2006.7.9
十八代目中村勘三郎襲名披露
 

                                                                                                      
                                                                           島 健二

夜の部
義経千本桜 木の実、小金吾討死、すし屋


7月1日、練馬文化センター大ホールにおいて、題記公演の夜の部を鑑賞しました。

平成18年度、社団法人 全国公立文化施設協会主催東コースの公演です。

このホールでの公演はこの日1日だけなので、前売入場券の購入も抽選だったほどの大入り満員でした。

昼の部は、本朝二十四孝、十種香の場、口上、身替座禅の狂言立て、そして夜の部が、口上と義経千本桜

という演目です。


口上のとき、オヤと思いました。勘太郎丈の姿が見えないのです。

一通りの口上が終わ ってから新勘三郎丈から

「勘太郎は怪我をして、本日手術のため、出演できない(手術は経過良好)」の意味の挨拶がありました。

義経千本桜、木の実の場開幕に先立ち、場内放送で、

「勘太郎休演のため、中村七之助が小金吾、お里の二役を相勤めます」との発表がありました。



木の実の場
 
七之助丈代役の小金吾は、若さ、謹厳実直さ、忠義さが良く表現されて良い出来。

坂東新悟丈の若葉の内侍は若さ故か動きもせりふも硬い感じ、勘三郎丈のいがみの権太は流石に手に入っ

たもの、細かな仕草にも丁寧過ぎるくらいに表現が見られて面白い。優の持ち味か? 

強請の場面のややオーバ−な動作もこの人らしく、拍手喝采でした。

この場面での収穫は権太女房おせん(芝のぶ丈)の好演、控え目で、かつ確かな演技でした。

こういう脇役がいる芝居はとても締まって見えます。



小金吾討死の場

代役、七之助丈の小金吾が大奮闘、細身の身体での立ち回りも激しく、美しい。

幕切れ近くに登場する弥十郎丈の弥左衛門が小金吾の遺体に出会うくだりは、次のすし屋に繋ぐ重要な伏

線となる場面ですが、手を合わせて刀を振り上げる動作に苦心の程が籠められているように見えました。



すし屋の場

七之助丈のお里は若く、美しく、愛らしく、娘役の適性が見られて、全編を通して良い出来でした。

本人は立ち役志望のようですが、若い間は女形と両面に適性を見出して行ってもらいたいと思います。

扇雀丈の弥助(実は維盛卿)は私の好みからは外れていました。

すし桶を担いで登場するところのよろけ方は少しオーバーだし、お里に「女房ども今戻った」を教えてもら

う時の動作はぞんざいで、手馴れた動きのように見えます。

また若葉の内侍との会話は冗長で長過ぎるように思えました。

私がこれまでに見たすし屋では、若葉の内侍のしどころが殆どなくて気の毒にさえ感じたのですが、こんな

に長い科白のやり取りがあり、しかもそれが不出来(失礼)なら、省略した方が良いと感じたくらいです。

勘三郎丈のいがみの権太には言うことなし、中村屋の当たり役の一つと数えて良いと思います。

ならず者だが何処か愛嬌がある権太のような役は先代譲りで勘三郎丈のニンに合うのでしょう。

他に梶原役の市蔵丈は押し出しも科白も良く、又その容姿も益々先代「片市(カタイチ)」に生き写しと

なって来ました。私たちオールドファンには懐かしいことです。

ところどころケチも付けましたが、夜の部の義経千本桜は総じて良い出来で、観客の反応も上々、

大いに楽しませてくれました。

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