2005.5.25
頑張れ関西


                                                                 増田 次郎


JR西日本が福知山線で大事故を起こしてしまいました。

その原因と事故に伴い起こったいろいろな現象、たとえば事故列車に乗り合わせていた

従業員が上司の指示でその場で被害者救助の手伝いをすることなく自分の職場に急行し

ていたこと、ほかの職場の従業員が前から予定していたボーリングや呑み会を予定通り

やっていたことなどが次第に明らかになっています。

最高幹部の方々は針のむしろに座っている思いでしょう。


それより先、昨年9月関西電力の美浜原子力発電所で、蒸気配管の減肉(パイプの肉が

長年蒸気で削られて薄くなってしまった)による高温高圧の蒸気漏れが起こり死傷事故

を引き起こしています。



JR西日本の場合、過密ダイヤの中で最新型の列車自動制御装置の設置が行われていな

かったことが指摘されています。関西電力の場合も原発を停止させたくなかったこと、

できるだけ配管の寿命を延ばしたかったことが原因として挙げられているようです。


設備コストを下げるのは経営上当然のことです。

設備を効率的に運転することも当然です。

日本の鉄道の定時運行は日本の誇りであります。

また一時新聞・テレビなどで電車の車体を軽量化したことを、安全無視だと非難する声

がありました。軽量化して車両コストと電力の節減を図るのは当たり前のことです。

あのような事故が起こったとき壊れないような車体が現実的に可能だと思っているので

しょうか。

そんな堅牢な車体だったとしたら、衝突されたマンションは倒壊していたでしょう。




私が大学で機械工学を勉強していた当時(今から50年以上前のことです)は、大体この

くらいの外力が加わったら破壊するはずだという予想を(計算で)して、それに安全率

として何倍かをかけて機械の寸法を決めていました。

124時間運転で、事故で止まったら大変なことになるという機械の場合は、安全率を

高くとっていました。

今は安全率などという大ざっぱなことではなく、もっと科学的な方法で強度計算が行わ

れているはずですが、思想的には鉄道や発電のような苛酷な条件で運転される機械設備

は当然それぞれの苛酷な条件を考慮した設計が行われていると思います。

この点については私は現在の技術者の英知を信頼しています。



問題は安全をともすればなおざりにする心の持ち方にあったと思っています。

法律無視があったとすれば論外ですが、たとえ法律に適合していてもそれが現実離れし

ていたとすれば、技術者は事故防止のため必要な措置を講ずべきです。

経営者は事故が起こればもちろん対外的には全ての責任を負わなければなりませんが、

社長がテレビカメラの前で謝罪することは技術陣や現場にとって最大の恥です。

偉い人が現場の実情を把握することは非常に難しいと思います。

仕事の種類によって違いはあるでしょうが、現場の実態がわかるのはせいぜい課長まで

ではないでしょうか。だから現場主義という言葉があるのです。


持ち場、持ち場を守る人々の声が最高幹部のところまで届いていなかったことが、今回

の悲劇の原因でした。



関西は首都圏と比較すると経済規模が小さいという事情があるのはわかります。

中部地区にはトヨタ・グループという大きな牽引力があり、日本碍子やノリタケのよう

な特色のある企業がいて首都圏に劣らない経済力を持っています。

関西はその点で辛いところがあるでしょう。

しかしそれを乗り越えなければ関西の繁栄はありません。

コストダウンは必要ですが、必要なところにコストを惜しんではならないと思います。



私も先祖は大阪人で、かつて大阪で勤務したことがあり、心は関西人のひとりです。

現場の近くにあった日本スピンドルという会社では、事故発生を知って社長以下全員が

操業をストップして救急車の到着前から被害者の救助に当たったと聞きました。

お見事。

関西人のど根性を見た思いがします。

関西の皆さん、どうぞ頑張って下さい。


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