2006.11月10日
ことばのお裾わけ



知らなかったことば、新しいことばに出会うと何故か得した気持ちになる。

お財布事情とは違った意味で豊かになる。

お金同様、やたら使いたくなることばもあれば、大切に心貯金をしてしまうことばもある。

『ナマステ』このことばに出会ったのは今年の六月のこと。

それは一芸塾写真展の控え室に置いてあった、師、飯島先生のカトマンズの写真集にあった。


写真集、一ページ目。丘一杯に広げられ干されている洗濯物にカトマンズの空気を感じた。

こどもが手を合わせ微笑んでいる写真、赤い衣装を着けている若い女性の表情が得に印象的であった。

こどもの出来ない奥さんがいて、そのご主人のところへ、この女性は嫁ぐのだという。

「不安げでしょ」飯島先生のおっしゃるとおり花嫁の複雑な心境がみごとに写し出されている。

この地に長期滞在し、人々と触れ合い、この地を愛したからこそ生まれた一枚なのかも知れないと思った。

27年前に撮影したというこの写真集。さりげない子どもの動作、あどけないこどもの表情がいい。

「カメラをめずらしがってね」こどもと一緒に遊び、気持ちを通わせてから撮ったと先生は話して下さった。


写真集を見返すうちに写真の横に書いてある飯島先生の文章が目に留まった。


  『目が覚めれば、そして人に会えば、朝も昼も夜も、

   そして「おやすみなさい」まで 
  
   それはナマステでいい。

   いや、まだある。ありがとう!

   これもナマステでいい。

   大きいナマステもいいし、

   小さいナマステも素敵だ。

   おそらく世界中の挨拶の中で一番心かよわせる

   いや、心ひらかせる挨拶がこのナマステだろう

   ネパールはナマステが一番よく似合う国だ』   飯島 浩


文章のメモを取る私に、飯島先生は微笑みながら手を合わせて『ナマステ』の仕草を見せてくれた。

「大きいナマステもいいし、小さいナマステも素敵だ」このことばも素敵だ。


すべての挨拶である『ナマステ』、挨拶を超えた力を持つ『ナマステ』ということばにすっかり魅了され、

大切に秘密の小箱にしまい込んだ。そして時々取り出しては、ひとり楽しんだ。

『ナマステ』 いろんな場面でこのことばが浮かんでくるから不思議である。

あの写真集に出会えたこと、この言葉に出会えたこと、写真家飯島先生に出会えたこと、

自然に、日々に、亭主に…、  ナマステ。                                        目次へ