップをするという立場で話をします。
相手がどういうものを望んでいるか、設定された状況をどう理解するか、自分に求められているものをいかに早くみつけて、
どういう形(表現)に構成していくかなどを考えていきます。
相手がどういうものを望んでいるかということは、非常にわかりにくいことです、「何かの映画の誰さんみたいな感じ」、
というようなことを言われた時、まずこの映画を見ていないとわからない、この映画のどこの場面に出てきた誰さんの感じ、
というのもいろいろな場面で出てきた人の印象も 違うし、もしその場面を 覚えていても相手が感じたのと自分が感じたの
では印象も 違うかもしれない、と考えながら話を続けその出てくる人のどこが好きなのか、その人をどんなひとだと思うのか
その人のメイクアップが気に入ったのか、それともヘアスタイルか、全体的な印象なのか、なんとなく素敵に思ったのか、
などなどその人に関係する好きな感じの部分を聞いて、その他にも映画の場面、音楽のことや、映像の印象、その他に好きな
映画や音楽、本のことやスポーツ、趣味、料理のことなどなどなど、自分の思いついたことをいろいろ聞いてみて
相手がどんな趣味の人なのかだいたいの 輪郭だけでもつかんでおくといいと思います。相手の好きなもの嫌いなものを
聞いていくうちに、なんとなく相手の望んでいることも見えてくるようになります。(間違ってるときもある)
注:(あまりいろいろ聞かれるのを嫌がる人もいるので、そんなときは様子をみながらゆっくりと。)
次に設定された状況の理解ということですが、ヘアメイクの場合だいたいは状況が必ず設定されています。
雑誌の仕事のときは、その雑誌のカラーがあって、テーマがきまっていて、服がきまっていて、その服にあわせる
ということと、撮る写真の感じに合わせるヘアメイクをすることが大切で、スタイリストのイメージ、編集者のイメージ、
カメラマンのイメージなどを考えながら、モデルにそれをわからせつつ、どう表現していくかを一瞬で判断して
(服をみせてもらって編集者やスタイリストからイメージを聞いてから)メイクアップをはじめます。
雑誌の場合打ち合わせは、特別の時以外ヘアメイクにはありません。朝、現場についていろいろ説明を聞いたら、その瞬間に
何か思いつかないとだめです。このように、瞬時にヘアメイクのイメージを固められるようになるためには、朝起きてから
夜寝るまでいつもヘアーメイクのことばかり考えているような鍛錬の時期も必要です。
広告でポスターやカタログの場合はもっと設定されていることが多いです、ディレクターの考えた状況のラフスケッチが
あってこんな感じにしたいというのがはっきりしています、ここではモデル選びがとても大切になりますが、ヘアメイクはあまり
オーディションなどに立ち会えません選ぶときに意見を聞いてもらえるといいのですがそうもいきません、この場合大変なのは
その仕事とモデルの雰囲気が合わないかな?という時です、しかしこれも状況の一部なのでなんとかそこにはめこむように、
一瞬の判断で(カンに近い)やってみます。とはいっても極端にシチュエーションに合わないモデルは来ないので
(Teen の仕事に20代後半のモデルはこない)なんとかはなります。
テレビコマーシャルの場合はもっと状況がはっきり設定されています、仕事にもよりますが出演者はほとんど演技をする
ことになるので、こちらもその人の役に合わせてメイクアップをします、打ち合わせも必ずあって、そのときに
「メイクアップの感じを見たいからやって欲しい」と前もって、テストメイクを依頼される場合もあります。
テレビコマーシャルではほとんど C M ディレクター、カメラマン、クリエイティブ
ディレクター、などの意見を参考に
自分なりのその人をつくり上げていきます。こういう状況にあってもやはり相手の(モデルなど)望んでいるものや趣味の
輪郭はつかんでおくほうが、モデルにも似合っていて状況の中にもしっくりとけこむという一番いい結果に近くなります。
