2004.11.20

老化との戦争

                                                            増田 次郎


わが先輩の島さんから私の怪しげな老化防止術?

に過分のお褒めのお言葉を頂き、恐縮しています。

柳の下には泥鰌がいる(駒形どぜうの玄関前には柳があったような気がします)と思

いこんで、またまた老人話を書かせて頂きます。


自慢話を一つ。

昨年切腹で入院したとき、原稿の締め切りを守れず、雑誌社に大変なご迷惑をかけま

した。手術が終わって数日。歩けるようになって、廊下の公衆電話から編集長にお詫

びの電話をし、何分高齢ですので引退させて頂きたいと申し上げました。

ところが編集長さんは、「そういうことは退院してから相談しましょう。先ず早く元

気になって下さい」と有り難いお言葉を頂きました。


退院後、編集長さんがわざわざここアプランドル向山までお出で下さって、仕事を半

分以下に減らすから続けなさいと言って下さいました。有り難いことです。

私の惚けが現段階で止まっている(と思っているのですが)のは、

この翻訳仕事が最大のファクターだと思っています。


いつまでも仕事に縛られているのは、決して楽なことではありません。

しかし楽していたら、間違いなく惚けると思っています。

「楽あれば、苦あり」 しかし苦あれば楽があるかどうかは保証の限りではありません。

人間というものは悲しいもので、楽の保証はないくせに苦の保証だけはあるようです。

これだけ苦労しているのに、惚けたら怒るぞ!



「やっとこさっとこ」への投稿も、結構苦労の種です。(私の勝手ですが)

わが島先輩がいつも健筆を振るわれ、「僕は次を送りましたよ」と電話を下さいます。

「ボールはわがコートにあり。早いところボールを打ち返さないと笛が鳴る」と、

焦るばかりです。これもストレスの一種ですね。

しかし適度な、良質のストレス(人間関係のストレスは悪質です)は、惚け防止の妙薬です。


前に書いたことがあるような気がしますが、

人間関係のストレスは惚けの有力な引き金のようです。

祐子先生は、惚けの原因はショックだとおっしゃいます。

ショックというのは、もちろん精神的なショックです。

たとえば昨日まではVIPだった人も引退するとただの老人になってしまい、

それまでのVIPとは周囲の扱いががらりと変わります。

これはすごいショックでしょうね。

自慢にはならないが(なるわけがない)、私のようにVIPになったことのない人間には、

こういうショックはわかりません。

ガックリ来ておわかりにならなくなった方を見ますと、ただお気の毒だなと思うばかりです。



年とったらお金は余りいりません。

四、五年前までは、年に一、二回海外旅行をしていました。

二、三年前にくたびれるようになったので、海外旅行をやめて国内旅行に切り替えました。

しかし去年からは泊まりがけで出かける元気さえなくなり、旅行にお小遣いを使うことが

なくなりました。情けないことです。足が弱ったのでついついタクシーに乗る機会が増え、

以前なら使わなかった支出が増えました。

しかし全体としてはお小遣い減ったのは、事実です。



祐子先生の話では、年取ったご両親に財産を管理して上げると言って、株券、通帳、印鑑

その他全て取り上げてしまうお子さんがおられたそうです。

私の場合は、息子から見たら気の毒なほど貧乏ですから、そんな心配は必要ありません。

息子が仕送りしなければならないほど貧乏では困りますが、老人にはよけいな財産は不要

です。インフレにならず今の年金が維持されれば、もともと質素な生活に馴れている男で

すから、貧乏は苦になりません。貧乏は程度によってはストレスにならず、却って金があ

ることがストレスになる場合もあるようです。



私は人の好き嫌いが余り激しくなく、比較的誰とでも仲良くできる幸せな性格だと思って

います。これからも、太平楽なノー・ストレス男でいたいと思っています。

近頃は鬱病に苦しんでおられる方が大変多いそうですが、私はその対極にいるようです。

これも惚けに強いのではないかと思っていますが、どうでしょうか。           目次へ