2003.11.5
入営概況 (戦中・戦後F)
 

                                                                     島  健二

当時は徴兵制度がありましたから、男子は20才になると徴兵検査を受け、甲種合格、第一乙種合格、第二乙種合格、丙種(兵役免除)のいずれかに分類されるのです。甲種合格は身長、体重、視力等のバランスのとれた文字通りの健康体で、即刻入営通知が来ることになります。第一乙種合格は健康体ですが、身長・体重・視力等のバランスがやや良くない者、第二乙種合格は準健康体(現状は健康を保っているが、既往症があったり、バランスがかなり悪くて、虚弱体質に近い者)、丙種は健康体とは言えず、軍務に不適と認定された者で兵役免除となりますが、非国民とさえいわれたものです。第二乙種以上は入営通知が来次第入営することになります。
少し前まで、学生には在学期間中徴兵猶予の特典がありましたが、昭和18年に文科系の学生の徴兵猶予が廃止され(勅令昭和18.9、21即日実施)、その時点で20才を超えた文科系学生は、かの有名な10月21日の「雨の神宮外苑」での壮行会、12月1日の出陣となったわけです。これに続いて昭和18.12.24には、徴兵適齢臨時特例が発令されて、徴兵適齢が19才に繰り上げられ、私は19年9月に満19才ですから19年秋に徴兵検査を受けて第一乙種合格と認定され、入営通知を待つことになりました。友人の中には早々と19年中に入営通知が来た人もありましたが、私は幸いにも遅く、中々通知が来ませんでした。通知が早く来た人々の中には、戦地に送られて、戦死した人たちもいます。私は遅かったために戦地に送られることなく、内地で終戦を迎えたわけですが、その代わり東京大空襲をも体験しましたし、また終戦時には復員に際して残務整理に残されて、武器弾薬を集めてアメリカ側に引き渡すという特殊な経験もしたのです。


入営

ついに来るべきものが来ました。7月1日、長野県松本、東部第50部隊に入隊の通知が来ました。私は本籍、現住所共に東京で、長野県には何のゆかりもないのに何故か松本でした。そう言えば入隊してみて分ったのですが、長野出身の人たちの他に東京、新潟、埼玉、茨城の出身の人たちがいました。配属されたのは騎馬中隊で擲弾筒係ということでしたが、仮編制の寄せ集めのためか、騎馬中隊といっても馬は一頭もいませんし、擲弾筒とは名ばかりで、木で形を作った模型のようなもの(軽くて持ち運びが楽でした)、おまけに牛蒡剣と呼ばれる身に装備する剣は木製ですし、銃も木の部分が多いオモチャのようなもの。「お前らは訓練中だから、一人前の兵隊になったら本物を渡す」と言われましたが、多分本物がなかったのでしょう。おまけに靴の代わりに地下足袋。「これでは敗戦が近いわけだ」と思いました。新兵としての訓練中にも色々な苦労や面白い想い出があります。長くなるのでいずれ稿を改めてご披露することにしますが、私は案外要領よく振る舞い、キツイ使役の労働を出来るだけ逃れ、連帯責任と称するもの以外は殴られるのを避けました。それでも何回かはビンタを食らった経験があります。
上官とは、無理偏に拳骨と書く」という日本軍隊でしたから……。
いずれにしても、終戦の日が近いことを知りながら、そして一日も早く戦争が終わることを念じながらの軍隊生活でした。

仮編制の寄せ集めの部隊でしたから、大隊、中隊、小隊のようなキッチリした編制ではなく、学生上がりの見習士官が数名いて小隊長格で統率し、下士官若干名を古兵として適宜配置し、後は我々新兵ばかりでした。
ある日、見習士官が「オーイ2、3名来い」というので、私達学生上がりが示し合わせて3名行きました。見習士官室に行き、掃除を始めようとすると、様子を見ていた見習士官が、「お前達、学生上がりだろう。何処の学校か?」と訊くので、「東大であります」「東大であります」「慶応であります」とそれぞれ答えますと、「オー、頭のいい奴ばかりだな。それじゃあ俺達の仕事を手伝ってくれや」ということになり、「オーイ、もう3人来い」と掃除の仕事は免除となりました。見習士官たちの仕事は作戦面に関して将校の為すべき仕事のようなもので、我々が十分こなせるものでしたので、これを良いことに、その後はキツイ労務の使役などがありそうな時は、「見習士官室に行ってきます」と手伝いに行くことにしました。

また新兵仲間の中には、農村出身の人などで筋骨は逞しく、キツイ労務などは平気ですが、要領が悪く、ヘマばかりしていつも怒鳴られたり殴られたりする人もいました。私はそういう人に知恵をつけて、なるべく殴られないようにアドバイスしてあげましたところ、感謝されて、キツイ力仕事などを代わってくれるようになりました。
要領よく振舞ったというのは、このようなことです。
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