自分に求められているものを早くみつけるということは、メイクアップをする前の一瞬の判断からはじまることで、
前出の「現場についていろいろ説明されたら、その瞬間に何か思いつかないとダメ!」の延長上にあることです。このためには、
自分の好きなイメージ、メイクアップ、ヘアスタイル、細かいニュアンス、をいつもしっかり持っていないとダメで、これは何の
仕事でもよく言われることだと思いますが、「引き出しをたくさん持っていないといけない」といわれます。私もよく、先輩から
アドバイスを受けました。この引き出しというのはイメージの引き出しもあれば、テクニックの引き出しもあるし、
部分の組み合わせ色の組み合わせの引き出し、自分の好きな写真.映画.その中でしていたメイクアップ.ヘアスタイル.などの
引き出し、街を歩いていてみつけたかわいいものの引き出し、(メイクアップ.ヘアスタイル.小物.色の組み合わせ.等)
美術館の記憶.音楽で見えた色の引き出し、自分が見て好きだと思える顔の種類.たくさんの顔の引き出し、これ以上は
いくらいってもきりがないので、このへんにしておきますが、一瞬の判断でその引き出しのどれとどれを使うか、これも
出しておくか、などのことをだいたい決めておきます、仕事に入りだんだん仕上げていくにしたがって何かたりなかったり、
ちょっとちがうなぁ、なんて思ったりすることもあります。そんなときはちがう引き出しを使って組み合わせを変えてみたり
頭がゴチャゴチャになってきたら人に聞いてみるのもいいです。(モデル.スタイリスト.ディレクター.など)
その意見がそのままいいということではないけれど、アイデアの切り口としてひらめくことが数多くあります。
実際やってみて感じよく上がったら、もう少し完成度を上げるように考えてから新しい引き出しを作りしまっておきます。
新しいアイデアがいろいろあるのでしまったまま忘れてるものもたくさんあります。たまに整理.整頓.してみると、
またちがったメイクアップ.ヘアスタイルを思いついたりします。
自分に求められているものを早くみつけると言うことは、自分の記憶の中にあるものをどう使うか、どのくらい引き出しの
整理.整頓ができているか、相手の好みをどう見極めるか、現場の状況をどう理解するかが、とても大切でなるべく早く
その現場にとけこむことだと思います。
美容室でお客様のメイクアップをするときも、場所とストーリーの違いはあっても、考え方.仕事のすすめ方は同じだと
思っています。
このような状況設定を理解した上でテクニックというものが必要になってきます。
メイクアップの初心者でも.経験者でも自分自身の今身につけている技術がどのくらいのものなのかをまず認識すること、
そして自分の技術のたりないところ.にがてなところを確認しそこから改善していきます。
自分の目標にしている仕上がりに必要な予備条件が全然身についていないのに、その目標ばかりを追いかけて仕上げても
技術不足からチープな感じになってしまいます。
考えてみるとメイクアップは、あらゆる技術の所有に基づいて行われるけれども、技術によってのみ形成されるものではない、
技術はとても大切だけれども技術だけではメイクアップは完成しません、
技術だけではだめだけど、センスだけでもだめです。双方のバランスがとれてくるとだんだんよくなってきます。
ここまでくるには多少の時間はかかりますが、まずテクニックからきちんと勉強してもらいたいです。
ヘアーメイク 本田 正太郎 1959年 東京生まれ
79年 SASHU 入社、サロンを経て渡辺サブロオ氏のアシスタントになる、
82年アシスタントをしながら仕事をはじめ、84年に独立、85年から1年間パリに滞在、
ヨーロッパ各地を遊学、86年帰国、2000年より香粧品科学、ホリスティックケアを勉強し
リフレクソロジー、レイキ、漢方アロマトリートメントを学校や講習で習得。
現在 ホリスティックメイクの個人サロン、テレビコマーシャルで活動中。