2005.2.20
悲しいボケ・ジコチュー

                                                                島 健二 


人は誰でも年を取るとボケたり、ジコチューになったりします。

ボケの医学的な原理や構造は知りませんが、脳細胞の老化によるものであることは間違

いないでしょう。物忘れは初老の時期から始まり、だんだんとひどくなって行きます。

人の名前や土地や物の呼称が思い出し難くなり、「あの人、あそこ、あれ」が多くなる

のは経験済みの方が多いと思います。

何をしようとしていたのかを忘れ、何処に置いたのか、何処にしまったのかを忘れて探

し回るのもご経験済みでしょう。


この辺までは仕方がないとしましょう。

アルツハイマー病や脳血管系の病気が原因でボケると悲惨な場合が色々と生じて来ます。

友人が嘆いていたことがあります。

故郷に住む母上を久しぶりに訪ねたところ、

「おお、○○か! よう来てくれたな。変わりはないか?」と抱きついて涙を流して喜

んでくれた母親が、一時間もすると怪訝な顔をして「そこにおられるのは何方じゃナ?」

と云われたのには、「最近ボケがひどくなっている」と聞いてはいたものの、愕然として

限りない悲しみを覚えたとのことです。

その友人ももう帰らぬ人となりました。

私達の年代が、その限りなく悲しい年代に差し掛かって来たのです。



私も軽い脳梗塞を患った経験がありますから、いつこのようなボケが始まるかも知れま

せんが、シルバーヴィラのような老人ホームにいますと、数限りないボケの実態が目に

入ります。


岩城祐子先生はおっしゃいます。

「性格の良い方はボケても性格がおよろしいし、意地悪な方はボケても意地悪ね」

その通りだと思います。

私も20年来この環境に身を置いて経験しておりますが、このシルバーの言葉で云う

「お分かりにならない方」でも、可愛らしくていたわってあげたくなる方と、どうにも

憎らしくてジコチューで、ご免こうむりたい方もいます。

現在入居しておられる方々の中にも色々おられます。



踊りと泣きのMさん 

この方は音楽に合わせて踊るのが大好きです。

踊っている間にだんだんエスカレートして来て、楽器を弾いている人や歌っている人に

覆い被さるように近づいて、手を振りかざすのはちょっと迷惑ですが、 どうにも憎めません。

静かにしておられる時に優しく声を掛けてあげると「 ハイ・ハイ」と嬉しそうですが、

誰も相手にしない時など、サメザメと泣きながら掻きくどくように何かおっしゃるのですが、

何を言っているのか分かりません。


歌が大好きなTさん

普段はジッとうつむいて黙っておられますが、カラオケで皆が歌っている時などには

手拍子をとったりしてご機嫌です。静かで世話が焼けませんが、時に突然、お召し物を

ドンドン脱ぎ始めてしまわれるのには困ります。でも感じの良い方です。



迷惑な方々にも色々なタイプがあります。

毎日荷物をまとめて持って歩いて自宅へ帰ると云う方、

私達が出入りする際にうっかりすると外へ出られるので注意が必要です。

出られるのを阻止しようとすると大変立腹されて、暴力的になる方が多いので要注意です。

ヘルパーさんと示し合わせて、うまく注意をそらせて出入りする必要があります。


次には、ともすれば大声を出して威嚇する方、

ヘルパーさん達は扱いになれているので、うまくなだめたり、すかしたりしてご機嫌を

とっていますが、入居者、殊にご婦人などは怖がります。


また矢鱈にテーブルなどを叩く方、そばを通りかかる人に手を伸ばして、さわったり叩い

たりする方等々さまざまです。

 

こうした様々な人たちと一緒に過ごす毎日で、基本的には憎んだりはしませんが、

出来るだけ皆が気分良く過ごすには、性格の良くない「お分かりにならない方」の扱い方

には困ってしまいます。

また「お分かりになる方」の中にも、「年寄りのジコチュー」の方々がおられます。

加齢とともに自分のことで精一杯となり、周囲の人々のことなど配慮する余裕がなくなる

ジコチューで、無理もないと理解は出来るのですが、周囲の人々に迷惑を掛けてはいけな

いと思います。


先日、増田さんと色々なことを話している時に、増田さんから新説が出ました。

「ボケの原因となるのはジコチューだよ。ボケている人達はみんな自分のことしか考えてい

ない。自分のことは二の次、周囲の人達のために良かれと思って行動している人はボケない」

…なるほどそうかも知れない。私達もボケないために周囲の人達のためを思って行動しなけ

れば…と思いました。


過去におつき合いした、あるいは見聞きした方々の中にも、ボケている、いないにかかわらず、

印象に残る方々がおられました。

こうした様々な方々についても、稿を改めて順序不同でご紹介したいと思います。

                                                                           
目次へ