2006.12.15
「土蜘蛛」を見て



                                                                                                                                 島 健二


12月3日夜、NHK教育テレビ、第33回NHK古典芸能鑑賞会の歌舞伎の部で「土蜘蛛」を鑑賞しました。

先ず第一に、平素から不審に感じているのは、このような鑑賞会が放映される時間のことですが、

決まって夜の10時ごろから始まって、終了時刻が12時前後となることです。

この日も10時からは第一部として、「色彩東西六佳撰」と称して、@筝曲・河東節掛合A京舞「信乃」

B三枚続廓賑として「浅草太鼓・博多みやげ・江戸の粋曲」と盛沢山に踊りと唄を説明付で紹介、

これらが悪いというわけではないが、第二部の歌舞伎だけが見たい私にとっては、ジッと待つ迷惑。


「古典芸能」というだけでこんなに一纏めにせず、別企画として日を変えて放映すれば、異なるファン層は

夫々喜ぶ筈です。結局お目当ての歌舞伎「土蜘蛛」が始まったのは10時52分から、待ちくたびれてウト

ウトしてしまい、途中で目は覚めたものの、ボヤーッとして鑑賞どころではなく、寝てしまいました。

こんなこともあろうかと仕掛けて置いたビデオが役立ち、本日12月4日にゆっくりと鑑賞した次第です。


こういう古典芸能を好むのは例外もあろうが年寄りが中心ではないかと考えますが、もう少し早い時間か昼

間にでも放映してもらいたいものです。


ようやく観ての感想に入りますが、相当大勢の顔ぶれを揃えた割合にはパッとしなかった。

これは中心となるべき主役の「土蜘蛛の精」を演じた菊五郎丈のせいだと思います。

私は菊五郎丈は大好きな役者ですし、菊五郎丈も大変熱心に演じているのです。

しかし少しも面白くなく、又凄みも感じられないのは何故か?

所謂ニンにない役だからでしょう。

菊五郎丈は十数年ぶりでこの役を演じたそうで、かなり研究もしたようですが、無理でした。


前に「加賀見山の岩藤」役の時に触れたように、この優は「丸っきり悪い役」又は「根っから醜い役」など

は向かないのです。どこかに救い(人間としての)があるか、不思議と憎めないあるいは悪いけれども美し

さや色気がある役でないと似合わないのです。客がそういう持ち味を要求するのでしょう。

かなり悪い奴ですが「十六夜、清心」の清心役が似合う所以です。

清心は悪党でも妙に女心をくすぐる頼りなさとお色気があるから菊五郎丈に似合うのです。


「土蜘蛛の精」の役は外部から招くなら天王寺屋、富十郎丈か播磨屋吉右衛門丈で、菊五郎丈は今回時蔵丈

が演じた源頼光か三津五郎丈が演じた平井保昌役に廻ったら最高でした。

勿論、時蔵丈も三津五郎丈も立派に演じていましたが…。


菊五郎劇団内で求めるなら松緑丈でしょう。

彼はまだ未熟ですが、踊りも巧く、またあのようなメイク、扮装にも似合う人ですし、何よりも祖父の二代

目松緑丈が得意とした役ですから…。

他の役では侍女胡蝶での菊之助丈の進歩が目に付きました。今や堂々とした若女形です。

                                                                                                                                          目次へ