2004.4.1

「ぼんさん」の想い出A


                                                                    島 健二

「ぼんさん」は陸士出の人が皆そうであるように、「長幼序あり」を非常に重んじる人

でした。「りんさま」とは年令5差、入社7差で絶対服従、私とは年令は1差ですが、

入社は5差、「Oさん」とは同年齢ですが、入社4差があるので、4人の間では自分を

最下位者と位置付けて、雑用的な事を一切引き受けて、マメマメしく働いてくれました。

重い荷物などがある時は、『「りんさま」は年寄りじゃから……』『「おけんさん」は

ひ弱じゃから……』と冗談のように云いながら、骨身惜しまず持ってくれました。

麻雀が終った後の点数計算、会食した時などの割り勘計算等々すべて引き受けて手まめ

にやってくれました。

私などが調子に乗って余分な用事を押し付けても、アカンベーをしたり、『「おけんさ

ん」は不精者じゃのう……』などと悪態をつきながらも労を惜しまず引き受けてくれた

のを思い出します。


この4人で楽しい麻雀仲間としての付き合いは7年足らずで終ってしまったのです。

「ぼんさん」自身が『こうやって楽しく麻雀が出来るのもあと何回くらいじゃろ。月に

1回として年に12回、……』などと数え出したので、『そんな縁起でもない計算をす

るなよ……』などと云ったのですが、現実のこととなってしまいました。

前に書きました『「りんさま」の急逝』です。

そしてその後1年足らずの間に、「ぼんさん」までが逝ってしまったのです。

こうして「りんさま」が次回の約束をカレンダーに書き留めていた「4人の会」はあっ

けなく終焉を告げたのでした。


前にも書きましたように、「りんさま」の葬儀に際しても、「ぼんさん」は獅子奮迅の

働きをしてくれました。本当に私たち3人には「ぼんさん」は良く尽してくれました。

「長幼序あり」を旨とした「ぼんさん」でしたが、反面として後輩には厳しい人でした

ので、中には「ぼんさん」のことを良く言わない人もいるのは残念です。

私は敢えて云いたいのです。「ぼんさん」は「長幼序あり」を実践しただけなのですよと。


「りんさま」の没後、「ジンベー」さんに参加してもらって、1回だけ麻雀をしたこと

があります。5月に行われた会社のOB会のあと、新宿の雀荘でしたのですが、この時

「ぼんさん」は黄疸症状を起こしていました。

「ぼんさん」は相変わらず麻雀が強く、「Oさん」が捨てた牌をカンしてリンシャンカ

イホウで満貫をつもるなど勝負運の強さをみせました。

そのときはまだこれが命取りになるなどとは思わず、『そんな上がり方をすると悪いこ

とがあるぞ』とか『肝硬変から肝臓癌になるぞ』とか冗談に云いましたが、それから3

ヶ月足らずでお別れになるとは……。


「ぼんさん」は検査のため入院しました。検査の結果は芳しくないものだったようで、

肝臓に腫瘍があるとのことでした。

「悪性だと大変だね」との私の問い掛けに、「どうもそうらしいんじゃ」と元気のない

応対でした。結局手術をすることとなり、手術前に見舞いに行った時には元気でしたが、

心配やら懸念が顔に表れていました。

一応手術は成功したとのことで、退院の運びとなり、退院した「ぼんさん」は、一日も

早く元気になって交友の場に戻りたい旨の挨拶状を広く出状したようです。一応は早期

発見で手術成功と聞いていましたので、不安は抱きながらも健康回復を祈っていたので

すが、退院後放射線照射のために通院する「ぼんさん」は、猛暑の7月末でしたので、

電話で通院がとても辛い旨を訴えました。

私は出来れば入院して放射線照射を受けた方が良いとアドバイスして、「ぼんさん」も

素直に受け入れて再入院しました。しばらくして見舞いに行ったところ、具合が悪いら

しく、医師や看護師が忙しく出入しているところで、会うことは出来ましたが、「ぼん

さん」は力なく「有り難う」というだけで、励ます言葉も出ないままに、「お大事に」

と後ろ髪を引かれる思いで病院を後にしました。帰路「Oさん」と陰鬱な思いで「何と

か助かってほしい」と話したことでした。

結局はこれが顔の見納めとなりました。

その後週に2度ほどは奥さんに電話連絡をとりましたが、悪くなる一方で、8月11日

「ぼんさん」は76才の誕生日に亡くなりました。

私とは1年違いで、私の誕生日は9月15日ですので、1ヶ月ほど同い年になります。

「ぼんさん」はよく「今日からしばらく「おけんさん」と同い年やな」と云っていまし

たが、この年にはこのせりふは聞かれず仕舞いでした。


葬儀の時に対面した「ぼんさん」の顔は「無念」と言っているような顔だったのが忘れ

られません。悲しい、悲しい想い出です。

「ぼんさん」安らかにお休み下さい。貴方には特にお世話になりました。

いつも感謝していましたよ! さようなら。
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