2005.12月5日
「バカ」にて承り候


木下恵介監督の映画が只今BSで連日放送されている。

♪〜おいら岬の灯台守は 妻と二人で沖ゆく舟の 無事を祈って灯をかざす 灯をかざす

「喜びも悲しみも幾年月」軍歌のような主題歌に乗って展開されるが、あきらかに反戦がテーマである。


畑を耕しながら「戦争でこどもが命を落すなんてイヤ」と妻である高峰秀子が言うと、

「バカ」と夫である佐田啓二が、あわてて妻の発言を抑える場面がある。



画面は変わって灯台のデッキに立つ二人。

「バカって言われて喜んでいるやつがあるか」と佐田啓二が言う。

「だって、あなたにバカって言われたの始めてですもの。うれしいわ」と高峰秀子が答える。

どんなことがあっても、妻に「バカ」と言うまい、そう決めていたと夫は言うのだ。

そこの場面で「バカ」「バカだな」を連発する佐田啓二。

いかに「バカ」と言うのを我慢していたかを知らされる。

「バカッ」。 甘いマスクの佐田啓二が言うと、「バカ」もなかなかいいもんだ。

こんなやさしい響きの「バカッ」なら、何ぼでも受けてみたいと思うおばさん。


はたと考えた。

ひょっとして、木下恵介氏もわが家の亭主同様、妻に「バカ!」と始終のたまわっていたのでは…。

となると、この映画、反戦のみならず妻への詫び状なるものかも知れない。

親しいからこそ許される頻繁なる「バカ」は、時として形容詞、形容動詞に変化して暴れまわる。

そして行き着く所は「バカもん!」なる名詞である。

笑っていう「…バカ」もあるけれど、寂しく悲しい響きの「バカ…」もある。

「バカ」と一口に言っても実に多様なのだ。

佐田啓二、高峰秀子双方の顔を見つつ、「バカ」も愛情表現であったのかと改めて認識したおばさん。


そうか、亭主に「バカ」と言われても、愛情だと思えば腹も立つまい。とは思ってはいるのだが…。


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