2005.12月1日
いずこも同じ腹の虫



バス通りのゴミ捨て場。住所不定のゴミが集まってしまう場所でもある。

そこに誰が書いたか、殴り書きのお触書。“平成の大空虚者! 誰が捨てたか分かってる!”

「おい、あの文字読めるか?」と亭主。

空も虚も「うつけ」と読むそうだ。ことばの意味は、ばか者と知った。

「うつけ」という二文字を重ね、バカ者を強調して書いてある。

お触書。作った方は相当ご立腹で書いたのではないかと察する。

おばさんのように読めないのか、読まないのか、ポイ捨ては一向に無くならなかった。

効果空しい看板は、いつの間にやら外された。


「奇特な人がいるもんだ」。例のゴミ置き場を通りすぎたところで亭主がつぶやいた。

振り返ると、小雨降る中、若い男性がゴミ置き場のネットを繕っているではないか。

何だか知らんが、エライもんだと亭主が褒めた。

ひょっとしたら、あのドエライ言葉の主かもしれないと睨んだおばさん。


翌日、ゴミ収集が終わるとネットは開かないようにしっかりと縛られていた。

その後、そのゴミ捨て場は徹底したゴミ管理体制が敷かれたのである。

夜になるとゴミネットは頑丈な紐でくくられ、プラスチックのチェーンで巻かれていた。

そして、金曜日の夜。あのゴミ置き場に、あの奇特な彼が必ず登場してくる。

ネットでしっかりゴミ箱を覆い、使い古しの雨戸でゴミ置き場を囲む。

その上から紐で縦横に縛りつけ、プラスチックのチェーンを張り巡らす。

雨戸の合わさった両角には「土日はゴミを出すな!」の貼り紙で現金書留よろしく封印される。

もちろん囲った上部には止めを刺すような殴り書きが掲示され、道行く人を威嚇する。

「土、日曜日には絶対ゴミを出すな!」


月曜日の朝、彼はこれを剥がし、縄と囲いを解き、これら封鎖道具を家まで運ぶのである。

何が彼をそうさせるのか、とにかく彼はゴミ管理に情熱を燃やしているのだ。


向こうのゴミ置き場では、隠しカメラが付いているとの貼り紙で、ゴミ捨ての一見客を脅かす。

知人の住むアパートのゴミ置き場。時間外のゴミには中身チェックが行われているようだ。

悲しいまでのゴミ管理。何もそこまでと思うおばさん。


とは言え、自分管理のゴミ置き場。

「やだっ!」住所不定のゴミを見て、許せないと腹を立てるおばさんなのである。

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