2006.9月27日
美しさ



「19番!」「2じゅーう6番!」 「20番!」ダンススポーツ競技会で仲間に声援を送る一場面である。

掛け声がかかると不思議に目はそちらに行く。掛け声の掛かった番号は頭に残るものである。

気合を入れるためもあるのだろうが、数多い競技者の中での審査ゆえ、けっこうこれが印象付けとなる。

「19番!」またもや威勢の良い声が掛かるが、肝心なダンスはイマイチというところ。

おっ、21番。この女性の美しい反りに見とれた。背丈良し、体形良し、ダンスにもってこいの体形である。

「美しい人は立っているだけでも得」出番を待つ鮮やかなグリーンと黄色のドレスのご婦人が言い放った。

このご婦人がおっしゃるように、ダンスは体形が物を言う。本当にプロポーションがいいと、同じポーズを

取っても見栄えがする。とにかく体の反りも、ステップも小柄な体形では損な競技である。



観覧席、亭主の隣に座っているご婦人は推定年令70才。ラメ入りのピンクのドレスはスパンコールでちり

ばめられ、首にも目一杯のスパンコールを巻き、ドレスに負けないメークアップを施している。

ほら、そろそろ仕度して、と相棒のご主人をたきつけながら元気にダンスシューズを履きだした。

もちろん、かかとの細いヒールである。そんな細いヒールで歩くどころか踊るのである。


競技大会は晴れの舞台、弾む気持ちが足取りを軽くするのか、細いヒール姿の高齢者が手すりに頼らずトン

トン階段を昇り降りしている。そして会場で出番を待ち、タンゴとワルツのステップを踏むのだ。

華やかなドレスを着て、舞台に立つと女性は魔物になるのかもしれない。

安全第一、怪我回避、日常の心得を隅に追いやり、つかの間ではあるがドレスの中で酔いしれる。


さきほどのご婦人、出番を終えて着替えも済んで、荷物を取りに観覧席にやってきた。

ダンスを踊ったガラスのようなあの靴は、派手派手衣装は、タキシード姿の吾が君は今何処。

化粧を落とし、セーターとズボン姿、ペッタンコのババ靴、まさに魔法が解けた会場のシンデレラである。

さあ、帰えりましょう、ダンスパートナーであったご主人を誘い、二人はゆっくり立ち上がった。

老夫婦、いたわりながら観覧席を離れる姿はダンスをする姿よりも美しかった。

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