2006.7月5日
職人先生の引き出し



一級造園施工管理技術検定を受けてみよ、亭主から指令が下ったのは一昨年のこと。

目的、目標を持つとにわかに心が弾む。合格云々よりも、勉強するという過程が楽しいのである。

亭主公認の勉強である。堂々、本を開く。知る新鮮さで気持ちは一気に若返る。

知るということは快感でもあるが、受験となれば覚えねばならない苦痛をともなう。しかし、この年令に

なると、こういう苦痛はけっこう快感なのである。頭は空回りでも、気持ちは腕まくりなのである。

亭主は身近で格好な講師であるが、解説が酒の肴となってしまう嫌いがある。

不消化のうちにまる二年。今年こそ何とかせねばと受験対策講習会に参加した。



女性5名を含む46名の受講生、若者の中に中高年がちらほら混じっている。

講師は宮島秀夫氏、75才、石積み職人の第一人者である。

現場話はもとより、それから広がる歴史、地理、地学に科学、職人先生の引き出しの多さに驚く。


昼食タイム、ラーメン店で講師の先生と話す機会に恵まれたおばさん。

「えっ、昔は鎌で木を切っていたのですか」。

植木鋏が使われる以前は、長い柄の先に鎌を付け、高枝をも切っていたと先生は説明した。

最近は高所作業車で枝を切るようだが、樹形を整えるには、やはり遠くから枝ぶりを見て切るのが一番、

京都の二条城の松は、今でも鎌で剪定していると説明した。

日頃お世話になっているのに、鋏の歴史など考えたこともなかったおばさん。

握りばさみの歴史は古く、平安時代にはあったと先生は推測する。

握りばさみ…?  裁縫時、プツンと糸を切る、あの和ばさみである。

チョキチョキは切れるが、ジョキジョキは切れないあれである。

室町時代、池坊が始めて花バサミを造ったという。それまでは花はナタで切っていたようだ。

池坊のはさみは「ワラビ型」、ワラビの作り出す曲線に良く似ている。

池坊が開発した花ばさみ、美しいラインを持つハサミではあるが、世間一般には広まらなかった。


江戸時代中期、古流が花ばさみを造った。握り手のところが輪になっているものだ。

使いやすさで、これが大当たり。植木バサミも生まれた。すると、今度は藁葺き屋根を葺く時にも使われた。

藁を鎌で切っていたのがハサミとなった。そしてハサミは一気に庶民にブレーク。

植木バサミに裁ちバサミ、江戸の町にハサミはあっという間に広がったのだと先生は話した。


それまでどうやって布地を裁断していたのかと問えば、刀、裁ち包丁、握りはさみと先生は答えた。

へぇー、驚くおばさんに、笑いながら先生は小引出しを閉じた。

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