2004.4.27

サラリーマン時代の思い出

                                                       増田 次郎

34年にわたる長いサラリーマン生活では、上司、同僚、部下といろいろな仕事をし、

また需要家さん、取引先、下請の方々などさまざまな人々とお付き合いをしました。

また製造現場で長い年月管理者として勤務し、大勢の作業者の人々と一緒に働きました。

最も印象深い思い出は、

若かったペーペー時代より下級管理職時代の苦しかった体験です。

今考えても冷や汗の出る思い出、恥ずかしい思い出、悲しい思い出が数限りなくあります。

懺悔の気持ちを込めて少しご披露したいと思います。



その1 虫に恨みは数々ござる

製造現場にいると、思いも寄らぬ失敗が起こるのは日常茶飯事です。

私の守備範囲の中にかつて食品用包装紙の加工現場がありました。

たとえば肉まんじゅうの下敷き紙(粘着防止をした紙でまんじゅうをこの上に乗せて蒸

す。食べるときはぺろんとはがす)は、重要な製品でした。

食品用包装紙の最悪の欠陥は申すまでもなく虫が入っていることです。

肉まんのお尻に虫の死骸がくっついていたら大変なことになります。

従って品質管理の最大のポイントは防虫対策でした。


私の勤務していた岐阜県中津川の工場は、海抜約400m。

周囲は田圃と森ですから虫はうようよいます。

何しろ昼夜三交代で作業をする職場ですから、一番怖いのは虫が活動する夏から秋にか

けての夜間です。工場建物の周辺は蛍光灯を全部取り外しました。

しかし暗闇では歩けませんから、照明は全部虫の嫌うというナトリウムランプにしました。

しかしナトリウムランプに虫がとまっているのを見たことがありますから、これだけでO

Kとは行きません。

工場建屋から明かりが漏れるとそれを慕って虫が集まりますから、黒いカーテンをたらし

ドアや窓から明かりが漏れないようにしました。

室内の明かりは極力殺虫灯にしました。

電極の間に電圧がかかっていて虫がこの間を通ると放電して殺すという仕掛けです。

さらに機械の周囲には蚊帳をつりました。

休憩時間には殺虫剤を焚きます。

昔の蝿取りリボンを思い出して粘着テープをあちらこちらにぶら下げました。

人間の通る出入り口は最も虫が入りやすい危険な場所です。食べ物屋さんが使っているの

れんをぶら下げる。さらに人間の肩に乗って虫が入って来ては困るから、エアカーテンを

つけて肩に乗った虫を払い落とす。出入り口はドアを二重にする。二重ドアの中間の小部

屋はもちろん真っ暗にする。虫対策は本当に大変でした。


これだけ対策をとっても運悪くお客さんに虫が行ってしまうことがあります。

営業から連絡があるとぞっとします。平身低頭謝るしかありません。


洋の東西を問わず食べ物屋は虫で泣かされます。

アメリカにも食べ物に虫が入っていたというジョークがあります。

スープの中に虫が入っていたとお客が怒りました。

ウエーターその時少しも騒がず、「お客様。やつは水泳の練習をしていました」と言った

なんてのがあります。

先日観光旅行で田舎町の食品工場を見学する機会がありました。

昔のことを思い出してなつかしく、「ここはこうした方がよいのに」などよけいなことを

考えてしまいました。雀百まで踊り忘れず。                   目次へ