2006.8月18日
覆面ウォーキング


犬の散歩を始めたのは4月のこと。

いろいろな道をのんびり歩くのもいいものだが、それほど時間の余裕もない。

決まったコースを決まったペースで歩くのは、お義理的な感じもするが犬の散歩とは義務的なものである。

とにかく同じコースだと散歩時間の目安が立つ。近くの緑道が格好の散歩コースとなった。

プードル種と思われる犬と散歩しているMさんと一緒に散歩をした時、彼女はこう言った。

「実はね、ひとり散歩は続かなかったのよ。犬がいると仕方なく散歩するわけ」。

犬の散歩とは口実で、自分のための散歩なのだと彼女は犬に引っ張られながら笑った。


盛夏は涼しくなってから犬の散歩である。

最近メタボリック症候群対策とやらで、夜の散歩族がにわかに増えてきた。

メタボリック症候群とは食生活や運動不足により、腹部肥満となり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞など

動脈硬化性疾患を引き起こすというのだ。どうも体脂肪が悪さをするらしい。


この日の散歩はちょっと遅くて午後の九時だった。

あたりは真っ暗、遊歩道の照明が池を映し出し昼の風景とはまた違った趣になる。

「こんばんは」。

黒帽、黒シャツ、黒ズボン、おまけに黒マスクと黒ずくめの女性がすれ違いざまに挨拶した。

私よ、私。メタボ対策と言ってマスクをちらっと外した彼女は近所の仲良しさんである。

この格好だと誰だか分からないでしょ、彼女はクスッと笑ってスタスタ歩いて行った。

メタボリック症候群対策の散歩はのんびり散歩とはワケが違う。

減量目標あっての散歩である。短時間の勝負とあれば早足でエネルギー消費を増やそうというもの。

話さず止まらず急ぎ足、汗かき服に身を包み、人目を忍んでの夜行なのである。

出来るなら知ってる人に会いたくない、人目を気にせず歩きたいのが人情である。

そんな中、「あら、Iさんじゃない」親しき顔を見て、つい呼び止めてしまったおばさん。

「ほら、メタボっていうでしょ。この体型どうにかしなくちゃね」。彼女は照れながら立ち止まった。

Tさん、Fさんも歩いている筈とメタボ仲間を披露し、頑張らなくちゃと彼女はすぐさま歩き出した。


帰り道「あら、あなたも犬を飼っていたっけ」娘の同級生の母親のAさんが声を掛けてきた。

そういうAさんも芝犬を連れている。彼女こそ日頃脂肪太りを嘆いているひとりである。

娘が犬の世話をするからという約束で犬を飼ったのだそうだが、初めだけで後は全然…、と説明し始めた。

自分が犬の散歩をするはめになったと、さも情け無さそうに語る彼女はまさにメタボリック諸侯群。

これこそ犬をしての覆面ウォーキング。

                                                                                目次へ