2006.9.5
弁天娘女男白浪




                                                                               島 健二


友人を3人ほど招いて歌舞伎ビデオ鑑賞会を開きました。先般歌舞伎チャンネルから録画しておいたものです。

2000年1月新橋演舞場所演の「弁天娘女男白浪」で、弁天小僧を尾上菊之助丈、南郷力丸を市川左団次丈、

浜松屋主人を沢村田之助丈、鳶頭を尾上菊五郎丈、玉島逸当(日本駄右衛門)を中村富十郎丈、忠信利平を

尾上辰之助丈(現、松緑)赤星十三郎を市川新之助丈(現、海老蔵)青砥左衛門藤綱を市川団十郎丈その他の

出演で、浜松屋見世先の場から、稲瀬川勢揃いの場、極楽寺屋根裏立腹の場、そして極楽寺山門の場と丁寧に

見せてくれます。


菊之助丈の弁天小僧は初役ではないと思いますが、2000年と云うとまだ23才の時、2度目くらいの所演

だったでしょう。いずれにしてもこの「弁天小僧」は尾上家にゆかりの深い演目で、五代目菊五郎丈の当たり

役として知られ、現、菊之助丈も今後何度も演じて行くことになるでしょう。

結論を先に云いますと、私を含めて観た4人の感想は、「まだ若いから稚拙であろうと思っていたが、存外

上手で、巧みに演じていた。立派なもの」ということでした。


私から一言付け加えますと、「女形の弁天小僧」でした。

立ち役の俳優が加役として演じることもありますが、今回のは「女形の演じる弁天小僧」でした。

将来、成長の過程で変って行くかも知れませんが、現在の菊之助丈は女形ですからこれで良いと思います。

美しい少年が美しい女に化けていたのです。

「浜松屋見世先の場」はよく出来た強請りの場で、誰が演じてもストーリーの展開の速さと良家のお嬢さん

と思われていた主人公が、実は女に化けた盗賊だったという設定の面白さで楽しませてくれますが、菊之助

という若い魅力的な配役を得て、観客は大喜びです。

ただ、コンビを組む左団次丈は私の好みではなく、鈍重な芝居運びと悪声の科白はいただけませんでした。

田之助丈の浜松屋主人は、芝居には問題ないのですが、座ることが出来ない気の毒さ、菊五郎丈の鳶頭は

チョイ役ながら流石にカッコ良く、いい男。富十郎丈の浜島逸当(日本駄右衛門)は貫禄。

花道の引っ込みでの坊主持ちで、左団次丈の南郷力丸は狡猾そうに見えます。

稲瀬川勢揃いの場は明るく賑やかで良いが、富十郎丈の日本駄右衛門が貫禄を通り越して老けて見えました。

若い花形達と年齢が違い過ぎる感じ。

辰之助丈の忠信利平は科白回しがイマイチ、発声は悪くはないのだが…。好漢の一段の努力が望まれます。

新之助丈の赤星十三郎は奇妙に元気がなかった。付き合い役でニンにないのか? 

大詰め極楽寺屋根立腹の場、菊之助丈と捕手の立ち回り、テンポも速く、息も合って上々。

こうした立ち回りの絡み役は、一昔前とは違い国立劇場研修生上がりの若い人たちが大勢入って動きが格段に

良いと思います。

大詰め第二場、同極楽寺山門の場は、第一場の大屋根がせり上がり、菊之助丈を乗せたまま後ろへ返って、

下からせり上がった山門の上には日本駄右衛門、下には青砥左衛門藤綱と夢のような極彩色の構図です。

富十郎丈と団十郎丈の貫禄の釣り合いも良く、又の再会を約して別れるというお定まりの図で打ち出しました。

我が家で気の置けない仲間とのビデオ観劇会。

劇場とはまた一味違った楽しさと好評でした。
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