2006.10.30
「恍惚の人」を見る




                                                                                 島 健二


17日夜、TVで有吉佐和子原作の「恍惚の人」の映画を見ました。

もう何年前のことでしょうか、これが発表されて一大センセーションとなったのは…。

当時私は、自分達の事情は違いますが、シルバーヴィラ向山に入居していて、日夜繰り広げられる「お分かり

にならない方達のドラマ」(認知症という言葉は全然ピンと来ません)をつぶさに見聞きしていましたので、

とても小説化、映画化されたものを見ようと云う気にならなかったので、今回が初めてですが、現在は一応

外部から見る形ですので、客観的に見ることが出来ました。

三国連太郎や竹下景子の好演もあり、いい出来の映画でしたが、私達のように、内部にいて日頃色々と見聞き

した者に言わせれば綺麗ごとです。


勿論映画ですから、汚いものの描写などにはおのずから限度はあるでしょうが…。

老人ホームの場面などは公共の施設の内部の設備等をザッと紹介するだけで、説明力不足、大変立派な設備だ

し、「おばあさんバッカリがいる」では入居が厭な理由にはならないと思いました。


患者が出てからの家族等周囲の人たちの周章狼狽ぶりはよく描けていたと思いますが、差し障りなく、淡白に、

サラリと描いただけのように感じました。

もっと抜き差しならない、ドロドロとしたやり切れない部分がある筈なので、辛いけれどももう少し突っ込ん

だ描写で観客をその世界に引き込んだ方が良かったのではないでしょうか? 


私などのように、シルバーヴィラ向山のような民間有料老人ホームで長い年月を過した者から見れば、

「お分かりにならない方々」のお世話という仕事は大変な労力と体力が必要で、また日々接するお年寄りの厭

な面、汚い面等々に耐え抜く強靭な精神力と愛(家族愛を超える尊い愛だと思います)を備えていなければ務

まる仕事ではありません。「お客様のお世話をするのが私たちの仕事ですから…」とヘルパーさんはよく言い

ますが、前述のような心構えが出来ていなければ続かない筈です。

事実、長続きしないで転職して行く者が沢山いて、どんどん入れ替わって行く様子です。

そんな中で長い間続いている人たちは、本当に貴重な人たちではないでしょうか?


私達、このポルテドール光が丘に住む者たちは、かなり年老いて、身体のあちこちに何か故障を抱えてヨタヨ

タしていますが、幸いにも、「お分かりにならない方々」のお仲間入りはしていない(つもり)でおります。

いつも相棒の増田さんと話すのは、「お分かりにならなくならず、寝た切りにならずに、ある日ポックリと

逝ければいい」ということです。

あと何年寿命があるか知りませんが、死ぬ直前まで、自分の身辺のことが自分で処理でき、そして色々とお世

話をして下さる周囲の方々に感謝をしながら「さよなら」と逝きたいものだと思っています。

「恍惚の人」はやはり名作! 

何だかんだと批判をしながらも、次々と、つくづくと身辺のことに目を向けさせられました。

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