2005.8月24日
ほうずき哀歌



ご近所Nさんの玄関前、ホオズキの鉢が入り口脇、階段の手すりにぶら下がっている。

丸みをもった三角錐の鬼灯(ほうずき)は何やら幼子を連想させ可愛らしい。

こどもの頃、ホオズキは夏の遊び道具だった。

ホオズキをの実をゆっくり揉む。柔らかくなったホオズキは茎からうまく離れるのだ。

茎が付いていたところが種を出す穴になる。皮を破らぬよう慎重に少しずつ中から種を

楊枝で取り出す。もうちょっとのところで破れるから最後まで気が抜けない。

それだけに、うまく仕上がった時の喜びは大きかった。

水ですすいだ橙色の風船に、そおーっと空気を入れて膨らまし、舌の上に乗せ潰して音を出す。

「ずーっ」何のことはない潰れるだけの音である。この無様な音が妙に楽しかった。

この時ホオズキの香りが口の中にかすかに広がるのだ。


8月もそろそろ終わりだというのに、まだ赤い実を付けているホオズキを見ながら、

その下に付いている風鈴をちょんと揺らした。

話しを終え玄関に入ろうとしていたNさん、こちらの様子を見て

「去年の風鈴は、あれよ」と指さした。

ホオズキ市。功徳日といって、その日に参詣すると四万六千日参詣したことになるという。

「4万6千日のご利益!」と驚くと、Nさんは家に入るどころか、

「あんた知ってる? 昔、ホオズキって避妊具だったのよ」と講釈が始まったのである。


「昔の女性はね、ホオズキの茎で堕胎したんだって」。

Nさんは子ども時代、ホオズキを庭に植え親に叱られたことがあったそうだ。

子どもを堕す道具が庭に植わっているのは縁起でもないというのである。

「何年か前、鉢のホウズキを庭に植えてみたの。植えるものじゃないわね。繁殖力が旺盛なの

でびっくり。で、全部引っこ抜いたら根っこも真っ直ぐなのよ。“なるほど”って思ったわ」。

ホオズキの枝があまりにも真っ直ぐなので堕胎に用いられたことを確認したと真剣に話す。

「こうして吊るしておくのがいいのね。土に植えちゃだめなのよ」。

子ども時代、親から言われたことをそれとなく守っているのだ。

知らなかった、知らなかった、女性の抱える苦しみがホオズキに隠されていたとは…。


彼女の説が正しいか否か、疑っているわけではないけれど、ネットで検索。

ホウズキは咳止め、解熱、利尿、そして生理不順や生理痛、便秘にも効くようだが、

飲みすぎると堕胎の危険もあると書かれてある。

茎には麻酔性の物質が含まれており膣口から挿入し直接突き刺し堕胎する道具にしていた

とも書かれてあった。

田植えや草取りなどの一番忙しい時期、その頃に妊娠しては人手が足りなくなる。

その時期の妊娠を避けるため、農家の嫁はホオズキの実を飲まされたとか…。

夏の終わり、汗ばむ体を拭きながら、ホオズキに込められた女性の哀しみを思い遣った。

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