2005.9月6日
風の盆
「おわら風の盆、見に行ってみるか」。はとバスの旅行案内を広げた亭主。
朝、バスで新宿を出発。富山県の八尾の町まで突っ走り、まる一日で往復するという強行バスツアーだ。
「バスで寝るなんて疲れる」とは言ってみたものの、行ってもみたい。
おわら風の盆はちょっとの雨でも中止というが、旅を決めるのはその時の勢いだ。
9月1日、晴れ。葡萄畑の向こうに山を望む関越道、色づいてきた稲を見ながら信越道を抜け、
日本海を右手に眺めながら北陸道をひた走る。
立春から数えて二百十日目のこの時期は台風の厄日とされる。
三日三晩踊りあかすという風の盆、風水害を治めるように祈る行事という。
盆と言うのは、“休み”という意味があるのだとバスの添乗員は話した。
「だからお店というお店は、みんな閉まってます。何も売っていません」と添乗員。
観光バスの止まる場所には屋台が出ていますけれどと付け加え、ます寿司弁当の注文を取り始めた。
というわけで、最後のサービスエリアでます寿司を受け取り、早々に夕食を取っている乗客多し。
バスを降りると八尾の町は暑かった。
人の波は八尾の町に流れる。雪洞(ぼんぼり)に沿って急な坂を上がり路地に出た。
あちらの路地、こちらの路地で場所を陣取り、踊りが始まるのをひたすら待つ人々。
店は閉まっているどころか、「っらしゃい!」若者たちが威勢よくお客を呼び込む。
みやげ物屋に飲み物屋、蕎麦屋に食事処、観光客相手のにわか店舗も多い。
祭りの定番である屋台がずらりと並ぶ。北陸露天商総動員といった具合なのである。
今年のおわら風の盆、繰り出す観光客は20万人という。稼ぎ時でもあるのだ。
路地にはそれぞれの味がある。西町、諏訪町、上新町、鏡町の路地を見た。
西町に戻り東町の路地に入ったところで足を止めた。板切れ、道具がぶる下がった店の前だ。
「この町は若い人がたくさんいて活気がありますね」店の主人に声を掛けたおばさん。
指し物師というこのご主人の笑顔に惚れて、亭主は写真を撮らせてもらってる。
ほろ酔い加減のご主人が言うに「いつもは年寄りの多い、寂しい町ですよ。食堂だってほとんど
無いしね。風の盆には親戚の若い者や、近くの町の若い者がたくさん応援に来るから」と、
賑やかな町を眺め目を細めた。
風の盆が通り過ぎると、八尾の町は長い静かな盆になる。 目次へ