2003.12.8

自由になれた喜び (終戦後の学生生活@)


                                                                   島  健二

昭和20年10月1日に、軍隊から復員して生家へ戻り、戦後の大学生生活が始まりました。


まだまだ食糧難、物資不足、治安状態の悪さ等々、当分の間様々な問題が残り、旧円封鎖、新円

切り替えにともなう給与の新円支給制限もあって、生活費も足らない状況で、学生は学生なりに

アルバイトで稼いで生活費を入れなくてはならず、学生生活をフルにエンジョイできたわけでは

ありませんでしたが、何よりも嬉しかったのは、戦争が終わって自由が戻って来たことです。も

う、空襲もない。兵隊に行かなくても良い。家族が力を合わせて、戦後の困難を乗り切って行け

ば、何年か後にはきっと豊かな、明るい未来がある。それしか考えませんでした。平和になった

喜びを本当に噛みしめたのは私たちの年代だったでしょう。何しろ10才くらいから20才まで

の間、ずっと戦時中で、否応なしに戦争の中に巻き込まれ、場合によっては命までも投げ出さな

ければならないような環境に身を置かれて、何ものにも束縛されない真の自由を味わったことが

なかったのですから……。


恵まれたことが二つありました。先ず第一は何といってもアメリカの統治下に置かれたことです

。関東地方から北部はソ連統治、南部はアメリカ統治という案もあったように聞いていますが、

それに反対してくれたのは、当時の中華民国、蒋介石総統だったということです。もしも分割統

治だったら随分違った展開になったと思います。


次には私的なことですが、我が家は戦争の被害を受けたとはいえ、直接戦争のために死んだ者は

なく、また家も幸いにも焼け残ったことでした。10月1日の講義再開に丁度間に合うように復

員できたので、大学へは熱心に通いました。戦後の混乱期のため下宿難、交通事情等から通学の

困難な学生もいるため、経済学部では講義はすべて自由選択で、必修科目もゼミナールもなく、

3年間に任意の24単位を取得すれば卒業できる制度となっていました。私は家も焼け残り、自

宅から通学可能でしたので、1年ほどの間に22単位もこなしてしまいました。さして勉強熱心

なわけでもありませんでしたが、安心して勉学に専念できる環境が嬉しく、熱心に通学したわけ

です。必要な単位の大半を取ってしまって、気が緩んだわけでもありませんが、その後の1年半

ほどは大学の学生生活をエンジョイしようという気分になりました。


学生生活をエンジョイしようと言っても戦禍で焼け野原となった東京の街には若者が繰り出す繁

華街もなく、専ら遊びの中心となったのは、高校時代に覚えた麻雀でした。戦争中の勤労動員時

代にも唯一の娯楽として時に麻雀はやっていましたし、大学入学後も、兵役にとられるまでの間

、メンバーが揃えば楽しんでいました。大学では通常同じ高校出の友人たちとしか付き合わない

のが普通ですが、だんだんに兵役にとられて仲間が減り、静高の仲間だけでは4人揃わなくなっ

て来たので、勤労動員などで親しくなった都立高校(当時は府立高校)の友人達と合体して、新

しい麻雀グループが出来ました。このことがキッカケで、終戦後も静高と都立高が仲良くなり、

社会人となってからのゴルフでもST会(静高と都立高の頭文字を組み合わせた名称)などとい

うプライベイト・コンペを作ったりして、終世の友人も出来たくらいです。


現在、随一の親友といって良いO君はこの典型で、都立高校出身ですが、麻雀友達、ダンス友達

、ゴルフ友達となり、1年休学して大学卒業も1年遅れた彼は、私の勤務先に遊びに来ているう

ちに私だけではなく、私の会社での友達とも仲良くなってしまい、1年遅れで同じ会社に就職し

てしまったのです。現在私が住むシルバーヴィラ向山にも、Xマスやら花見やらの機会に訪ねて

くれますし、現存している唯一無二の親友となってしまいました。今ではカラオケ仲間です。


閑話休題、この麻雀のグループが発展して、戦後流行した社交ダンス等にも大いに励みました。

ダンスをマスターしてからは、小遣い銭の乏しい学生ですから、ダンス・パーティーに無料で入

れてもらい、「壁の花」をなくすために「さくら」として一斉に踊りだすなどしたことが懐かし

く思い出されます。だんだんに「お遊び」の時間、回数が多くなってしまい、講義に出るつもり

で大学まで出て行っても、法学部、経済学部共通のアーケイドのところで仲間が4名集まると、

一組が出来てしまい、講義に出ずに麻雀屋又は誰かの自宅もしくは下宿へと直行して麻雀に励む

ようになりました。


次回はアルバイトについて記したいと思います。                         
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