2005.11月12日
偽物礼讃(ソウル旅行記)
南大門市場。
両側にずらりと並んだ洋服屋、ずらりと並んだタオル屋、食品等々が縦横に連なる大市場。
闇市のどさくさと、アメ横の賑わいと、築地の活気とが混在しているような市場である。
グッチにヴィトン、シャネルにコーチ。市場はブランドのコピー商品で溢れていた。
「どんなものが欲しいですか、とにかく言ってみて下さい」とカバン屋の店主は言う。
近頃うるさくてと、曰くありげな顔つきで財布の入っている引き出しの鍵を開けるのだ。
「本物とまったく同じ」と言っても偽物。コピー価格の相場を承知で客は値切りを楽しむ。
観光客相手の客引き、通路に陣取る露天商、品物に群がる人々を避け市場を先に進む。
ブラジャー三枚、1万ウォン(日本円で千円)。買おうか買うまいか悩む仲間に、ソウル通の彼女は
「韓国の下着類っていい」とアドバイスをした。
アカスリ、スカーフ、下着類、生活必需品は買いだしたらきりが無い。
買えば荷物になる、ここは我慢と見過ごしたおばさん。
「ねぇ、10足買えば一足おまけだって」。
要するに11足で千円というソックスに出くわした。
このソックス、柄が何とグッチにエルメス、シャネルにヴィトン。
フェンディにディオール。ナイキにとアデイダス…、と言った具合なのである。
見るからに安っぽく、考えてもウソっぽい。
<趣味悪…>しかめっ面で選んでいると、
<あんた、買わんでいい>売り手のおばさんは、そんな顔つきでじろりとこちらを見た。
「可愛い!」「おみやげに最適!」思い切り良く20足選ぶ仲間たち。
「あと2足!」おまけの2足にはしゃいでいる。
派手過ぎず、何となくブランド的で、嫌味が無くてと、こちらは10足選ぶのにも一苦労だ。
おまけの一足に至っては、やっと決める始末。
こちらがそんな風だからか、売り手のおばさんはお金を渡しても無愛想に受け取った。
みやげに持ち帰った、この超コピーソックス。
あに図らんや亭主に大受け、娘に好評、息子は愛用なのである。
自分用のエルメス、フェンディ柄、試して穿いてみれば、
穿き心地すこぶる良く、洗濯OK、見た目もグー。ブランド柄に恥じない商品である。
一足91円とはいえ、足代が掛かっているこのソックス。
安っぽいけど、ブランドのリッチさを醸しだす。
<よそ行きに>と、タンスにしまったおばさんだった。
真っ赤な偽物また楽しである。
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