2007.4.26
小説「ノーフォールト」を読んで
増田 次郎
先日姪から宅配便で本が届きました。
本は「ノーフォールト」という題名の小説で、著者は姪の義兄、岡井崇です。
岡井は現役の産婦人科医で、昭和大学医学部の産婦人科主任教授をしています。
岡井家は、彼の父(故人)の代からの産婦人科医一家で、彼の弟(私の姪の夫)も産婦人科医です。
著者は現在の日本の産婦人科医学界が抱える問題を最もよく知る人の一人だと思います。
実は私も400ページもある本を前にして、義理でも読まなければならないと、気の重い思いをしました。
しかし読み始めてびっくりしました。これだけ厚い本を僅か二日で読んでしまったのは、大学病院産婦人科
の実態が赤裸々に描かれていたからです。
著者は執筆中1年以上にわたり休日、休暇の全てをこの仕事につぎ込んだそうです。
言うのは簡単ですが、大変なことだったと思います。しかしこれだけの苦労をしても世間に訴えたかった気
持が、読んでいて痛いほど心に伝わってきました。
世間は無責任なものです。無情なものです。
先入観ができあがれば、全てがそれで判断され勝ちです。お医者は金持ちだ。なぜあんなに金持ちなのだ。
勤め人にはとても考えられない。それにしては不親切だ。散々待たせたあげくに、木で鼻をくくったような
態度で患者に接している。
そういうお医者さんも確かにいるでしょう。しかしそういう人ばかりではないと思います。
私がお世話になっているお医者さんには立派な人が多いです。
お金儲けしか考えていないお医者さんは、名前は申しませんがたった一人です。こういう悪徳医師が医師全体
の名誉を傷つけ、悪評を招いているのです。大半のお医者様は誠実で親切な方だと、私は思っています。
さてこの小説の舞台は大学病院の産婦人科です。
医師不足で過酷な勤務条件で30時間も連続勤務しているという事実を聞くと、労働基準法などとは無縁の
世界のようです。ヒロインはそこで働く若い女医さんです。登場人物は、昔気質の正義感溢れる教授、産科
と婦人科をそれぞれ担当する壮年医師、医局に働く青年医師たち、ヒロインの親友である助産師など。
さらに患者、その家族など。ほかに医療裁判に関わった弁護士などです。
何でも俗受けする記事にしたいマスコミに対する批判。先進国にあるまじき医療行政の立ち後れの指摘。
自分のことしか考えられない患者の家族。クライアントのためという美名に隠れた弁護士。ステレオタイプで
決めつけては間違えますが、著者の考え方には共感を覚えるところが多々あります。
センセーショナルなテレビや週刊誌の記事。先日の納豆ダイエット事件のように、映像になり、活字になると
信じてしまいがちなわれわれ。お医者さんがいなくなると一番困るのは患者です。
マスコミにも立派な人が大勢いると思っています。マスコミだけに罪をおっかぶせるつもりはありません。
全てはわれわれ大衆が冷静に、真実をシッカリ見極めなければならないと思いました。
この本の出版社は早川書房です。値段は1,680円です。
インターネットで検索してみたら、通販で購入することもできます。
皆様に一読をお勧めします。
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