2003.7.6
世田谷、渋谷近辺 島 健二
世田谷という土地柄について、特に調べた訳ではありませんが、町名などから判断すると低い地帯なのかと思います。第一に、世田谷という名称から考えて、この一帯は谷だったのではないでしょうか？ 周辺にも渋谷、幡ヶ谷、祖師谷、碑文谷等々のように「谷」の付く地名がありますし、野沢、深沢、駒沢、奥沢、北沢など「沢」のつく町が多いのです。
また昔玉電が走っていた頃、車掌さんが「次は上馬引沢、登記所前」と呼称していたのを思い出します。馬を引いて来て水を飲ませる沢があったのでしょう。これに対応するのが下馬引沢で、現在は省略されて「上馬」「下馬」と呼ばれているのだと思います。
玉電沿線には「池尻」がありますし、井の頭線には「池の上」があります。「上」の方が高く、「尻」の方が低く感じていますが、どうでしょうか？
渋谷についていつも思い出すのは、学生の頃に渋谷駅のハチ公のあたりで、「地下鉄の駅は何処ですか？」と訊ねられ、何気なく「上の方ですよ」と階段を指差しましたところ、「エッ上？」といとも怪訝な顔をされました。知らない人は地下鉄の駅が一番上の方にあるとは思わないのでしょう。渋谷はやっぱり低い土地柄なのですね。地下から出て来た電車が特に上る感じもなく駅ビルの最上階のプラットホームに入って来るのですから……。
もう一つ、世田谷は「馬」に縁が深い土地だと思います。「上馬」「下馬」に限らず、「駒沢」や「駒留」「駒場」もそうですし、「馬事公園」もあります。そう云えば、子供の頃上馬近辺で、玉川通りをよく馬車が通っているのを見た記憶があります。時にはポトポトと落し物などをしたりして……。
何しろ古き、良き、のんびりした時代でした。野沢のあたりは昭和の初期にだんだん住宅地として拓け始めたようで、私の家は玉川通りを三軒茶屋方面から来て上馬交差点を斜め左に入ったところ（環七の外側）ですが、私の家の前は畑でしたし、少し奥に入った辺りは田圃で、この田圃を越えて先の方にあった駒沢ゴルフ場（現在の駒沢オリンピック公園の一帯）付近までホタル狩りに行った夏の夜の想い出があります。夏の夜といえば世田谷の夜空は澄んで綺麗でした。庭にデッキチェアを持ち出し、夕涼みの浴衣姿で団扇を手にして夜空を仰いで、「牽牛だ織女だ」「さそり座だ射手座だ」と星を眺めて興じたのを思い出します。冬は夕涼みをしませんので、冬の星座はあまり知りません。
青山で生まれ育った私の父が少年だった頃には、渋谷駅近くの現在の宮益坂の辺りに川（渋谷川）が流れていて、水車が廻っていたとのことで、子供たちはその川で泳いだそうです。またその頃には、三軒茶屋には本当に三軒の茶屋があったのを覚えていると言っていました。明治３０年代のことでしょう。
江戸の五不動のうちで、「目白不動」と「目黒不動」は有名ですが、残りの三不動（目青、目赤、目黄）はあまり知られていません。ご存知の方は少ないと思いますが、「目青不動」は世田谷にあるのです。三軒茶屋から世田谷通りを少し下った右側、世田谷電話局の裏手に「教学院」というお寺があります。此処に「目青不動」があるのです。昔は電話局のあたり一帯はこのお寺の境内で、美しい桜並木が連なるお寺の境内を玉電世田谷線が通り抜けていたのですが、戦後間もなく確かＧＨＱの命令とかで、電話局に敷地を分譲することになり、現在のように「教学院」は裏手の方へ引っ込んだと聞いています。
「目白」と「目黒」は地名にもなっておりますが、「目青」はなぜ世田谷にあるのでしょうか？ 実は「目青不動」は元は青山にあったのです。青山育ちの父は、この教学院の先々代の住職とは幼馴染だったそうで、今でも私たちと教学院さんとは、親戚付き合いに近い間柄ですが、移転の時期は分りませんがお寺も私たちもたまたま世田谷へと移転したのです。
教学院さんには「目青不動さんをもっとＰＲしたら……」と言っているのですが、参詣者が多少増えたようにも思いますが、まだ十分に知られていないようです。もっと宣伝をして世田谷の名所の一つに数えられたら良いのにと思っています。
「目赤」と「目黄」については、私は何も知りません。どなたかご存知の方がおられましたらお教え頂きたいと存じます。
取り止めのない世田谷、渋谷近辺のお話でした。 目次へ