2006.8.26
引窓ほか



                                                                               島 健二


24日国立小劇場で、稚魚の会、歌舞伎会の合同公演を観て来ました。

修善寺物語に続いて、廓三番叟、願絲縁苧環、三社祭の舞踊3点、それに双蝶々曲輪日記―引窓―と揃った

狂言立てです。最近は疲れるので、若干遅刻して行こうかとも思いましたが、「修善寺物語」は想い出深い

好きな狂言ですので、思い切って最初から観劇することにしました。


修善寺物語

以前に触れたことがありますが、私が歌舞伎に興味を抱くようになったキッカケともいえる作品の一つで、

朗読劇でしたが、私が妹娘かえでの役を演じたことでもあり、ストーリーや劇の展開がよく頭に入っていて、

自然に芝居の中に引き込まれてしまいます。

全体的に見て良く纏まっていましたが、個々の俳優たちの演技を分析すれば、やや不満もありました。

坂東悟丈の夜叉王の演技は職人気質でエキセントリックに演じているのは分かりますが、やや一本調子で、

感情の起伏に乏しく、口跡もだみ声なのが気になりました。

尾上徳松丈の姉娘かつらは熱演ですが、気位が高く高貴を好む性格が描けていなかったように思えました。

落ち入りの表情にも思いを達した満足さが表れていないように見えました。

市川喜昇丈の妹娘かえでは、素直な演技で好感が持てました。優しくて家族思いの好ましい娘がよく描かれ

ていました。

中村獅一丈のかえで婿春彦は無難な出来、中村蝶之介丈の源頼家卿はやや一本調子ながら癇高な性格や抑圧

された不如意さは感じ取れました。


舞踊3本
大変失礼ですが、目を瞑って休息に当てさせていただきました。

最後の「三社祭」の悪玉役、沢村国矢丈は踊りのテンポも良く、溌溂とした演技でした。


引窓

嵐橘三郎丈の南方十次兵衛、中村仲之助丈の女房お早、中村吉六丈の濡髪長五郎、片岡嶋之亟丈の母お幸と

いう配役です。

この4人の主要な登場人物たちの心と思いが絡み合って、芝居は複雑に展開して行くのですが、それぞれの

善意と義理人情が観客の心を打つ優れた劇構成だと思います。

今回は我らの嶋之亟丈が初役の母お幸に挑戦です。

こんな老婆役は初めての嶋之亟丈、私は、老け過ぎないように…と希望を伝えて置きました。

舞台に登場した嶋之亟丈は、お決まりの老母型の扮装、身体の動き。

やっぱり伝統と古来のしきたりに従わざるを得ないかと思いましたが、演技を展開して行くうちに、従来の

お幸役とは違うものが見えて来ました。

心の表し方とそれに伴う身の動きが従来の老母と比べて活発かつ積極的なのです。

さすがに嶋之亟丈、老け過ぎない感じを心理表現とその動きで表現したなと感じました。

反対意見として、もっと年寄りらしくという見解もあるでしょう。

でも私は老け過ぎない老母役に賛成です。よく勇気を持って挑戦してくれたと思います。

全体としての劇構成、各配役、良かったと思います。

十次兵衛の嵐橘三郎丈は老練、達者、濡髪長五郎の中村吉六丈は力強く、女房お早の中村仲之助丈は優しく

しっかりと、ただ少し品を落とし過ぎたようです。

勿論充分に及第点に達した「引窓」で、特に嶋之亟丈の老母お幸は、まだまだ可能性を残した立派な、新型

「老母お幸」だと思います。

将来、新「三婆」にも加えられる老母お幸を完成させてもらいたいものです。

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