2005.11月23日
親バカ2題(その2)
「あっ、便が出ていますね。良かったです」。在宅介護のヘルパーさんがにこやかに微笑む。
「済みません、ちょっと横向いて下さいますか」ヘルパーさんの誘導で体を横にする母。
「ちょっと我慢して下さいね。お湯かけますよ」ペットボトルにお湯を入れ、お尻を洗浄するヘルパーさん。
「さあ、腰あげられますか」。オムツ交換が短時間でいともスムースに行われる。
「すぐに上手になりますよ」ヘルパーさんはこちらを向いて言った。
臭う。ついに来た。“便の付いたオムツ交換”父と私は顔を見合わせた。
新聞紙、濡れ布、介護用のビニール手袋、ペットボトルにお湯、新しいオムツの用意に奔走する2人。
失敗しては大変とお尻の下に敷くポリエチレン45リットルのゴミ袋まで用意した。
外科手術よろしく、介護用のビニール手袋をおもむろに付け、「横向かせて!」控える父に指図する。
「臭い!」言ってはならぬと思いつつ、またまた臭いを連発するしてしまう私。
さすが、長年連れ合った父。「臭い」を発しない。
と、思いきや、堪らず、臭い臭いと言い放っている。母には気の毒だが、やはり便は臭い。
言ったところで臭いが解消されるわけで無いが、痛い痛いというと何だか痛さが和らぐあの心境なのだ。
濡れた布を多量に使い、お尻にたっぷりお湯をかけ、またまた濡れた布で拭く。
きれいになったお尻は、実にいい仕事ぶりが反映されている。
「腰上げて」私の声に応じる母。「そっち、引っ張って」父に応援を求める私。
素人介護。母はまさに実験台、なされるがままに体を動かす。
たかがオムツされどオムツなのだ。
広げた新聞紙の上には、汚れたオムツとティッシュ、濡れ布、ビニール手袋が山積みになった。
助手の父はこちらの様子を伺い、それらを新聞紙で上手に丸めた。
要した時間は残念ながら計ってないが、真冬だったらお尻は完全に冷えている。
「やっぱり、慶子は上手。他の人より上手」と母は得意気に私を見た。
まだらボケの母。まだ親バカは健在だった。
あれから、1ヶ月半。母は痴呆病棟にいる。ピントは大分ぶれて来た。
親バカは子どもへの愛情の贈り物である。
大ボケ前の母。ひょっとしたら、あれが最後の親バカかもしれない。
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