2005.9.24

惚けへの恐怖(V)





                                                                                                                                 増田 次郎



「惚けは神様から人間への贈り物である。老いの悲しみ、苦しみを忘れさせてくれる」といった方があります。

私には異論があります。それは脳血管の破損や心臓の疾患、事故などで脳の機能が完全に失われた方にしか

通用しないのではありませんか。

「昏々と眠ったまま、ついに意識が回復することなく他界された」という話を耳にしたことがあります。

遅かれ早かれ人間は必ず死にます。

意識がなければ死への恐怖もなく、多分苦痛も無いでしょうから、それなら幸せなことかも知れません。

ですから前記の「惚けは神様からの贈り物」は「無意識になっての死は神様からの贈り物」とすべきだと

思っています。



さて「惚けないためにはこうしなさい」というメニューがあると有り難いのですが、そんなものはなさそうです。

専門家でもないのにというお叱りを受けるのを恐れずに、私がこれまで惚けについて感じたことを、順不同に

列記してみることにします。


1.大学教授、医師など知的な職業に就いていた人でも、惚けることがあります。

    ただ私がこのような方にお目にかかったのは、既に惚けが始まってご自宅での生活が不可能になってから

    ですから、この方の惚けの真の原因は知るよしもありません。

    一流大学を優秀な成績で卒業したことなどは、惚けとは何の関係もありません。




2.大きな精神的ショックを受けたことが惚けの原因になっている方は少なくないようです。

    たとえば大会社の社長が退任して、社用車のお迎えが来なくなり、会社に行っても以前のような厚遇が受け

    られなくなったことが、惚けを引き起こす原因になったと聞いたことがあります。




3.私は頚髄損傷で一時完全に身体が動かなかったとき、言葉が出なくなっていました。

    倅は「おやじ大丈夫か?」と大分心配したようです。

    私の楽天的な性格がこの状態を乗り越えるのに役立ったと思っています。

    物事を楽天的に受け取れる性格は惚け防止に有利なように思います。




4.生き甲斐になるような趣味(趣味が人生そのものであるような)を持っている人、
    仕事を続けなければならない人は惚けにくいように思います。

    将来に夢を持つことは、どんな夢でも惚け防止に効果があるようです。

    老人がいつまでも地位にしがみついているのはよくないことですが、引退して毎日が日曜日になると惚け
    
    が加速されます。仕事でも遊びでもよいから毎日忙しくすること、頭脳を遊ばせないようにすることは
    
    効果的です。




5.趣味だけで惚けが防止できるのか、私は自信がありません。

    本当はどんな仕事でもよいから働く(有償で)ことをお勧めしたいのです。

    報酬を受ける仕事には責任が伴います。この責任感が惚け防止に最も効果があると思います。




繰り返しますが、惚けることほど悲惨なことはありません。

日本はそうでなくても高齢化時代に入っています。

自立できない惚け老人が増えれば、介護に必要な人の数が増えます。

数少ない若い人が惚け老人の介護という全く生産的でない仕事にとられれば、国力は衰えます。

寿命が長くなるのは結構なことですが、惚けた老人が増えたのでは何にもなりません。

老人もどんな仕事でもよいから働きましょう。働けるほど幸福なことはありません。

私は私の仕事にお金を下さる方がいる間は、翻訳の仕事をやめないつもりです。


昨晩テレビを見ていたら、薬物依存になった若者を立ち直らせるためボランティア活動をしておられる方の

ことが報道されていました。惚け防止の方法はいろいろありそうです。

お年寄りの皆さん。お互いに頑張りましょう。
                                                     目次へ