2005.12.01
再び「修善寺物語」と「寺子屋」


                                                                                                                       島 健二


歌舞伎よもやま話を書くようになってから、時折意識的に、歌舞伎チャンネルを見たり、撮り貯めたビデオ

テープを見て、書くネタを探しています。

歌舞伎チャンネルを見る場合に、予めプログラムを探して、見たい演目を選べばいいのですが、

計画性がない悪癖で、思い立ったときにチャンネルを合わせるので、途中から見ることが多いのです。



先日も突然思い立ってチャンネルを合わせましたら、「修善寺物語」の途中でした。

最近は「修善寺物語」に縁があるなと思いながら見ていました。



始めのうち「夜叉王」は誰が演じているのか分かりませんでしたが、歌六であることに気付きました。

歌六の夜叉王は初めて見ましたが、熱演ですし、丁寧に演じていますがもう一つ盛り上がりに欠けるよう

に感じました。年齢を超えた枯淡の味わいがこの優の特徴なのでしょうか? 


「将軍頼家」は門之助、この人の芸もキッチリとした手堅い芸ですが、味わいに欠けるような気がします。

「春彦」は猿弥ですが、とかくオーバーになり勝ちな芸風を押さえて神妙でした。

「楓」は春猿でおとなしいが行き届いた出来でした。全般的に、各優の押さえた演技であっさりと描いた

無難で手堅い舞台の中で、一段と際立って光ったのは笑三郎の「桂」でした。

この優は若年の割に老成した芸を見せる人で、宗十郎亡き後に貴重な古風さを持つ女形として期待してい

ますが、この桂はまことに良い出来だったと思います。

気位の高い、勝気な強さ、そして思い通りに振舞う積極性といったこの役の性根を良く掴んで表現しており、

古風な美しさは益々期待できます。

特に、夜叉王の所望で春彦に支えられて最後に落ち入る顔を見せるシーンは、絶品とも云える表情でした。

美しく、悲しく、しかし誇らしげに、満足して死んで行く素晴らしい桂だったと思います。



「寺子屋」、これも歌舞伎チャンネルで途中から見ました。

身代わり首が成功して源蔵夫婦がホッとしているところからでした。



「源蔵」は延若、「戸浪」は九代目宗十郎ですが、ビックリするくらい父親の八代目に似ていました。

ふくよかな豊満な感じがする容姿でしたからかなり以前の姿でしょうが、何時ごろの所演でしょうか?

(調べたところ昭和60年
月NHKホールでした) 

大好きな宗十郎の若い頃の姿を見て懐かしく、感激でした。

「千代」は芝翫、この人も若く美しく、「松王丸」は、初めはちょっと誰だか分かりませんでしたが猿之助、

この松王丸がまたまた素晴らしい出来映えでした。

「園生前」は時蔵。良い配役、懐かしい顔合わせで、嬉しい「寺子屋」でした。



こうして気の向くままに歌舞伎チャンネルを見て楽しんでいますが、気が付けばここに挙げた演目に出演

している俳優たちの中にも、現在はもう活躍していない役者が何人かいます。

九代目宗十郎丈や延若丈は既に故人ですし、猿之助丈は病気あがりで殆ど舞台には立ちません。

ここには出演していませんが、最近では団十郎丈も病気休演中です。

ご病気の方々の一日も早い復帰を祈っていますが、一方で、古典芸能歌舞伎の持つ生命力には感心します。

先の「修善寺物語」のように、猿之助丈が休演中の猿之助一座でも立派に演じることができますし、

「寺子屋」のように、延若丈、宗十郎丈、猿之助丈が不在でも、色々な役者の組み合わせで、異なる味わい

の芝居が楽しめます。こうして歌舞伎は永遠に生命を保って行くのでしょう。


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