2006.10.1
ビデオ観劇…「すし屋」2本



                                                                                  島 健二


情けないもので、肉体的夏バテはやっと治って来たようですが、精神的にはまだ落ち込んでいて、何をする

気も起きません。こんなときの唯一の楽しみはビデオ観劇です。
取り出したビデオ・テープには、「すし屋」、「引窓」、「御所五郎蔵」と書いてありました。



「すし屋」

配役は、いがみの権太−富十郎、お里―宗十郎、弥助―芝翫、若葉の内侍―萬次郎、弥左衛門―権十郎、

梶原景時―羽左衛門、権太女房おせんー田之助です。

田之助丈は役不足でしょうが、国宝級の魅力的な配役です。

平成7年の収録と云いますからまだ元気だった宗十郎のお里が可愛いこと、芝翫の弥助も若く、美しい。

二人のままごとのようなやりとりが微笑ましく見られます。

富十郎の権太も颯爽としてイキがいい。権十郎の弥左衛門が帰って来ます。

例の口籠もるような科白回しは気に掛かるが、役になり切っています。

段取りよくクライマックスへと進行、梶原の登場です。

羽左衛門丈は貫禄こそ申し分ないが、何とも重苦しい科白回し、これも貫禄の一部で致し方なしか? 

富十郎丈は反応よく振舞って小悪党ぶりがよく出ていましたし、手負いになってからの戻りの心底吐露も

よく、一級品の権太でした。


流石に国宝級の名優たちの顔合わせだけあって、結構だらけの「すし屋」でした。

終わったと思ったら、「昭和52年収録の二世松緑丈の権太他の「すし屋」との比較でお楽しみ下さい」と、

昭和52年収録版が始まりました。モノクロかと思いましたがカラーで、画面も綺麗です。

勿論主要な場面のみを拾って見せて行くのですが、結構丁寧に見せてくれるのです。

配役は、権太―二世松緑、お里―雀右衛門、弥助―梅幸、若葉の内侍―我童、弥左衛門―権十郎、

梶原―染五郎(現幸四郎)、権太女房おせんー門之助というものです。

権十郎丈の弥左衛門以外は、皆違う配役です。「儲けもの」とばかりに、熱心に鑑賞しました。


松緑丈の権太、中々の熱演です。細かい説明は避けますが、富十郎丈の権太とは全く違います。

熱演はいいのですが、全編を通して力が入った感じで、観る方も疲れます。

「こういう演じ方もあるのか」と感心しながら観ましたが、富十郎丈は要点のみで力を入れ、間では力を抜

く感じで、観ていて疲れないので、私は富十郎丈の権太の方が好きです。

先程の宗十郎丈と同じように、雀右衛門丈のお里が、若く、美しく可愛らしいこと…。

梅幸丈の弥助がこれまた品良く、素晴らしい。先程とは対照的に、梶原には若手の染五郎丈を起用しています。

彼は当時30才代かと思われますが、口跡が凛として通るので、貫禄のようなものを感じさせて、不自然さ

がありませんでした。


こうして配役が全く違う2つの「すし屋」を続けて見て、比較、対照が出来、思わぬ目の保養となりました。

歌舞伎は不滅ですね。「引窓」「御所五郎蔵」については稿を改めて書きたいと思います。

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