2005.9.15
小泉劇場

 

                                                                     島 健二



誰が小泉劇場と呼んだのかは知りませんが、実に鮮やかな一幕でした。

 
小泉首相が固執する郵政民営化法案が僅か5票差で衆議院を通過して、参議院に提出され、反対派の議員

たちが今度こそ否決に持ち込もうとしていた時です。

小泉首相は「この法案が否決された場合は内閣不信任と見做して衆議院を解散する」と言い出したのです。

「参議院で否決され たならば衆議院を解散する」とは奇異に感じました。

私達だけでなく、反対派の議員たちも「江戸の敵を長崎で討つ」というような話で、脅しに過ぎないと

考えていたようです。


 
法案が参議院で否決されると、小泉首相は本当に衆議院を解散し、

「自由民主党は造反者を公認せず、選挙後も組することはない」と宣言し、離党をまで勧告しました。

そしてこの選挙を「郵政民営化に賛成か否か」を国民に問う選挙と位置付け、造反者の選挙区には刺客を

差し向けるように執行部に命じたのです。

環境大臣の小池百合子氏が東京10区の小林興起氏への対立候補として送られたのを第1号として、

ホリエモン氏とか女性のエリート官僚とか各方面の知名人やら話題になる人たちが地縁とは関係なく刺客

として造反者の選挙区に送り込まれました。

地縁がなくて舞い降りるという意味でしょうか、これらの対立候補は落下傘候補と呼ばれました。



女性の対立候補が多く、彼女達は「くノ一」と呼ばれました。

思いがけない展開ですので、各テレビは毎日詳細に報道しました。派手な「小泉劇場」の開幕です。



今まで仲間だった(造反)候補者の選挙区へ刺客を送り、

しかも自民党の幹部たちがその刺客を応援するのですから大騒ぎです。

選挙区によっては従来からの候補者を応援する地方支部もあり、ねじれ現象も生じました。


激しい選挙戦が繰り広げられ、自民党有利が繰り返し伝えられました。

有権者の関心も深いと伝えられました。無党派層が動くとも伝えられました。

小泉首相は自民党と公明党を合わせて過半数を制することを当初の目標としていたのですが、開票した

結果は誰もがビックリしました。

何と小泉自民党の大勝利で、公明党と合わせると与党は3分の2を制してしまったのです。



意外でした。

小泉自民党は造反者30名を追い出して、何と80名余りを新規に当選させてしまったのです。

マジックでした。どうしてこんなことが起こったのでしょうか? 


今まで民主党に流れていた無党派層の票と従来棄権していた無党派層の主として20〜30才代の票が

自民党に入ったと云われます。

この年代の無党派層は政治の現状に強い不満を持っていて、強力な改革の指導者の出現を求めていた

のですが、今回の小泉首相の強引過ぎる手法に共感して一斉に自民党へ流れたのだそうです。

小泉首相のやる気が本物で、正しい改革を行なってくれるなら構いませんが、

気に掛かるのは与党が3分の2を占めること、その気になればどんな法律でも通ってしまうことです。

参議院や野党によるチェックが利かなくなったことです。

他者の言うことを利かず、自分の思うことを押し通す小泉首相にこれほどの強権を与えるのは危険です。

首相とその後継者がくれぐれも誤った運営をしないように望みます。

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