2003.6.20
築山殿


                                                  増田 次郎さんより

誰でも昔は若かった。覚えはないけれど、私も赤ん坊だった。
写真で見ると色白で福相の(信用して下さい)かわいい子供であった。
お世話になった小児科医の奥様に、学生時代お目にかかったことがある。
奥様は私の顔をつくづくご覧になり「あなたは色の白いかわいい坊ちゃんでしたね」とおっしゃった。「今はどうですか?」と聞いてみたいもの。
かわいかった坊ちゃんが意地悪になっているのがわかったら、がっかりなさるだろう。

「♪意地悪じいさん、ポチ借りて〜」という歌は「花咲じいさん」の一節。
これは私の主題歌である。
シルバーヴィラ向山には「黒」という名前の犬がいる。この犬はよくほえる。
私はこの犬が嫌いなので、「こら、ステーキにして食べてしまうぞ」と脅かす。
「不味そうだからおやめなさい」と祐子先生。
黒が口をきけたら、浪花節をうなるのではなかろうか‥。
「♪鬼より怖い、意地悪じじばばの声がする」

この欄にエッセイをお寄せになる島さんは、私の最も尊敬する方である。
島さんは美男子であるが故に、何人か天敵というべき、女性の入居者がおられる。
美男子に女難の相があることは昔から避けられないようだ。
私らの間で「山田長政と築山殿」で通っている女性がおられる。
この女性、江戸時代初期にシャムで活躍した山田長政と、徳川家康の最初の奥方で織田信長から謀反の疑いをかけられ殺された築山殿の話しか話題がない。
この話を、美男子相手に延々とお続けになる。
さすが温厚な島さんも次第に顔が引きつってくる。

「築山殿」のことを思うと、私は器量が悪くて幸せだったと思う。
器量がわるいは七難隠す、 美男薄命。
                                                                     目次へ