2005.3.10
スター列伝(頓知のYさん)


                                  島 健二


Yさん、私が単身となってから、花ちゃん食堂で同じテーブルで食事をするようになった

方です。前にもちょっと触れましたが、東京銀座の生まれの聡明な女性で、お医者さんの

奥様だった方です。頭のキレは抜群で、駄洒落や頓知が利く素晴らしい方でした。

転んで骨折されて寝たきりになられてからも食事の介助をしてくれるヘルパーさんが

「Yさま、おいしかったですか?」と訊ねると「牛負けた」と答えるので有名でした。

「うまかった(うしまけた)」と云う駄洒落なのです。

食事の途中でスプーンをお口へ持ってゆくと「名古屋」だそうです。

「おわり名古屋」の意味で、「もういらない」と云うことです。

頭がキレて相手の方をやり込めるようなこともあって、お嫌いになる方々もあるようでし

たが、お元気な頃は女性群を牛耳っておられて、ボス的存在だったようです。

私は駄洒落でも負けていませんでしたし、口先でやり込められることもなく、逆にYさん

の方が「やられた、負けました」とおっしゃることもあり、また歌舞伎の趣味も共通で、

良いお付き合いが出来たと思います。

そんな聡明なYさんがヘマな発言をされたことがありました。

朝食が終わってロビーの事務所前のいつもの場所に、Yさんを中心に数人が集まって、

雑談をしていた時のことです。急に激しくにわか雨が振り出しました。

誰かが「アッ夕立だ」と叫んだところ、

Yさんがなんと「今は朝でショ。朝立ちョ」と云われたのです。

私はFさんという男性の方と顔を見合わせてニヤリとしてしまいました。

Yさんも言ってしまってから「シマッタ」とお気付きになったようですが、そ知らぬ顔を

しておられたので、追求するのはやめました。

私よりも20才ご年長で、2年ほど前に97才の天寿を全うしてご他界になりました。

                                                                      
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