2007.6.20
あわてるな日本人
増田 次郎
私も含めて日本人には慌て者の傾向があります。
私の子供の頃、日本は大戦争をやりました。そのときのスローガンが「進め一億火の玉だ」です。
年寄りの中でもののわかった人は、日本はこの戦争で負けると心配していました。
何もわからない子供や、もののわからない連中は、心配する人を卑怯者だとか、売国奴だとか罵りました。
結果はまさしく火の玉になって燃え尽き、全てが灰になりました。
敗戦から20年くらい後だったでしょうか。安い石油がどんどん世界中に行きわたり、かつて黒ダイヤと
いわれ日本の最重要産業だった日本の石炭産業は、コスト高のためほぼ絶滅してしまっていました。
石油との競争に負けました。(夕張市の現在の苦戦はこのときに端を発しています)
石油の恩恵にどっぷり浸かっていたところに、突然中東産油国が石油の輸出を減らすと宣言したのです。
日本中すさまじい騒ぎになりました。関西の方から始まったようですが、トイレットペーパーがなくなると
いう噂が広がり、皆が一斉にトイレットペーパーの買いだめに走りました。あっという間にスーパーの店頭
からトイレットペーパーが姿を消しました。
驚いたのは製紙会社です。「心配ありません」と言っても信用してもらえません。
当時の通産省までが増産しろと指示し、製紙会社は仕方なく増産しました。
その数ヶ月後には在庫が山になりました。これで一番弱ったのはトイレットペーパーを製造していた中小
メーカーです。各家庭に山のような在庫がありますから、誰もトイレットペーパーを買う人はいません。
製品は全く売れません。私はこの業界に詳しくありませんが、おそらく倒産したところもあったでしょう。
その後も不況は長い間続いたと思います。
オイルショックの時は、ほかの素材も薬品も全部品不足になりました。
私は当時小さな工場の責任者をしていました。私は戦時中もの不足で困った時代の先輩から教わっていました。
「世の中には商権というものがある。われわれメーカーは原料・資材が入ってこなければ生産活動が続けられ
ない。そういう会社の商権を尊重するから、供給責任を果たして資材を入れて下さる。原材料のサプライヤー
とは、常によい関係を保つ必要がある」 私は資材を納入して下さる会社と値引き交渉をしましたが、いつも
それを最初に申し上げることにしていました。お陰で私の工場は資材調達に苦労をせずに済みました。安定購入、
安定供給は大切だと、今でも思っています。
コストダウンといえば、長年の取引関係を突如として切って安いと言うだけの理由で新しい調達先に乗り換える。
それで会社経営に問題がなければよいけれど、得てしてそうは行きません。
某自動車メーカーは製鉄会社の取引を一社に絞り、鉄不足の時にラインがストップしたという話を聞きました。
日本式の信頼関係を大切にする経営は、決して間違っていないと思います。
思いつきでぐらぐら態度を変えるのは、危険だということをことのついでに申し上げて置く次第です。
さて今国会で年金保険料の未納問題が大変な騒ぎになっています。
原因が社会保険庁の無責任体質にあったことは間違いありません。
それを明るみに出した、長妻衆議院議員さんの執念には大いに敬意を表します。
しかしこの全てを現在の内閣の責任に押しつけるのはおかしいのではありませんか。
現在の社会保険庁にもこの失態に責任のある人が大勢いるでしょうが、大半の人は既に退職して自分たちの
年金はしっかりもらっていると思います。それを参議院選挙の最大のポイントにする。
「しめた、これで政権交替だ」と喜ぶのは、いかがなものかと思います。
前回のいわゆる郵政選挙で惜しい政治家が随分落選し、政治家の名に値しない人が随分当選しました。
それと同じようなことを参議院でやっては大変です。
衆議院は任期が4年。中途解散もあります。ところが参議院は任期が6年で、中途解散はなし。
参議院でいわゆる護憲派が大勢当選すれば、日本の政治改革はストップすると思います。
選挙の名人だという理由で代表に選ばれた人、副代表は前の厚生大臣。何でも反対の抵抗政党の伝統が根強
く残っている政党。ざる法だからということで天下り防止法にも反対する。今の官僚組織が天下り防止法に
抵抗するのは当然でしょう。理想的な法律が、一度にすんなりできるとは思えません。
それがわかっていなくて「ざる法反対、一歩前進でも反対」と言っているなら、世間知らずのそしりは免れ
ないでしょう。もしわかっていても政権交替のため反対といっておられるなら、詐欺に近いと思います。
断っておきますが、私は現在の自民党を100%支持するつもりはありません。問題は多々あります。
しかし現在の野党よりはまだ増しだと思うから、支持しております。
政権交替が起こったときにどうなるかは大体見当がつきます。そのことを十分考慮されて投票されるなら、
たとえどうなろうと国民の選んだ政権を支持することが、私の務めだと思っています。
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