2008.9月3日
生まれてきて良かった?
今年の1月、母が逝った。79歳の生涯だった。 そして半年後の7月3日の朝、父が母の後を追うよう
に逝った。87歳の生涯だった。遺品を整理しながらふと思った。
はたして私は暖かいことばを父母たちに掛けてあげていたのだろうか。
思うように体が動かない、目も良く見えない、老いるということは悲しいものだ。
そんな父母に、「これじゃだめ」、「それじゃだめ」と、口うるさくしていた私。
とかく娘は親にきついことばを投げかける。
そんなある日、母が心配そうに「ごめんなさいね。生まれてきて良かった?」と聞いてきた。
ぎくりとした。生きるということはけっこうつらいものである。良かったとも言えず、私はそれとなく答
えをはぐらかした。こちらの気持ちを察したのか母は寂しそうな顔をした。
「うん 、生まれてきてよかった」と、何で返事をしたあげれなかったのだろうか。悔やむ。
親の世話は苦にならないが、やさしいことばを掛けるのは存外難しい。
父がある日こんなことを言った。「こどもがいたから頑張れたんだな。子どもはありがたいな」。
母は父のそばで微笑みながらうなずいていていた。
父の言うように、こどもの成長を楽しみ、明日こそはと希望を持って人は生きて行くのかも知れない。
いまさらながら父母たちのことばにやさしさを感じる。
「あなたたちのこどもでよかった」、と、父母の位牌に手を合わせた。
2008年9月20日付 東京新聞朝刊
「街かどアイ」に掲載
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