2004.4.9

焼け跡の早大から就職まで


                                                               増田 次郎

戦争が終わり横浜大空襲でK航空工業専門学校は校舎が丸焼けになっていたので、磯子

の軍需工場跡地に移転しました。

当時としてはとても自宅から通えるような距離ではなく、学校に通う気にもならず怠慢

な話でほったらかしにしていました。

K航空工業専門学校は、終戦でK工業専門学校に名前が変わっていました。

自宅に「君は授業料も払っていないし、進級試験も受けていない。従って1年をもう一

度やるつもりなら、その手続きをしなさい。そうしなければ除籍する」という通知を頂

きました。この学校には結果として大変不義理をしてしまい、私の名前はこの学校の学

籍簿にはないと思います。

あれから60年近くたちましたが、あらためて失礼をお詫びします。


焼け跡の早稲田を受験し、まさしく終戦後のどさくさに紛れて第一高等学院に潜り込ん

だわけです。入学式は焼け残っていた大隈講堂で行われました。

「都の西北」が高らかに歌われ、ああ俺は早稲田に入ったんだととても嬉しかったのを

今でも鮮烈に覚えています。


当時キャンパスは大隈銅像の向かい側にあった煉瓦作り4階建ての恩賜館が焼け落ちて

廃墟でした。本部を挟んでその先隣にあった理工学部の実験室や実習室の煉瓦の建物も

焼け跡でした。

そのほかあちらもこちらも焼け跡だらけ。空襲前第一高等学院は穴八幡の向こうにある

現在記念学堂になっている場所にありました。

私が入学した昭和21年、ここは完全な焼け野が原で、見物に行き基礎の上をぴょんぴ

ょんと飛んで歩いたような記憶があります。


校舎がなかった第一学院はやむなく第二学院に同居させてもらい、1年生の時は月水金

と火木土の週3日授業だったような気がします。

それが2年生になったら、月水金と火木土の二部に分かれ、日曜に全クラスが登校して

4日授業が行われました。

専門部工科の製図室を日曜に使わせてもらって、図学の実習をしました。

不器用な私にとってこの1年間が一番情けない時期でした。


3年生になってから、旧第一高等学院の焼け跡に木造平屋建ての教室ができ、そのお陰

で日曜授業はなくなり週4日授業になりました。

日曜の登校がなくなったのは本当に嬉しいことでした。


昭和24年春学部に進むとき学制が変わり、われわれは新制大学に行くことになりまし

た。学院修了と同時に新制大学の3年生になり、2年間で学部を卒業したわけです。

新制の4年生は全員卒業設計で、図面を書きました。

1年前に学部に来ていた旧制の3年生は一部を除いて卒業論文でした。

過渡期で私のような不勉強な男はどさくさ紛れに卒論なして卒業してしまったわけです。


しかし学部在学中随分あちらこちらの工場に見学に連れて行ってもらいました。

浦賀船渠(その後住友重機械工業になり、今は閉鎖されているはずです)日本鋼管(J

R川崎駅の真ん前。空は煤煙で真っ黄色。高炉が聳えていて、すごいところだなと思い

ました。現在日本鋼管は川崎製鉄と合併しています)などは、すごい重労働の職場でし

た。今でも強い印象が残っています。


夏休みに神戸の川崎重工業の艦船工場に実習に行ったことは前に書きました。

当時は造船所も仕事が余りなく、川重でも「今この船台に乗っている船が完成したら、

後は仕事がなくなるんだ。これからどうなるかと思うと不安だよ」と先輩が嘆いておら

れました。この年、昭和25年の夏北朝鮮が突如として韓国に攻め込んできて、いわゆ

る朝鮮動乱が始まりました。

これで日本の産業界に特需が舞い込んできて、倒産の瀬戸際に立たされていたトヨタ自

動車が、米軍のトラックを大量に受注して息を吹き返しました。

これは日本にとって大変な僥倖でした。


何しろさなきだに終戦直後の就職難時代に、早稲田と慶応では旧制大学(理工学部)の

3年生と、新制大学(第一理工学部)の4年生が一緒に卒業したのですから大変なこと

でした。よく就職できたものだと今でも思っています。


同期で入社した旧制大学出身者は1年間私より長く勉強していました。

これはとてもついて行けないぞと、今考えても必死でした。

もっと学生時代に勉強しておけばよかった。後悔先に立たず。


今考えると学生時代はお腹が空いていたし、金はなかったし、初恋などとは全く縁があ

りませんでした。不勉強でしたから自業自得かも知れないが、かわいそうなものでした。

楽しかったことは六大学野球と映画、囲碁と麻雀ぐらいしか思い出せません。

焼酎のサイダー割りを呑んで足を取られたことがあったのも学生時代でした。

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