2004.10.7
原子力発電のこと


                                                                  増田 次郎

前回書き落としたこと、その後情勢が変わって書き加えたいことが出ましたので追加さ

せて頂きます。


1.京都議定書が来年春には発効しそうです。

ロシアが京都議定書に調印することになりそうなので、実現すればこれが来年3月には

条約として発効することになります。そうなると日本は現状より10%以上二酸化炭素

排出量を減らさなければならなくなります。これは大変なことです。

日本は省エネルギー先進国ですから、現在より省エネルギーで二酸化炭素排出量を減ら

すには、乾いたタオルから水を絞り出さなければ達成は不可能です。


工場が二酸化炭素を排出するのは怪しからん。工場に税金(環境税)をかけろという議論

があります。しかし税金をかけられれば、製品の価格を上げなければ企業がつぶれます。

工業製品の価格が上がれば、貧乏人は買えなくなります。貧乏人が買えなくなれば、製品

が売れません。ですから産業規模が縮小して、企業がリストラをして失業者が増えるのは

確実です。二酸化炭素が減る代わりに失業者が増え、国民の生活水準が下がるわけです。



米国は生活水準を落とすのは嫌だから、京都議定書には調印しないといっています。

米国の主張は、「中国は二酸化炭素排出制限を受けない。それは米国の競争力を落とすこ

とになり不公平だ」ということのようです。

米国は中国からの輸出で自分の国の産業が損害を受けていると主張しています。

その主張を理解できない訳ではないが、といって地球温暖化を防がなければ大変なことに

なるのは前回申し上げた通りです。

人類が生き残るためには、二酸化炭素排出の抑制は避けて通れないことです。



2.重油(原油)の価格が暴騰しています。

原油の価格が物凄い勢いで上がっています。

中国が産業規模の拡大につれ大量の原油を買い集めています。

何しろ12億の人口を持つ中国です。1人当たりの消費量は少なくても、国全体では大変

な量になります。地球上にある原油の量はもちろん有限です。

原油はプラスチックの原料でもあります。

これをどんどん燃やしてしまえば、将来はどうなるでしょう。

天然ガスも石炭も同じことです。足りなくなれば値段が上がるのは当然です。

だから埋蔵資源の多い原子力に頼るべきであるというのが私の主張です。



3.だが原子力も資源は有限です。

前回述べたように京都議定書のノルマを達成する方策は原子力発電しかないと思います。


さて原子力はウラニウムなどの核分裂を起こす物質が分裂して分子量の小さい物質に変わ

るとき発生する熱エネルギーを利用するのです。

原理的にいえばこういうことですが、核分裂を起こす物質の持つエネルギーの全量が一回

の反応で全て使い尽くされるかというと、そうではないのです。

燃料でいえば、全部灰にはならずに燃え残りが沢山でます。

その燃え残りを捨てるのはもったいないことです。しかも燃え残りは強い放射能を帯びて

いますから、どこにでも捨てるというわけには行きません。

この燃え残りを再利用するのが「核燃料サイクル」です。


私もこの文章を書くのに、にわかづけでインターネットで関西電力さんの原子力発電の

サイトを参照させて頂きました。

皆さんも素人の私の話でなく、正確なところは専門家の書かれたものをお読み下さい。



ここで私が心配しているのは、核燃料サイクルなどやらない方が発電コストが安いという

議論があることです。安いかも知れないが、将来を考えたら本当に安いのでしょうか。

強い放射能を帯びている物質を捨てると、最後は捨て場に困るのではないでしょうか。

また核燃料だって有限な資源です。「後は野となれ山となれ」は問題です。

「ご先祖様はわれわれのことを考えなかったのか。自分さえよければよかったのか」と

子孫から恨まれるでしょう。

私は是非核燃料サイクルを進めて欲しいと思います。



4.原発事故の教訓を生かしましょう

前回ご紹介したスリーマイル島は、米国ペンシルベニア州の州都ハリスブルク市の街中を

流れるサスケハナ川の中州です。ここに大きな原子力発電所がありました。

ここが1979年3月に歴史に残る大事故を起こしました。

この大事故の教訓は原発の設計、運転技術に十分生かされていると思います。

しかし前回書きましたように安全にはこれでよいということはありません。

事故はバカみたいなミスから起こります。

私にもにがい、恥ずかしい経験が山ほどあり、偉そうなことを言う資格はありません。

それだけに電力会社の方、設備メーカーの方、設備保全に当たる方々には最大限の努力を

頂きたいと思うのです。



5.発電所の立地について

原子力発電所は、これまで人口密度の低い僻地に建設されてきました。

しかしそれが本当に正しいことでしょうか。

もちろん将来大地震が予想される土地に建設するのは避けるべきでしょう。

しかし電力を大量に消費する地域に発電所を建設するのは、送電施設の建設費が少ないし、

送電ロスも少ないから、大変合理的です。

安全度を向上させることで消費地に建設できるようにしたいものです。

原発は危険だから田舎に持ってゆけというのは、身勝手な話です。



6.安全のPR

これから一番大切なのは安全だと思います。

繰り返しますが関係者の皆さんに最大限の努力をお願いしたいと思います。

そして私のような電力会社の利害関係者でない者が、ただ原発は怖いと「原発対」を唱え

ておられる方へのPRに当たる必要があると思います。

それにはわれわれがもっと勉強しなければならないと思います。

私のこの文章には技術的にもそのほかの面でもいろいろな誤りがあることでしょう。

専門家にご指摘を頂ければ幸いです。将来私たちの子孫の代になっても、日本が現在の生

活水準を維持して行くために、私のような年寄りにも何かできることはないかと思い、

浅学非才を顧みずこの文章を書きました。                           目次へ