2006.3.29
加賀見山
島 健二
昨年から体調が優れず、殆ど劇場へ歌舞伎を観に行っていないので、歌舞伎チャンネルだけが楽しみです。
昨年十月に歌舞伎座で上演された「加賀見山旧錦絵」を早くも歌舞伎チャンネルで放映するというので、
大喜びで、録画の準備を整えて期待して待っていました。
録画しながら同時に観たのですが、はっきり云って期待はずれでした。
私は批評家でもなく、歌舞伎好きで自己流に観ているだけですから、敢えて個人的な好みを書きますが、
玉三郎丈はあまり私の好みではありません。
勿論玉三郎丈の技量と美貌は認めますが、女形にしては背が高すぎるのと、美貌なるがゆえに本物の女性
に見えてしまって、歌舞伎の女形としての独特の魅力が感じられないのです。
それはさて置き、六世中村歌右衛門丈亡き後、この「尾上」の役は、この優のものと思っています。
私の感覚では「尾上」は女性であってよいのです。
この役には女形としての独特の魅力が必要ないように思われます。
さらに感情をグッと噛み殺して抑えた演技、激しい思いを内に秘めて身体全体で表現する芝居がこの優
には向いているように思います。
従って草履打ちの辱めを受けた後の一人での引っ込み、長局の自室での言葉少ないお初とのやり取り、
お初が出かけた後の自害まで、申し分のない出来だったと思います。
菊之助丈の「お初」には期待していました。
初役なのか前に経験があるのかは知りませんが、私は初めてです。若々しくて美しく、しかも最近めき
めきと力をつけて来ているからですが、正直なところ期待外れでした。
勿論良いところもありました。
主人「尾上」のことを思い、「尾上」の言うことに従って行動する部分の芝居は良いのですが、単独で
活躍する部分の芝居、特に竹刀打ち等は威勢が良すぎる感じで、運動会のようでした。
もう少し内輪にと心掛けたらよかったでしょう。
しかし、御曹司の域を脱して有望な若手女形へと着実に成長して来たことは見て取れます。
菊五郎丈初役の「岩藤」に大いに期待していましたが見事に外れました。
別に体調が悪かったわけでもないでしょうが、全般的に覇気が感じられません。
憎々しさも邪悪さも意地悪さ、凄味すらも感じられないのです。
ご本人にお会いしたことはありませんが、日ごろの芸談や対談などの態度、話し方等から好ましい人柄
を感じていますので、この優には、「岩藤」や先代萩の「八汐」のような邪悪な役はニンに合わないの
でしょうか?
以前に書いたように、歌舞伎の悪役にはどこかトボケタ味があって救われるのですが、「岩藤」や
「八汐」はこの救いがない悪役に類する役かも知れません。
どんな役でも立派にこなす七世菊五郎丈も、この救いがない悪役は苦手なのでしょう。
優秀な女形、菊五郎、玉三郎、菊之助三枚を揃えての「加賀見山」、大いに期待したのです
が、外れたのは中心となる菊五郎丈の「岩藤」がミスキャストだったからでしょうか……。
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